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2024/03/15

<コラム>思わず二度見したくなる、ヨルシカ「晴る」MVの美しさに隠された違和感や息遣いまで伝わってくる繊細さ

 3月5日にYouTubeにて公開されたヨルシカの新曲「晴る」の映像が話題になっている。

 映像の再生回数は、公開から10日足らずで450万回目前。ヨルシカがこれまで公開してきた動画の中でも、とりわけ好調な滑り出しだ。3月13日公開のBillboard JAPAN総合ソングチャート“JAPAN Hot 100”のYouTube指標で初登場6位を記録し、同曲はチャートイン10週目ながら12位とロングヒットを続けている。

 映像制作を担当しているのは、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』のタイトルバックを手掛けた気鋭のCGクリエイター・森江康太。ヨルシカ作品では「ノーチラス」、「春泥棒」、「左右盲」の映像を制作しており、ヨルシカファンにとっては信頼の厚い、馴染みのタッグとなる。

 これまで、初回限定盤に小説を付属させ、楽曲と小説をリンクさせることで世界観を拡張した『盗作』や、ひとつのテーマを音楽と絵の2つの側面から描いた音楽画集『幻燈』など、音源そのもの以外にも意匠を凝らした作品を発表してきたヨルシカ。映像へのこだわりも並々ならぬものを見せてきた彼らは、クレイアニメと実写を融合させた「アルジャーノン」、水彩画のようなタッチの「第一夜」、CGを取り入れた「雨とカプチーノ」など、楽曲に付随する映像という枠組みを越えて、緻密でありながらも考察の余地のある映像作品を提示してきている。

 今回公開された「晴る」の映像も、細部まで描かれた季節感のあるアニメーションとともに、悲壮的でありながらも最後には前を向こうと思えるような物語が描かれている。

 映像の舞台は、大きな壁に隔てられている荒廃した街。戦争の爪痕を想起させるような描写があることから、戦後の街並みであるようだ。自宅のすぐ外だろうか、ベンチに横たわり眠っている少年の頬に、彼とよく似た瞳の色をした、父親と思しき男の手が触れる。〈目蓋を開いていた 貴方の目はビイドロ〉の歌詞で印象的に映し出される少年の瞳の澄んだ色と、街に漂う悲壮感の対比が印象的だ。

 なにかを探したり気にしたりする素振りを見せる少年と、ときにその少年に触れ、ときにあとを追いかける父親。通じ合っているようで、どこかちぐはぐな、すれ違っているようにも見える2人。多くのリスナーが抱くであろう、その小さな違和感を埋めるような展開が、映像後半では待っている。少年は何を探していたのか、父親はどんな事実に気付いたのか。敢えてここでは書かないことにする。

 映像を初めて見たリスナーはきっと物語が描く感動に包まれ、その多くが思わずそのまま二度目の再生をはじめることだろう。繊細なアニメーションが展開される一方で、その美しさに潜んで積みあがる小さな違和感。それらが映像の後半で一気に解決する気持ちよさと、様々な描写が頭の中で繋がっていくことでくすぐられる考察心。そして、大切な人を想う愛情が、見る者の心を締め付けるのだろう。

 映像の魅力は、そこで描かれる物語だけに留まらない。言葉なしに物語を伝える映像の中で、親子2人の表情がリスナーに物語を伝えるための大きなキーとなっている。

 たとえば映像後半、少年が涙を流すシーンでの悲痛な表情のゆがめ方や、父親がある事実に気付く際のショッキングな表情などは、臨場感の溢れるものである。表情だけで十二分に感情が伝わるほど繊細に描かれており、荒くなる息遣いまで伝わるようだ。2人の表情だけでなく、風に揺れる草木や空に浮かぶ雲、土のテクスチャーや建造物から雨がしたたる様子など、細部に至るまで丁寧に描かれたアニメーションは、それだけで見ごたえがある。「晴る」はテレビアニメ『葬送のフリーレン』第2クールのオープニング・テーマとなっているが、静謐な自然の描かれ方は、テレビアニメやその原作での自然の描かれ方を彷彿とするものでもある。

 楽曲と映像との関連も興味深い。リズムに合わせたアニメーションの動きやリップシンクといった、直接的な楽曲と映像のリンクはほとんど見られない「晴る」の映像。だからこそ、ラスサビの到来に合わせて青空をバックに2人が佇む1枚絵とともに「晴る」というタイトルが現れるシーンは、鮮烈な印象がある。そのシーンの直前は、雨の中涙を流す少年と事実に気付いた父親の姿が描かれる、悲しみに溢れた場面。そのシーンのあと、1枚絵を合図に映像の時系列も変化する。見る者にインパクトを与えながら、映像の転換点としての役割も果たしている印象的な演出は、見事の一言だ。

 これまでも多くの作品で、そのクリエイティビティを発揮してきたヨルシカ。今回の「晴る」はその中でもとりわけ多くの考察と感動を呼んでいる。親しみやすさと爽やかさを兼ね備えたサウンドとともに展開される、美しく、そして悲しい物語の「晴る」は、彼らの真骨頂と呼べる作品となっているのではないだろうか。

Text by 村上麗奈

◎リリース情報
ヨルシカ「晴る」
2024/1/5 DIGITAL RELEASE
https://yorushika.lnk.to/sunny

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