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2024/03/30

<ライブレポート>野宮真貴のロックンロール・サーカス~志磨遼平をゲストに迎え、新たな伝説を生んだグラマラスなバースデー・ライブ

 2月14日のビルボードライブ横浜の【野宮真貴 Valentine's Day Live 2024 ~Be My Baby~】に続いて、3月の大阪・東京ではドレスコーズの志磨遼平をゲストボーカルに迎えた【野宮真貴 Birthday Live 2024 ~Glamorous Night~】を開催した野宮真貴。今回は渋谷系を支えたアート・ディレクターの故・信藤三雄が繋いだ縁により、志磨遼平との初共演が実現した3月12日のビルボードライブ東京公演の模様をお届けする。

 野宮真貴の誕生日当日、ビルボードライブ東京は華やかな雰囲気に包まれていた。彼女がビルボードライブで【野宮真貴、渋谷系を歌う。】を開催するようになって10年。東京の夜を渋谷系とそのルーツとなる音楽で彩り、スタイリッシュなパフォーマンスで観客を魅了してきた。11年目の今春の3都市ツアーは、いつもとは趣向を変えてスペシャル・ゲストとの共演で開催。2月のゲストでもあった小山田圭吾=Corneliusバンドの堀江博久をリーダーに、バンドも一新され、この日のステージの1曲目に「世界でいちばんファンキーなバンド」を持ってきたのはしごく納得だった。

 シルバーフリンジのミニドレスに身を包み、手にしたバトンを回しながら歌う野宮真貴は、まさに「ファンキーなレビューがはじまる」予感に溢れている。ピチカート・ファイヴの『ロマンティーク96』に収録されたこのナンバーを2024年のいまに響かせ、「Welcome to My Birthday Party! Welcome to The Circus!」と会場を煽る。続いて、ソフトロックを90年代にアップデートした「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」。今度はチアリーダーが使うポンポンを振りながら、軽快に歌い踊る。ピチカート時代からバトンやポンポンを用いて、ワクワクする楽しいステージやMVで魅了してきた彼女らしい演出だった。早くもミラーボールが回り、観客も手拍子でおおいに盛り上がる。

 「今日のテーマはロックンロール・サーカス。私の好きなロックやグラム、ポップスが飛び出します!」

 今夜は90年代に日本のバンドとしてはいち早くピチカート・ファイヴでワールド・ツアーを行い、ヨーロッパやアメリカのオーディエンスを熱狂させた野宮が、新しい「世界でいちばんファンキーなバンド」とともに贈る最新版ロックンロール・サーカスなのだ。

 「東京は夜の七時」も今回は2018年に野宮真貴と少林兄弟として発表したロカビリー・バージョンで披露。2月のザ・スクーターズとの共演も楽しかったが、どんなアレンジでも生きるこの曲の魅力をあらためて感じた。

 スツールに腰をおろした彼女は、自らの誕生日当日に「今日で43歳になりました。私は1981年にデビューしたので、年齢もそこからカウントすることにしました」と表明。さらに彼女が15歳のときに夢中になって以来「推し」続けてきたバンド、KISSへの愛を語った。大人になってからもN.Y.のマディソン・スクエア・ガーデンや最後のジャパン・ツアーまで追いかけたという彼女のロック愛はいまも健在。「50年活動を続けたKISSを見習って、できることなら私もミニスカートで歌い続けていきたい」という言葉に拍手喝采が起きる。そして、KISS屈指のバラード「Hard Luck Woman」を永井聖一のアコースティックギターで披露した。この曲はKISSフリークであるTHE YELLOW MONKEYのHEESEYがプロデュースし、2000年のソロアルバム『miss maki nomiya sings』に収録。そんな彼女のロック・マインドが今回のステージに隅々まで反映され、「Hard Luck Woman」からKISSの「Makin' Love」のメドレーでは永井の珍しいハードロック風のギター・ソロを聴けたのも楽しかった。

 80’sテイストのスパンコール・ドレスに着替えた野宮真貴が再びステージに登場し、ロックな流れはさらに加速。ピチカートで最もロックテイストが濃い「スーパースター」へ。「不機嫌そうに黙ってギターを弾いてる」ロックスターのイメージを膨らませながら、「スーパースター、ドレスコーズ・志磨遼平!」と、今宵のゲストを呼び出す。黒いレースのコスチュームをセクシーに着こなし、日本では貴重なロックスター感を醸す志磨遼平がオン・ステージ。スキニーでグラマラスな二人が揃って並ぶだけで画になる。ロックの色気が立ち上る。二人はピチカートのラストアルバム『さ・え・ら ジャポン』に収録された「キモノ」をデュエット。小西康陽がT.V.ジーザスに提供し、セルフカバーでは『キモノ・マイ・ハウス』のスパークスも参加したこのレアなナンバーを志磨と歌うというのが心憎い。華やかさや熱量だけでなく、妖しさや背徳感をも内包したロックを体現できる稀有な二人による「キモノ」は白眉であった。

 この二人の共演によるケミストリーを予測していたのが、信藤三雄だった。毛皮のマリーズ~ドレスコーズで縁のあった志磨遼平と、ピチカート・ファイヴから親交を深めてきた野宮真貴の共演を熱望していた信藤。「志磨くんと歌うのは自分への誕生日プレセント」と野宮が言えば、志磨は「学生の頃から聴いていたピチカート・ファイヴを野宮さんと歌えるのはファン冥利につきる」と語る。

 「僕がつくった歌を野宮さんに歌ってもらいたい」と志磨がセレクトしたのが、「すてきなモリー」。2010年のメジャー・デビュー・アルバム『毛皮のマリーズ』に収録され、ドレスコーズでも志磨が歌い継いでいる。恋するクレイジーな女の子を主人公にした歌詞と疾走感のあるポップなサウンドが今回の野宮のステージのテーマともピッタリ重なり、二人のヴォーカルの相性も抜群の素晴らしい選曲だった。

 「志磨くんにソロでもう1曲歌ってもらいましょう」。志磨はアコースティックギターを手に「まさかこんな日が来るとは……」と言葉を探しながら、「ピチカート・ファイヴの“東京”に憧れて上京しました」と話す。苦い経験や思い出を経て、信藤との出会いがあり、「そうしていつの間にか愛しい街になった“東京”におくります」と、「東京」を歌い出した。毛皮のマリーズのコンセプト・アルバム『ティン・パン・アレイ』の最後を飾る「弦楽四重奏曲第9番ホ長調『東京』」がこの日は、グラム期のデヴィッド・ボウイを彷彿とさせるアレンジで歌われたのは驚きと同時に深い感慨をもたらした。ステージ後方のカーテンが開き、東京の夜景をバックに歌う志磨に溜息が洩れる。<愛しきかたちのないもの 僕らはそれを“東京”と、呼ぼう>という歌詞が胸に迫り、東京を代表するクリエイターとして生きた“信藤三雄”に捧げられた曲のように思えてならなかった。

 大きな拍手と深い余韻を残し、志磨がステージを下りると、ピンクのファーを纏った野宮が登場。ビルボードライブからの夜景をバックに「窓の外 光るのはビルの灯り」というロケーションで披露されたのが「美しい星」。ピチカート・ファイヴの小西康陽の曲には不意を突かれるような美しい曲が潜んでいるが、中でも『プレイボーイ・プレイガール』収録のこの曲は出色。「美しくて遠い星のなつかしい人々」に続く最後の一行が亡き人の声のように聞こえてくる。

 「今日、お誕生日を迎えられて幸せです」── 本編ラストはピチカートの人気ナンバー「メッセージ・ソング」だった。バンドの弾むような軽快な演奏に愛の溢れるメッセージをのせて大切な人に届けるように歌い、彼女はステージを後にした。

 アンコールではカラフルなエミリオ・プッチのドレスとビニールのコート、60’sの女優のようなヘアスタイルに変身した野宮。三度のお色直しは彼女のステージではお馴染みだ。恒例の写真タイムのファンサービスもうれしい。お洒落で目にも楽しいエンターテインメントをキープし続ける姿勢は天晴れと言うしかない。さらに、アンコールに再び登場した志磨遼平も野宮にあわせてダンディなトレンチコートに衣装替え。志磨とバンマスの堀江も3月が誕生月ということで、同じく3月生まれのギャルソン役のヘアメイク 冨沢ノボルの音頭で客席と乾杯。「志磨くんのリクエストで大好きな曲を歌います」と、「三月生まれ」をデュエット。ラテン調の楽しい曲を二人がダンスしながら歌えば、観客も総立ちになるというもの。ラスト・ナンバーは、ワールド・ツアーでは世界中のファンを踊らせた「Twiggy Twiggy」。生バンドならではのロック&サイケデリック仕様の「Twiggy Twiggy」で会場は一体となって盛り上がった。

 「KISSを目指して50周年まで頑張ります」。最後は晴れやかな笑顔で大きな歓声に応えた。そして、終演直後にビートルズの「When I'm Sixty-Four」が流れるという粋なオチに、大人はこうでなくちゃと感心することしきり。

 自身のバースデーに信藤三雄トリビュートを交え、志磨遼平という稀代のロックスターをゲストに迎えて新たな伝説を生んだ野宮真貴のロックンロール・サーカス。渋谷系のその先へ、彼女の進化はまだまだ続く。


Text by Kyoko Sano
Photo by Masanori Naruse

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