2024/06/10
6月1日、Teleが【Live Tour 2024「箱庭の灯」】の初日にあたる東京公演を日本武道館で開催した。6月1日はTeleの誕生日で、1stアルバム『NEW BORN GHOST』のリリース日でもあるメモリアルな日。2022年に東京キネマ倶楽部で行われた初ワンマンからわずか1年半で日本武道館を埋めるアーティストへと成長を遂げたわけだが、基本的にツアーというのは本数を重ねるごとに演奏やセットリストが体に入ってきて、ファイナルで完成を迎えるもの。初日には初日の高揚感があるが、その会場がいきなりの日本武道館で、しかもこの日限りの特別な演出も組み込まれたライブであれば、相当なプレッシャーがあったであろうことは容易に想像できる。それでもTeleは素晴らしいパフォーマンスを披露して、日本武道館という大バコを鮮やかに照らしてみせた。
この日のステージには砂山を模したセットが組まれ、その中には4月にリリースされた新曲「カルト」のミュージックビデオでフィーチャーされた室外機をはじめ、信号や電柱などが無造作に置かれている。これは楽曲制作を自分のことを深く理解するためのカウンセリングと捉え、それは砂の入った箱の中に玩具を置いていく心理療法である「箱庭療法」を音でやっているようなものだというTeleの考えを具現化したもの。実際にその背景が直接伝えられたのはライブ後半になってからで、砂漠の中を走る列車に乗った老人と子供の会話を映し出したオープニングの映像含め、序盤はSF的な異空間に迷い込んでしまったかのような雰囲気が漂っていた。
キーボードの奥野大樹、ギターの庫太郎(NENGU)、ベースの森夏彦(Shiggy Jr.)、ドラムの森瑞希というサポートは過去にもステージをともにしたことのあるメンバーで、すでにバンドとしての完成度は十分。「カルト」のような仰々しいロックナンバーも、「あんたはあんたの踊りを見せてくれよ!」と呼びかけて披露されたポップナンバー「Véranda」も硬軟自在の歌と演奏で届け、徐々に場の空気を作り上げていく。Teleの楽曲の特徴である多彩なコーラスワークや、いくつかの曲で用いられるドラマチックなストリングスのアレンジは日本武道館のような大きな会場に映えるもので、特に中盤で披露された最新曲「花筏」からは彼の楽曲の持つスケールの大きさ、ポップミュージックとしての強度を改めて感じた。
映像も用いながら箱庭の世界観を作り上げた前半に対し、「ここからはパーティーです!」と言ってスタートした後半はフィジカルな側面が際立ったライブを展開。「私小説」のアウトロでジャンプをしたり、「バースデイ」ではサポートメンバーのソロをフィーチャーしながらTele自身も動き回ったり、とにかくエネルギッシュだ。キネマ倶楽部での初ワンマンを見たときから、Teleのライブはオーディエンスとの心の距離の近さ、親密さが魅力だと感じていたのだが、演出を重視した前半にあったある種の緊張感から解放された分、ライブ後半のオーディエンスとの一体感はいつにも増して特別なものがあったように思う。もちろん、その軸となるのはTele自身の求心力の高さであり、砂山を模したステージは起伏による高低差があるので、その中でパフォーマンスをするのは体力的にも楽ではなかったはずだが、ときに軽やかにステップを踏み、ときにはハイになって駆け回り、ときに俯いてトボトボ歩いたりと、Teleのショーマンシップの高さを感じる瞬間も多々あった。
この日のハイライトとなったのは、終盤に披露された「花瓶」。「この歌を書いたときはコロナで誰も声が出せなくて、ずっと誰かの声が聴きたいなと思って、パソコンに自分の声を何枚も何枚も貼って、一人を誤魔化してたんですけど、今日ちょっと気づいちゃったのは、どうやらもう一人を誤魔化さなくてもいいみたいです」という言葉に続き、マイクを口から離して生声で、「この先どれだけ大きい場所に行くかは僕にもわからないですけど、少なくとも、マイクを通さないと声が届かない会場までは行こうと思ってますから」と語ると、「一緒に歌おう、日本武道館!」という呼びかけに、場内からは大合唱が起こる。「もっと聴かせてくれ!」と熱っぽく煽り、イヤモニを外してその声に直接耳を傾けて、「This is our song! 今この瞬間、僕らの歌になったね!」と声を挙げたときの歓声のボリュームは、間違いなくこの日最大のものだった。
感情表現が上手くできずに花瓶を割る少女をモチーフにして、〈全部いやんなった!〉と目の前の現実に対する諦念や孤独や怒りをぶちまけながら、その一方で〈全部いやんなった?〉と「いや、本当はそんなことないでしょ? だって僕ら生きていかなきゃいけないんだし」と、虚無に抗う姿勢を見せる「花瓶」は、Teleという表現者のアイデンティティを強く示す一曲であり、この曲が日本武道館という大きな会場でシェアされる光景は、とても意味のあるものだったように思う。
「真っ暗な箱庭の中をずっと彷徨ってきたけど、箱庭を照らす灯は自分自身だということに気づいた」というメッセージとともに、ライブが映画のようなエンドロールで幕を閉じたとき、僕が連想したのはチャップリンの『街の灯(City Lights)』だった。不景気で貧富の差が拡大する中、チャップリン演じる浮浪者が盲目の花売りの娘の目を治すために奮闘する物語は、どうしようもない現実の辛さや厳しさ、人間の不完全さを描きながら、それでも無償の愛を届けようとする姿が感動を呼び、その姿こそが誰かにとっての灯であると伝えている。どこか「花瓶」のストーリーともリンクするし、Teleは「ロックスター」のミュージックビデオでチャップリンを模していたりもしたが、【箱庭の灯】には『街の灯』に通じる感動が確かにあった。君の人生の主役はいつだって君自身。君が君でいてくれたその瞬間、心が照らされたんだ。
Text:金子厚武
Photo:太田好治
◎ツアー情報
【Live Tour 2024「箱庭の灯」】
2024年6月1日(土) 東京・日本武道館
2024年6月14日(金) 新潟・新潟LOTS
2024年6月16日(日) 宮城・仙台GIGS
2024年6月21日(金) 広島・広島クラブクアトロ
2024年6月22日(土) 香川・高松オリーブホール
2024年6月27日(木) 福岡・Zepp Fukuoka
2024年6月29日(土) 愛知・Zepp Nagoya
2024年7月 9日(火) 大阪・Zepp Osaka Bayside
2024年7月15日(月・祝) 北海道・Zepp Sapporo
https://eplus.jp/tele/
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