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2023/09/19

<ライブレポート>晩夏の会合、時空を超える歌の魔法――adieu約1年ぶりワンマンは念願のライブハウスで

 上白石萌歌による音楽プロジェクト、adieuが単独公演【adieu coucou -夏のつどい-】を開催した。

 2017年、島本理生による原作小説の映画化『ナラタージュ』の主題歌を担当し、野田洋次郎が作詞作曲を務めた同曲で、自身の名は伏せてアーティスト・デビューを果たしたadieu。これまでに計3枚のミニアルバムをリリースしており、昨年9月の3rdミニアルバム『adieu 3』には小袋成彬、澤部渡(スカート)、塩入冬湖(FINLANDS)らが楽曲提供。役者としての目覚ましい活躍はもちろん、熱心な音楽リスナーたちからの注目と高い評価も彼女の表現者としてのキャリアを語るうえでは無視できない。

 昨年10月にファイナルを迎えた【adieu TOUR 2022 -coucou-】以来、ほぼ1年ぶりの単独公演となった今回の【adieu coucou -夏のつどい-】は、本人の「スタンディングのライブを開催したい」という念願を叶えた一日だった。チケットはもちろんソールドアウトで、約700人収容のWWW Xは満員状態。定刻を数分過ぎた頃、幻想的なSEとともに演者が登壇し、ショーは開演を迎えた。

 ステージ中央にピンスポットの明かりが灯されると、カラフルなノースリーブニットとダークグレーのワークパンツを合わせた、夏らしい装いのadieuの姿が露わになる。オープナーはデビューシングル『ナラタージュ』からカップリング曲「花は揺れる」。段階的に奏でられていくバンドアンサンブルに導かれるように、adieuの透き通った歌声にも少しずつ熱がこもっていく。

 どこまでも美しいサウンドスケープ、ゆっくりと流れる静謐を突如切り裂くように鳴らされる歪んだギターがクライマックスを演出する「強がり」、そこから加速してadieuも「踊ろう」と楽しそうに身体を揺らした「旅立ち」へ。この日のバンド編成は、adieuの多くの楽曲でアレンジを担当するYaffle(Key)をはじめ、小川翔(Gt)、小林修己(Ba)、上原俊亮(Dr)といった4名の敏腕ミュージシャン。当初から舞台をライブハウスに定めていた今回のライブでは、彼らの確固たるミュージシャンシップに担保された演奏の身体性も極めて重要なエッセンスだ。

 作詞作曲を君島大空が手掛けた「春の羅針」は、背景に揺らめく光の映像が映し出され、その神秘的な詞世界への没入感をさらに強めていく。一転、MCでは顔をほころばせ、気恥ずかしそうに「皆さん、こんばんは。adieuです。ふふ」と挨拶。「1年に一度はこうして集って、同じ時間を共有できたら」という願いが、今回の演題“夏のつどい”には込められているという。

 「歌の中ではどんな場所にも行ける」「過去も未来もそうだし、すごく遠い場所とか懐かしい場所とか、いろんな人に会いに行けるし、昔の自分にも会いに行けるし、歌は自分を遠くへ連れて行ってくれるものだと思っている」そんなふうにadieuが語った歌のマジックは、どこか夏特有の解放感やノスタルジアとも重なる。その感覚に拍車をかけたのが、牧歌的なメロディーで紡ぐラブソング「穴空きの空」、そして終わりゆく季節を陽炎のように淡く、切なく描いた「夏の限り」の2曲だった。

 楽曲提供のカネコアヤノ節が全開、哀愁漂うフォークサウンドを軽快に歌い上げた「天使」。塩入冬湖(FINLANDS)提供の「シンクロナイズ」と「ひかりのはなし」はエモーショナルなギタープレイが耳を奪う一方、歌声の凛とした響きがそこに調和をもたらす。作家のシグネチャーがくっきりと刻まれた楽曲の数々。その中にも確かにadieuが歌うべき意味、彼女自身の揺るぎない表現欲求が宿されている。

 そんなadieuのとりわけ新境地を切り開いた「ワイン」は、今まさに大人になろうとしている“わたし”、青い季節を越えて成熟を果たしていく人間の歌であり、ひと夏の幻想のようだった単独公演【adieu coucou -夏のつどい-】、その本編ラストを象徴的に締めくくるエンディングだった。そしてアンコール1曲目。披露されたandymori「16」の弾き語りカバーは、adieuいわく「10代の頃からものすごく好きな曲」という選曲で、こちらも“歌を通して過去にも未来にも行ける”という彼女の音楽観がまさしく反映された一幕だったと思う。

 ちなみにadieuこと上白石萌歌は、9月27日に放送開始のドラマ『パリピ孔明』に出演予定。歌手を目指す少女・月見英子を演じる。彼女が劇中で歌う楽曲「DREAMER」は幾田りらが書き下ろしたナンバーで、本人も「実際に歌ってみると想像以上に難しい曲で、何度も何度も試行錯誤を重ねました」とコメントしているとおり、そのシンガーとしてポテンシャルがさらに引き出された作品になったようだ。「歌は自分を遠くへ連れて行ってくれるもの」――この日、そんな歌の魔法を信じて歌った彼女にこれほどぴったりな役柄もなかなかないのではないか。役者とアーティスト、二つのキャリアを併せ持つ上白石ならではネクストステップに期待したい。


Text:Takuto Ueda
Photo:Kodai Kobayashi


◎公演情報
【adieu coucou -夏のつどい-】
2023年8月26日(土) 東京・SHIBUYA WWW X
<セットリスト>
01. 花は揺れる
02. 強がり
03. 旅立ち
04. 灯台より
05. 景色 / 欄干
06. 春の羅針
07. 穴空きの空
08. 夏の限り
09. 天使
10. シンクロナイズ
11. ひかりのはなし
12. ワイン
-Encore-
13. 16 (andymori cover)
14. よるのあと
15. ナラタージュ
16. ダリア


◎リリース情報
LP『adieu 3』
2023/9/13 RELEASE
SRJL-1239 4,400円(tax in.)
[収録曲]
旅立ち
夏の限り
穴空きの空
景色 / 欄干
ひかりのはなし
ワイン

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