2023/05/30
5月18日、Zepp DiverCity。マカロニえんぴつが今年4月より全国6か所12公演をまわってきたツアー【マカロックツアーvol.15 ~あやかりたい!煌めきビューチフルセッション編~】の東京公演を開催した。翌19日にユニコーンをゲストに迎えたツアーファイナルを控えたうえでのワンマン公演である。
開演時刻を回り、お馴染みのオープニングSEであるThe Beatlesの「Hey Bulldog」が会場内に流れる。赤い照明に照らされ、歓声に包まれながら、田辺由明(Gt./Cho.)がステージに現れる。続いて、長谷川大喜(Key./Cho.)、高野賢也(Ba./Cho.)、サポートの高浦 “suzzy” 充孝 (Dr.)が登場すると、最後に、はっとり(Gt./Vo.)がステージに上がる。最初に披露されたのは、新作EP『wheel of life』でも1曲目を飾っていた「PRAY.」。「祈り」と訳せるタイトルを掲げたこの曲が会場に響き渡った時、まず驚かされたのは、その強烈な音圧だった。爆音。ステージの上に立ち、「自分たちが何者であるか」を示す。そこに甘えも妥協もなく、マカロニえんぴつという「存在」そのものを震わせ増幅させるような、あるいは「ここからは俺たちの時間である」と力強く宣誓するような、気高く、獰猛な爆音がファンファーレのように響く。
「PLAY.」の演奏が終わった時、会場中が興奮にどよめいていた。私が座っていた座席の後方からは、「凄い!凄い!」と息巻く、ひとりの若者の声が聞こえくる。きっと彼女にとって、マカロニえんぴつはヒーローなのだ。この会場には、初めてヒーローを目の当たりにする若者たちが他にもきっとたくさんいる。1本のライブ。それはたった1、2時間程度の出来事で、長い人生から考えればほんの一瞬のことだ。しかし、その一瞬を宝物のように抱きしめて生きていく人たちがいる。今日、この場所にいる若者たちもそうなるだろうか。そんなことを思っていると、長谷川がスキップするように軽やかなメロディを奏で始めた。次の曲を理解した観客たちから大きな歓声が上がる。「ごきげんいかが?」とはっとりが告げると、「レモンパイ」の演奏が始まった。
バンドはアンコールを含め全20曲を披露した。「TIME.」(「循環を表現した」とはっとりはMCで語っていた)や「リンジュー・ラヴ」、「MUSIC」、「溶けない」、「ヤングアダルト」、「星が泳ぐ」、「なんでもないよ、」……そんなたくさんの代表曲、そして「哀しみロック」や「ワンドリンク別」、「洗濯機と君とラヂオ」といった、ライブにおける必殺技のような楽曲たち。隙のないセットリストだ。大袈裟な演出があったわけではなく、あくまでもシンプルに、マカロニえんぴつは自らが生み出してきた名曲たちを次々と披露し、ロックバンドという存在、その喜びを、生き方を、ルーツを、友愛を、愚かしさと哀しさを、誇りを、目の前にいる人たちに、そしてこの時代に、突きつけているようだった。中盤、「ブルーベリー・ナイツ」の演奏を終えた後のMCではっとりはこう言っていた。「ロックバンドとして示しがつくのは、ライブハウスだけなんです」。
マカロニえんぴつにとって、このツアーは声出し解禁のツアーでもあった。ブレイクタイミングがコロナ禍と重なった彼らを支持する若い観客たちの中には、人が密着するほど集まり、体を動かしたり声を上げたりするライブハウスの本来の空気に面食らった人たちもいるかもしれない。それゆえにこのツアーは、マカロニえんぴつが守り続ける「居場所」と「文化」の存在を、各地にいる新たな若き友に伝えるためのツアーという側面もあっただろう。はっとりはこの日、観客に向けてこう語りかけた。「俺たちにとっては『戻ってきたぞ』だけど、『うるさい! 近い! 酸素薄い。帰りたい……』となっちゃっている人もいるかもしれない。そういう子たちのこともケアしてあげないといけない。でも、これがライブです。よくわかんない人がいっぱい集まる、これがライブなんです。今、カルチャーショックを受けている子、それはいいショックだと思うよ」。
ライブはアンコールの「なんでもないよ、」と「hope」で幕を下ろした。メンバーがステージを後にすると、ステージ後方のビジョンには、夏にフルアルバムがリリースされること、そして、本作のリリース後に新たなツアーが始まることが発表された。ビジョンに映し出された新たなフルアルバムのタイトルは、『大人の涙』。このタイトルもまた、マカロニえんぴつが変わらずに守り続ける繊細で大切なものの存在を言い表しているようだった。
Text:天野史彬
Photo:酒井ダイスケ
◎ライブ情報
【マカロックツアーvol.15 ~あやかりたい!煌めきビューチフルセッション編~】
2023年5月18日(金)
東京・Zepp DiverCity
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