2024/08/16
2024年3月にグローバルデビューシングル『JUST SLACK OFF』をリリースしたばかりの、中国出身の女性シンガーソングライター・Victoria Nan。早くも次なるシングル『門禁青年的独白(22:00)』を8月16日にリリースするのだが、そんな彼女と本作のアレンジを担当した音楽家・カワムラヒロシとのオフィシャル対談インタビューをここに公開する。
それぞれの音楽ストーリーや『門禁青年的独白(22:00)』制作秘話について語ってもらう中で見えてきた、中国と日本の音楽シーン含む文化の共通点(Victoria Nanは『今日から俺は!!』賀来賢人のファン!?)や、そこに生きる若者たちの心情などなど。この組み合わせの対談だからこそ聞くことができた、とても有意義な内容となっているので、ジャンル問わずあらゆる音楽フリークにご覧頂きたい。
※『門禁青年的独白(22:00)』の「門」は、正式には中国語漢字
<Victoria Nanの音楽ストーリー~中国の音楽環境~>
--中国と日本の国境を越え、Victoria Nanさんの楽曲アレンジをカワムラヒロシさんが手掛けることになった経緯から教えてもらえますか?
カワムラヒロシ:僕はずっとNakamuraEmiというアーティストにプロデュース、アレンジ、ギタリストとして関わらせて頂いていまして。今、HTE RecordsでVictoria Nanを担当しているマネージャーが学生時代から聴いてくださっていて、今回Victoriaの新曲のアレンジャーを探す際に僕のことを思い出してくれたんです。それでご連絡頂いたのがファーストコンタクト。
--なるほど、マネージャーからの提案だったんですね。
カワムラヒロシ:そこからVictoriaの前作『JUST SLACK OFF』を聴かせて頂いたら、声がすごく印象的だったんです。とても好きな倍音の持ち主で。僕はわりと語調がはっきりしたタイプのボーカリストと仕事することが多くて、Victoriaみたいな声のタイプのシンガーとあんまり作品で関わったことはなかったので、「これはすごく面白そうだな」と思って引き受けさせて頂きました。
--そんなカワムラさんによる『門禁青年的独白(22:00)』のアレンジを聴いたときは、どんな印象を持たれましたか?
Victoria Nan:カワムラさんがアレンジを手掛けてくれた最終的な音源を最初に聴いたときは、デモの音源とまったく異なる印象を抱きました。私はそれが物凄く嬉しくって。すごく良い楽曲に仕上げてくれたなと感じています。
--その新曲の話を掘り下げる前に伺いたいのですが、そもそもVictoriaさんはどんな音楽を聴いて育ち、自らも音楽を世に届けたいと思うようになったんでしょうか?
Victoria Nan:私はいわゆるZ世代で、小さい頃からサブスクで音楽を聴くことがあたりまえだったので、いろんなジャンルの音楽を聴いて育ったんです。なので、特定のジャンルに影響されて育ったというよりは、わりと幅広くいろんなジャンルの音楽に影響を受けてきたんですよね。MONKEY MAJIKなど日本の音楽も子供の頃から聴いていました。そんな中で、学生時代のイベントやネット上でいろんな人たちの曲をカバーしていたんですけど、自ら音楽を創作しようと思ったのは、自分の生活で感じたことや自分の感情をそのまま歌という媒体を通して表現したかったからなんです。それが私の音楽制作の源流。そのうえで文学や映画の影響を受けて楽曲制作することもよくあります。
カワムラヒロシ:Victoriaと同世代の、日本のアーティストと同じような環境で音楽を始めているんですね。国は違えど音楽の発信方法は変わらないんですね。
Victoria Nan:そうですね。音楽を発信していく上での不自由さは、特に感じたことはなかったです。今は多くの海外の人たちが中国のSNSや配信サイトを使って自ら発信することが多くなっていて、その結果として中国から海外へ、海外から中国へ音楽も含めていろんな情報が行き来しやすくなっているんですよね。あとは、ネットでの繋がり以上に、海外のアーティストの音楽を直接ライブで体験できる機会が増えていることも大きいと思います。特にコロナ禍明けの近年は、いろんな海外のアーティストが中国でライブするようになったので、私も何組か日本のアーティストのライブも観に行かせてもらっていて。それは私にとってサブスクやSNSで聴いていた音楽の何倍も感銘を受けるものでした。
<Victoria Nanは『今日から俺は!!』賀来賢人のファン!?>
--ちなみに、どんな日本のアーティストのライブをご覧になられたんでしょうか?
Victoria Nan:shing02さんのライブも観させてもらいましたし、西原健一郎さんのライブへも伺いました。いずれも素晴らしい音楽体験になりましたね。あと、これは配信サイトで観たものになるんですが、藤井風さんや米津玄師さんのライブにも感銘を受けました。なので、中国における情報規制は、昔に比べてかなり緩やかになっていると思います。音楽ではありませんが、日本で大ヒットしたドラマ『今日から俺は!!』は中国でも大人気だったので! 私も大ファンで観ていました。それがきっかけで主演だった賀来賢人さんのことを知って、賀来賢人さんが音楽をやっていることも知って……実は陰ながら応援しています(笑)。
--ファンなんですね(笑)。
カワムラヒロシ:すごく良い話を聞けましたね。特にサブスクよりライブで聴く音楽に感銘を受けている話は聞けて嬉しかったです。僕も今、NakamuraEmiのライブツアーをまわっているところなんですけど、若い子たちが「サブスクがきっかけで初めてライブに来てみたらビックリした!」って言ってくれたりするんですよ。生の音楽の力にちゃんと魅せられている。3,40代にとってはライブの魅力ってあたりまえに知っていることだと思うんですけど、サブスク時代に生まれ育った世代のVictoriaもそれを実感しながら、自らの音楽を発信していっているというのは、なんか救われますね。若い世代の方が音楽を楽しめる伸びしろがまだまだあるんだなって、すごく期待を持てますよ。日本のアーティストが中国に行って、それをVictoriaが体感して、ライブを通して交流している感じはすごく良いなって思いました。
Victoria Nan:サブスクや配信サイトで音楽を聴くよりもライブのほうが大好きなんですよ。ライブは照明や音響効果、演出もあって、より幸福で自由な音楽体験ができますからね。ミュージシャンの立場からしても自由に表現できるじゃないですか。音源ではなかなか出来ないアレンジ、観客とのコミュニケーションも含めてライブにしか出来ない挑戦がたくさんある。なので、聴き手としてもミュージシャンとしてもライブは私にとって特別なものなんです。
<30歳からの挑戦──カワムラヒロシの音楽ストーリー>
--カワムラさんはジャズギタリスト・小沼ようすけさんに弟子入りして以降、それこそNakamuraEmiさんや辻本美博さんなどのプロデュース、他にも錚々たる面々の作品やライブに参加されてきていますが、どのような経緯で今の音楽家としてのスタイルを確立していったのでしょう?
カワムラヒロシ:元々は、自分の母親がピアノの先生をやっていまして、父親もギターを弾いたりしていたので、子供の頃から音楽がよく鳴っている環境で育ったんです。その影響もあって、音楽教師になろうと思って大学の音楽科を卒業したんですけど、同時にギターも思春期の頃からずっと弾いていたので、プロの演奏家にもすごく興味が湧いてきて。なので、卒業後は音楽と勉強を教える仕事をしながら、その傍らでライブもやったりする生活を30歳ぐらいまでしていたんですけど、その途中で小沼ようすけという私の師匠になる方のライブに衝撃を受けて。「今、プロになる為の挑戦をしないとダメだな」と感じて、仕事を辞めて小沼さんに弟子入りしたんです。
--そういう流れでの弟子入りだったんですね。
カワムラヒロシ:付き人みたいな感じで一緒にライブツアーをまわりながら、ギターを教えてもらう生活をしていました。同時に自分の仕事も見つけていかなきゃいけないので、その中でいわゆるシンガーの人たちとご一緒する機会がちょっとずつ増えていって、シンガーとギター、或いはシンガーとギターと他の楽器でライブしていく中で、ライブ用にアレンジすることが当たり前のように行われるんですね。で、あるとき「今やってる作業ってアレンジャーの仕事と一緒じゃん」と気付きまして、そういう仕事にも興味を持つようになったんです。という状況下で冒頭に話したNakamuraEmiを最初にプロデュースすることになって、アレンジもそうですし、メンバーを選んだり、レコーディング場所を決めたり、予算を集めたりする仕事もやるようになったんですよ。
--数珠繋ぎのように様々な音楽にまつわる仕事をしていくようになったと。
カワムラヒロシ:そういうことが積もり積もって、Victoriaのマネージャーの耳に届いて、今回のVictoriaとも出逢うことになったんです。
Victoria Nan:出逢えてよかったです。カワムラさんは30歳で本格的にプロの音楽家を目指されたんですね。凄いな。見た目が若いからビックリしました!
<22歳の22:00の独白──中国の若者の心情が分かる新曲>
--そんなカワムラさんとVictoriaさんが出逢って完成した新曲『門禁青年的独白(22:00)』は、どんな想いやメッセージを込めて制作されたものなんでしょう?
Victoria Nan:今回の『門禁青年的独白(22:00)』は、22歳の心情をそのまま表した曲になっていて、なぜ22歳のときに「22:00」の曲を創ったかと言うと、私の誕生日は中国の旧正月にあたるんですけど、休日だから友達と夜遅くまで外で遊んでいたんです。そしたら家族から「もうちょっと早めに帰ってこい」と叱られてしまいまして。要するに「22:00」は、当時の私にとっての門限だったんです。
--なるほど。
Victoria Nan:でも、私はもう22歳の大人だから未来の人生のこともちゃんと考えているし、これはフックのパンチラインとして書いていることなんですけど、家族と寄り添う時間は限られているので、なるべく家族のそばにいたいとは思っているんです。私は大学を卒業しても家族と一緒に過ごしたいと思っていますし。だからこそ、もう門限で縛り付けてほしくない。門限は家族からしたら愛情の表れだと理解しているんですけど、もう大人だから独立した生活をする必要もあるじゃないですか。そういう矛盾した複雑な心情をそのまま表現した曲が『門禁青年的独白(22:00)』なんです。
--そんな「青年的独白」が込められた楽曲を聴いて、まずカワムラさんが何を感じ取ったのか。教えてもらえますか?
カワムラヒロシ:前作『JUST SLACK OFF』の声の印象で彼女のアーティスト性を想像していたんです。今作は英詞だったし、何を伝えようとしているのかも理解できる。そのうえで感じたのは、日本にはない文化。22歳でも門限があるというのは、日本ではなかなかないことじゃないですか。でも、それにただ反発するんじゃなくて、親の愛情深さゆえということも頭では理解できているっていう、要するにジレンマですよね。その部分を今回どうやって音で表現していこうかなと。そこが自分にとっての課題でしたね。
--結果、どんなアレンジを手掛けようと思ったんでしょう?
カワムラヒロシ:実は3パターンぐらいアレンジは移り変わっていったんですけど、最初は声をメインにもうちょっとフォーキーなアレンジにしていて。そこからディスカッションしていくうちに「いろんな要素を入れていきたい」ということでビートが中心のアレンジにしていったりして。でも、最終的にはそのビートを抜きつつ変化を持たせる感じに落ち着いたんですけど、いろんな感情の蠢きをリフのパターンとか様々な楽器で表現しながら、きっと彼女は未来へ向かう為に悩んでいると思うので、最終的にはそれを含めて、家族をとても愛しているし、でもイチ個人として前に進んでいく──という気持ちを表現できればと思ってアレンジは組んでみました。
--では、最後に、そんな『門禁青年的独白(22:00)』を聴いてほしいリスナーの皆さんへメッセージをお願いします。
Victoria Nan:私の曲を聴いてくれている日本のリスナーの皆さんの中にも、私と同じようなジレンマと相対している人もいるかもしれない。そういう人たちには、まず自分の好きなことをやり続けてほしいです。きっと困難もあるでしょう。その困難も醍醐味と感じて頑張り続けてほしいです。でも、自分の進みたい道へ向かって頑張りながらも、家族への愛情は忘れずに。ちょくちょく家族との時間も作ってあげてください。私もそうしていきたいと思っています。
カワムラヒロシ:今、Victoriaが話していたように、環境は違えど同じようにジレンマを感じている人も多いだろうし、ゆえにこの曲は共感する部分があると思うんですよね。それは若い子だけじゃなく、きっと世代を問わず。もっと言えば、人種や国境や性別の壁も取っ払うハブとしてこの曲が機能するかもしれない。そうなったらとても素敵だなと思うし、その中で今回のインタビューでもあったそれぞれの音楽文化だったり、その背景から生まれたものであったり、そういうことも知りながら理解し合える新しいきっかけになる気がするので、そうなったら嬉しいですね。そんな曲に今回携われてすごく有難かったです。ありがとうございます。そして、リスナーの皆さんはこの曲をたくさん聴いて下さい!
Interviewer:平賀哲雄
◎楽曲情報
ニューシングル『門禁青年的独白(22:00)』
2024/8/16 RELEASE
各配信サイトリンク
https://x.gd/FBc8A
Lyric(詞):Victoria Nan
Composer(曲):Victoria Nan
Music Arrangement(編曲):カワムラヒロシ
Mixed by カワムラヒロシ
Mastering by Tsubasa Yamazaki (Flugel Mastering)
Cover design:ery
※MVは同日8/16 19:00(中国時間)公開!
https://youtu.be/EiWCbNbg7Yo
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