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<ライブレポート>甲斐翔真、夢のオーケストラコンサートで観客を贅沢なひとときへ

 甲斐翔真がフルオーケストラと共演した【billboard classics 甲斐翔真 Orchestra concert 2024】が、10月11日にすみだトリフォニーホール 大ホールで、10月14日に京都コンサートホール 大ホールで開催された。

 ミュージカルとオーケストラを愛する甲斐ならではの選曲とアレンジで極上のコンサートを構成し、最高の歌唱で満員の観客を魅了した。指揮は西谷亮、東京公演は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、京都公演は大阪交響楽団、また、ゲストは東京公演は小池徹平と愛希れいか、京都公演は昆夏美、城田優が出演した。

 幕開きはオーケストラによる「スペイン奇想曲 作品34 第4,5楽章」。コンサートのオーバーチュアとして、華やかで壮大な音楽がホールを包んだ。いくつかの候補曲の中から、オーケストラの魅力届けるのに最適だと、甲斐自身が選んだ曲。フルオーケストラならではのすべての音が一体となった音楽のうねりはもちろん、楽器一つひとつのソロパートから、この楽器はこんな音がするのかと改めて知ることもできる楽曲だ。そして、優雅な前奏とともに、白タキシードの正装姿の甲斐が登場すると、大きな歓声が上がった。一曲目はディズニーメドレーで、『美女と野獣』の「Be Our Guest」を「よう・こ・そ~」と歌い始めた。会場を訪れた観客を、ホストである甲斐が迎えるのにぴったりのナンバーだ。続いて『アラジン』より「ホール・ニュー・ワールド」、『ラプンツェル』より「輝く未来」、『アラジン』より「Friend Like Me」と歌い繋いだ。甲斐がディズニー楽曲を歌うのは新鮮だが、キラキラと発光する甲斐自身と、アラン・メンケンの煌めくメロディが合わさって多幸感に包まれた。

 2020年にミュージカルデビューしてから、飛ぶ鳥を落とす勢いで数々の作品の主要キャストを務め、その実力と人気が上昇し続けている甲斐。自身最大規模の開催となったコンサートの冒頭で「緊張するかと思ったら楽しくなっちゃった!」と満面の笑顔で客席に語りかけ、「だって夢だったんです!」とオーケストラに呼びかける。その姿に、観客も指揮者もオーケストラも、笑顔と拍手で応えた。続く楽曲は、『ノートルダムの鐘』より「僕の願い」。ミュージカルを志してから練習曲として歌い続けてきたという同曲を、伸びやかに歌い上げた。

 そして、ゲスト歌唱のパートへ。東京公演では、愛希が『ルドルフ・ザ・ラストキス』より「愛してる、それだけ」、京都公演では昆が『ウィキッド』より「魔法使いと私」を歌った。どちらも二人が本公演に出演したことがない作品の楽曲だが、コンサートならではの耳福の出会いだった。そして、このコンサートのハイライトのひとつとなったのが、『キンキーブーツ』からのデュエット。東京公演では甲斐と小池が「Not My Father’s Son」を、京都公演では甲斐と城田が「Hold Me in Your Heart」を、静かに熱い想いを込めて歌い合った。初演からチャーリーを演じてきた小池、2022年公演でローラを演じた城田、上演が決定している2025年にローラを演じる甲斐、新旧キャストが共に歌い、襷を渡していく特別な機会となり、感慨深いシーンとなった。続けて、東京公演では小池が『1789 -バスティーユの恋人たち-』より「サ・イラ・モナムール」を力強く、京都公演では城田が「夢の種~I’ll be by your side」を情感たっぷりに届けた。歌唱後は、ゲストを交えたトークコーナーで、それぞれとの出会いや印象など和やかに語り合った。4名のゲストは甲斐の先輩にあたるが、誰からも愛され、頑張れと背中を押されている様子は、ミュージカル界の絆を垣間見たようだった。

 1幕ラストは『October Sky -遠い空の向こうに-』より「星を見上げて」。甲斐の初単独主演ミュージカルで、ロケットに恋した主人公が星空を見上げて夢を掴むと希望を歌い上げるナンバーだ。オーケストラコンサートという夢を叶えた甲斐自身ともリンクして眩しく輝いていた。より太く強くなった高音が伸びやかに広がって、広大な星空を描き出した。

 2幕は『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』の「El Tango De Roxanne」からスタート。真っ赤なライトに包まれた舞台に、黒いスーツ姿で甲斐が登場。艶やかに色めいたバイオリンのソロと、情熱が迸る甲斐の歌声のコラボレーションに高揚する。続いて『ロミオ&ジュリエット』より「僕は怖い」。本公演では録音音源で上演されているので、生のオーケストラの音楽で歌いたいと熱望した曲とのこと。青いライトに包まれたホールの中でオーケストラの音楽にたゆたい、その大きなうねりの中で、僕は怖いともがく。その様子から、波の音だけが聞こえてくる真っ暗な夜の海辺で、月の光が雲の隙間に現れ消えていくような情景が浮かんできた。

 喝采の拍手が鎮まると、静寂を挟んで奏でられたイントロに鼓動が高まる。イントロを聴いただけで、ミュージカルファンが「この曲は!」と興奮する楽曲だ。東京公演は『デスノート』より「ヤツの中へ」。2020年に夜神月を演じた甲斐と、2015年初演と2017年再演でLを演じた小池との夢のコラボレーション。ヒリヒリとした駆け引きの中、互いしか分かり合えない、ずば抜けた能力を持つふたり。お互いを探り合うソロパートは個性が際立っているのに、ユニゾン部分ではふたりの声が溶け合っていく。まさにその場面が浮かび上がる見事な対決だった。一方の京都公演は『エリザベート』より「闇が広がる」。2022-23年にルドルフを演じた甲斐と、2010年、2015年、2016年にトートを演じた城田との、こちらも同じく夢のコラボレーションだ。数年前に歌う予定があったが実現できなかった経緯がありリベンジの機会にもなった。囁きかけながらも威圧的な圧倒的城田トートと、真っ直ぐであるがゆえに崩壊していく甲斐ルドルフが、全力で歌い合うデュエットは、観客を震え上がらせるパワーを放った。

 甲斐が自らミュージカル作品のようなストーリー仕立てで構成した今回のコンサートは、1幕は希望に満ちた楽曲が、2幕は“闇堕ち”ソングメドレーの大曲が並んだ。そのピークとも言えるのが『モーツァルト!』から「影を逃れて」。現在上演中の同作品を初観劇して、歌ってみたいと挑戦したそうだが、初めてとは思えない見事な歌唱で唸らされた。甲斐の迫力ある豊かな歌声はドラマ性を高め、もがき焦燥する姿からは色気さえ溢れ出ていた。そして、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』から「Come What May」を、東京公演では愛希と、京都公演では昆とデュエット。2023年、2024年とクリスチャンを演じ切った甲斐がリードし、二人を包み込んだ。愛がホールに充満していく珠玉のデュエットとなった。ラストは全員で『スカーレット・ピンパーネル』より「ひとかけらの勇気」。3人の歌声とオーケストラが合わさり、ホールを音楽で埋め尽くした。

 大歓声と大拍手に応えたカーテンコールは、『エリザベート』より「最後のダンス」。この曲に繋がっていく舞踏会の音楽を、最初にオーケストラが奏でるという演出が心憎い。フルオーケストラでの演奏ゆえに、本公演の演奏にはない楽器の音も聴こえてくる。薄暗いステージに、そっと登場した甲斐は、静かに歌い出した。歌い手によって様々な表現をする自由度の高いナンバーだが、甲斐は特にビブラートとシャウトの個性が効いていた。圧巻の歌唱でホールを支配した甲斐トート。観客を恍惚とさせ、熱狂の渦へと導いた。

 オーケストラのパワーに負けないエネルギーで全曲を見事に歌い切った甲斐の力量に、改めて感服した初めてのオーケストラコンサート。会場の隅々にまで感無量の思いを伝え、今後も年一回で続けていきたいとアピールした。甲斐の歌声とオーケストラの贅沢な音楽にどっぷりと浸かることができる、特別なコンサートとの再会を心待ちにしたい。

text:岩村美佳 
photo:岩田えり(東京)、河上良(京都)


◎公演情報 ※終演
【billboard classics KAI SHOUMA Orchestra Concert 2024】
2024年10月11日(金)東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
2024年10月14日(月・祝)京都・京都コンサートホール 大ホール

出演:甲斐翔真
スペシャルゲスト:
【東京】小池徹平、愛希れいか
【京都】城田優、昆夏美
指揮:西谷亮

管弦楽:
【東京】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【京都】大阪交響楽団

編曲・監修:山下康介
編曲:萩森英明、志倉知実、海沼みきな、池田明子

<セットリスト>
第1部
M1 スペイン奇想曲 作品34 第4,5楽章
M2 ディズニーメドレー
(Be Our Guest/ホール・ニュー・ワールド/輝く未来/Friend Like Me)
M3 僕の願い
M4a 愛してる、それだけ(東京)
M4b 魔法使いと私(京都)
M5a Not My Father's Son(東京)
M5b Hold Me in Your Heart(京都)
M6a サ・イラ・モナムール(東京)
M6b 夢の種~I'll be by your side(京都)
M7 星を見上げて

第2部
M8 El Tango De Roxanne
M9 僕は怖い
M10a ヤツの中へ(東京)
M10b 闇が広がる(京都)
M11 影を逃れて
M12 Come What May
M13 ひとかけらの勇気
EC1 最後のダンス

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