2023/05/06
hide with Spread Beaverが、5月2日に神奈川県民ホールで【hide with Spread Beaver appear!! in YOKOHAMA”】を開催した。
1998年5月2日に33歳という若さでこの世を去ったhide。1997年12月31日にX JAPANが解散となり、その翌日1998年1月1日に“ファンを悲しませないように”というhideの優しい想いから、KIYOSHI(Gt.)、K.A.Z(Gt.)、CHIROLYN(Ba.)、JOE(Dr.)、D.I.E.(Key.)、I.N.A.(Computer&Percussion)から成る hide with Spread Beaverを始動させた。アルバムやツアーなども構想されており、まさにこれからという時の訃報であった。
その後、hide with Spread Beaverはhideの遺志を継ぎ、全国ツアー【hide with Spread Beaver appear!!“1998 TRIBAL Ja,Zoo”】を敢行。同時期には、hideの右腕とも言えるI.N.A.を中心に、未完成だったアルバム『Ja,Zoo』を作り上げたのだ。これまでメモリアルライブが何度も開催されてきたが、今回は「雲の上との二元中継」という形で25年ぶりにワンマンライブを開催。さらに、新たなhideリップシンク映像も加わった”全曲hideボーカル映像“によるワンマンライブとなっていた。
そして、もう一人重要な人物として挙げたいのが、hide の実弟でありパーソナル・マネージャー、本公演の主宰者であるヘッドワックスオーガナイゼーション代表・松本裕士。彼の著書『兄弟 追憶のhide』をもとに2022年に公開された映画『TELL ME ~hideと見た景色~』は、hideをリアルタイムで見たことがない若い世代から、コアなファンまで幅広い世代にhideの人柄や偉大さを浸透させた作品だ。そういった反響を受けて、松本裕士がメンバーに「ぜひ、ワンマンライブを実現させたい」と熱い想いを投げかけたことで、満場一致で開催が決定したとのこと。
オープニングアクトには、hideに才能を見出され、1996年にZEPPET STOREのボーカル&ギターとしてメジャーデビューした木村世治が登場。アコースティックギター一本で「FLAKE」を持ち前の力強い歌声で会場に届けていく。ZEPPET STOREを世に送り出すために、hideが設立したレーベル「LEMONed」で行ったマスタリング時の思い出を語りだした木村。聴いた音源があまりにも良い仕上がりであったため、木村が「カッコイイ!」という感想を伝えると、hideはニコっと「だろ?」というセリフを放ったという。その時の表情が今でも鮮明に覚えているという木村。大きく息を吸って「よし!」と気合いを入れると、hideの愛した楽曲から「声」を届けた。
ステージ上はhide with Spread Beaverの機材をはじめ、中央に代表モデルである『イエロー・ハート』が輝きを放って鎮座している。そして、生い立ちからソロ活動、邦楽と洋楽の壁を取っ払うためにロサンゼルスで結成したバンド・zilchなど、彼の軌跡を辿るメモリアルな映像が流れ始めた。本編前だが、心震わせた観客からの「hide!」という声が鳴り止まない。
観客の気持ちが整った中、SE「SPREAD BEAVER」をバックに颯爽と登場したhide with Spread Beaver。一発目は「ROCKET DIVE」で大きくミサイルを打ち上げていく。D.I.E. がショルダーキーボードを抱えて勢い良くステップを踏み出し、KIYOSHIもステージを機敏に動き回る。メンバーの共鳴するサウンドが気持ち良く響き、hideの声もしっかり聴こえていた。正にhideがそこにいるかのような感覚になりながら楽曲が次々と展開されていく。そんな中、hideの盟友であり、ソロ活動のサポートも務めたPATA (X JAPAN)が登場。「SCANNER」の禍々しいイントロを奏で、バンドアンサンブルが一気に解き放たれる。
I.N.A.の「ライブが成功することを祈ります」というMCから、hideが『チェリー・サンバースト』を持ち、低姿勢でカッティングを弾き始める「限界破裂」がスタート。KIYOSHI のソロ、K.A.Zの鋭利なサウンドのパワーコード、そして看護師と悪魔の格好をしたバックダンサーが奇妙なダンスを披露する。映像とのシンクロ率が抜群で、hideの楽曲の中でも自身の内面を露にしたような歌詞とメロディーが最大限に引き出されていた。続いて、1996年に開催されたツアー【PSYENCE A GO GO】のために用意された、配線がむき出しになっているギター『JG』で奏でる「FLAME」へ。轟音の中に突出して聴こえてくるPATA のアルペジオ、JOEのパワフルなシンバル、そして間奏のCHIROLYNのベースラインなどが美しく混ざり合っていく。
前述したアルバム『Ja,Zoo』に収録され、「ピンク スパイダー」の続きとも言われている「PINK CLOUD ASSEMBLY」。原曲には松本裕土のナレーションが収められているのだが、今回、過去の膨大なhideの音声データを組み合わせるという緻密なI.N.A.のプロデュースワークにより、“hideボーカルver.“が完成、初披露となった。空間を凌駕するかのような神々しい照明と共に「ピンク スパイダー」が届けられ、観客は次々とメンバーの名前を叫び始める。そんな空気感で披露された「DOUBT」では、全員で“Doubt Doubt Doubt You”とユニゾンしていく。その後の「MISERY」では、KIYOSHIが『イエロー・ハート』と向かい合ってソロを弾き、会場の熱は沸騰。hideが見たかった景色、見せたかった景色が徐々に完成していくのであった。「お客さん遊び足りねーよ!」というhideの一言から「FISH SCRATCH FEVER」へ。巨大な風船やサメの浮き輪が観客席を彷徨い始めた。曲の中盤では、CHIROLYNがコール&レスポンスをゲーム式で展開して盛り上げていく。そして、KIYOSHIが「俺たちは確かに脇役だけどさ、俺たちしかできない! PATAとしかできないんだよ!」と叫ぶシーンも見せた。
ここでブレイクタイムになると、「OEDO COWBOYS」をBGMにして、モニターに25年前の楽屋風景が映し出される。hideがヘアセットをきめて、ステージに向かうところで第二部がスタート。すると、花柄が描かれたピンクのワンピースに身を包み、CHIROLYNが扮するロザンナが「皆元気だった~?」と陽気に登場。ここでは、hideとのデュエット曲「LEMONed I Scream」が披露され、演奏が終わると「この25年で大ギャルになってしまった」と会場を笑いに誘っていた。その流れから約25年振りに演奏された「子ギャル」へ。【hide with Spread Beaver appear!!“1998 TRIBAL Ja,Zoo”】では、CHIROLYNがボーカルを担当して披露されたが、本公演ではhideボーカルver.で初演奏。さらに、最新のAI技術を駆使して、新たに制作されたhideリップシンク映像も見どころ満載だった。
ライブ終盤は「1998年からステージでは泣かない」と決意していたI.N.A.が「HURRY GO ROUND」で涙を流したり、 “Singin' my song for me Singin' your song for you.”という歌詞をなぞるようにメンバー全員が『イエロー・ハート』に向かって演奏する「TELL ME」など、数々の名シーンが生まれた。ラストはhideの解説による、信頼を寄せていたメンバーたちの紹介。“バックバンド”ではなく、“自身のバンド”としてhide with Spread Beaverをスタートさせた理由が分かる映像であった。
メンバーが退場すると、松本裕士が『イエロー・ハート』をギターケースにしまい、観客に向かって一礼。本人不在の中で、新しい試みを成功させていくことは、一朝一夕にはいかない。エンドロールでも触れられていたが、多くのファンやスタッフの支えがあったからこそ、一人のロックスターが四半世紀にも渡ってしっかりと語り継がれているのだ。そしてこういった試みが、1998年5月2日で時間が止まっているファンの秒針をこれからもゆっくりと進めてくれるだろう。
Text by Tatsuya Tanami
(C)HEADWAX ORGANIZATION CO.,LTD.
Photo by KAZUKO TANAKA(CAPS)
◎公演情報
【hide Memorial Day 2023】
【hide with Spread Beaver appear!! in YOKOHAMA”】
2023年5月2日(火)
神奈川・神奈川県民ホール
【“hide with Spread Beaver appear!! in TOKYO”】
2023年7月27日(木)
東京・豊洲PIT
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