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<ライブレポート>デュア・リパ、6年ぶり来日公演で見せたトップ・アーティストの美しい姿

 アップリフティングなビートに合わせて、エアロビクスを彷彿とさせるアグレッシブな動きを披露するダンサーたちが、ステージから会場へと力強いエネルギーを放出していく。大熱狂の観客たちの前に登場したデュア・リパは、巨大なスクリーンに投影された「TRAINING SEASON OVER」という言葉とともに、この日のライブの幕を開けた。そう、自宅でひたむきに自分と向き合うトレーニングの時期は終わったのである。私たちは、ずっとこの瞬間を待っていたのだ。

 2024年11月16日、17日の2日間に渡って、さいたまスーパーアリーナで開催された【Radical Optimism Tour】は、デュア・リパにとって約6年ぶりの来日公演だ(本稿では17日の模様をお届けする)。前回は、前年のサマソニ出演に続くファースト・アルバム『Dua Lipa』のツアーの一環としての来日であり、Zepp Tokyoという会場規模や当時の状況など、全体的に「現在ブレイク中の期待のニューカマーが来日!」という印象が強かった。今回の公演の規模や、(急遽開催されたタワーレコード渋谷店でのサイン会を含めた)ファンの熱狂ぶりを見れば、今回の来日が当時とはまったく性質の異なるものであるということは、当時を知らなかったとしても容易に推測することができるだろう。

 6年という年月は決して短い期間ではなく、特に近年においては尚更だ。この間に起きたもっとも大きな変化といえばパンデミックの到来であり、2020年3月にリリースされたデュア・リパのセカンド・アルバム『Future Nostalgia』は、鬱屈した自粛期間を過ごすにあたって、(期せずして)これ以上ないほどのサウンドトラックとなった。彼女がリスペクトしてやまない80’sのディスコ・ポップを、タイトに引き締まったプロダクションと力強い歌唱によって現代的なテイストに仕上げた同作品は、まさに当時の人々が求めていた楽観主義(Optimstic)的なムードに合致したのである。そして、パンデミックが明ける頃には、彼女は世界中の音楽フェスティバルでヘッドライナーを切望されるほどの圧倒的な支持を獲得していた。

 2022年に開催された【Future Nostalgia Tour】では来日公演が実現しなかったこともあり、今回の来日公演は、パンデミックの時期を彼女の音楽とともに過ごしたファンにとっては、まさに悲願とも呼べるものだったのではないだろうか。ステージに登場したデュアに寄せられる凄まじい歓声や、冒頭を飾った「Training Season」の大合唱、さらに立て続けにキラー・チューン「One Kiss」が放たれた時の会場を埋め尽くす悲鳴にも似た絶叫は、確かにそれを証明していたように思う。

 今回のツアーにおける最も大きな特徴は、ほぼ全編に渡ってバンド・セットでの演奏が展開される上に、どの楽曲にも巧みなアレンジが施され、さながら「バンドによるDJミックス」のようなステージになっていたということだ。全体としては4部構成に分かれており(アンコールを除く)、冒頭の流れから勢いを止めることなくキック・ドラムやベースラインを強調した力強い演奏でフロアをどこまでも盛り上げていく第一部(「Training Season」~「Levitating」)、西海岸を彷彿とさせるようなレイドバック感のあるアレンジで、すっかり肌寒くなってきた11月の会場に爽やかな風をもたらした第二部(「These Walls」~「Pretty Please」)といった具合に、これまでにリリースした楽曲を自在に織り交ぜながら全体のムードを作り上げていく。今年5月にリリースされた最新作『Radical Optimism』では、Tame Impalaの活動で知られるケヴィン・パーカーや、A. G. Cookやソフィーを輩出したPC Music勢の中でも特に捻れたサウンドを鳴らすダニー・L・ハリーらを招いたサイケデリックなダンス・ポップが繰り広げられていたが、今回のセットはまさに同作を制作したことによって手に入れた、幅広い表現力があるからこそ実現できるものに他ならないだろう。

 その中でも特に強烈なハイライトとなっていたのは、「Pretty Please」の後半から突入した第三部(「Hallucinate」~「Cold Heart」)だ。バンドメンバーがステージから退場し、代わりに強烈なハウス・トラックが鳴り響くと、どこか懐かしくスタイリッシュなVJとともに90年代のUKのダンスシーンを想起させるようなアンダーグラウンドのムードが会場全体を覆い尽くしていく。キャリア屈指のダンス・ナンバーである「Hallucinate」は勿論だが、ほとんど原曲のアレンジを留めないほどに解体され、強靭なレイヴ・アンセムへと変貌した「New Rules」の壮絶な盛り上がりは、間違いなく6年前には想像できなかった光景だ。さらにハウス・アンセムの「Electricity」、会場中が観客のライトで照らされた「Cold Heart」と繋ぐことによって、早朝のナイトクラブのような高揚感へと導いていく構成も素晴らしく、各時代のダンス・ミュージックにリスペクトを捧げてきたデュアならではのポジティブな空間が会場全体に広がっていった。

 そして、本編の最後を飾る第四部(「Anything for Love」「Happy for You」)では、繊細なピアノ・バラードを起点に、力強く、堂々とした歌声によって壮大なサウンドスケープを描き上げ、会場全体に広がる多幸感を、あまりにも見事に昇華してみせる。そこには、「期待のニューカマー」として語られていた6年前のような初々しい頃の面影はほとんどなく、鋭い眼差しとともに巨大な会場を完全に掌握し、確かな想いとともにファンを理想郷へと導こうとするトップ・アーティストの美しい姿があった。

 実のところ、ここでライブが終わってしまったとしても、十分に満足した状態で帰ることはできただろう。だが、会場全体に響き渡る「Let’s get physical!」の大合唱で幕を開けたアンコールでは、この瞬間まで取っておいた名曲群が次々と披露され、まさにパーティーが怒涛のクライマックスへと向かっていく。特に、華やかなピンクの演出が彩る「Dance the Night」から大ヒット曲「Don’t Start Now」へとシームレスに繋がれていく展開と、それを祝福するかのように降り注ぐ大量の紙吹雪が舞う光景は、まさに「この景色をずっと観たかった!!!」と心から思わせてくれるほどのもので、大袈裟な言い方かもしれないが、パンデミックを乗り越えた私たちへのプレゼントのような瞬間であるように感じられた。

 とはいえ、パンデミックが過ぎたからといって生活が良くなったのかというと、そうとも言えないのが実情だ。むしろ、「まだあの頃はマシだったのでは」と思うような出来事が続いているようにも感じられてしまう。

 この日、デュア・リパは「ここでは、この場所、この瞬間、私とあなた、私たちの存在だけが重要なの。私たちの人生や、外の世界で起きている出来事は気にしないで。ただ、楽しみましょう」と語っていたが、きっとそれこそが『Radical Optimism(≒急進的楽観主義)』の精神なのだろう。パンデミックを乗り越えた時と同じように、私たちは再び踊りながら日々を生き抜いていくのだ。ライブの最後を飾った「Houdini」の大団円を迎える頃には、すっかりそのエネルギーが全身に満ちあふれているように感じられた。

Text:ノイ村


◎公演情報
【Radical Optimism Tour】
2024年11月16日(土)17日(日)
埼玉・さいたまスーパーアリーナ
<セットリスト>
1.Training Season
2.One Kiss
3.Illusion
4.End of An Era
5.Break My Heart
6.Whatcha Doing
7.Levitating
8.These Walls
9.Be The One
10.Love Again
11.Pretty Please
12.Hallucinate
13.New Rules
14.Electricity
15.Cold Heart
16.Anything For Love
17.Happy For You
≪アンコール≫
18.Physical
19.Dance The Night
20.Don’t Start Now
21.Houdini

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