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2023/04/19

<ライブレポート>サラ・オレイン、日本ジャズ界屈指の実力派たちをバックに迎えたビルボードライブ公演

 昨年にはデビュー10周年を迎え、癒しの歌声からパワフルなタッチまでと変幻自在なボーカルと華麗なヴァイオリン演奏でクラシック、ポップス、ジャズなどのあらゆる楽曲を多彩にこなすサラ・オレイン。これまでにも様々な編成でビルボードライブに集った観客を魅了してきた彼女だが、今回はピアノにクリヤ・マコト、ベースに早川哲也、ドラムに高橋信之介という日本のジャズ界屈指の実力派たちをバックに迎えたカルテットで登場。公演タイトル通りに“You Must Be In Spring”=「いずれ必ず心に春が訪れることを信じて」(サラ)をテーマにしたジャンルレスな曲選びと、ジャズ・シンガー・プレイヤーとしての力量の高さにフォーカスしながらも随所にそこだけに収まることのないマルチな才を垣間見せるアクトで、新たな魅力を放つ見応え抜群のステージとなった。

 ピアノ・トリオの3人がまずステージに登場し、クリヤのピアノが前奏を奏で始めたところにサラが登場すると、公演タイトルにも冠されたミシェル・ルグラン作のスタンダード曲「You Must Be In Spring」から幕開け。前半は春の切なさを表現したようなしっとりとしたムードの英語詞で歌うと、ドラムの高橋が軽快なジャズ・ボッサのビートを刻み始めてからは映画『ロシュフォールの恋人たち』で歌われた同じ曲のフランス語バージョンに切り替え、マルチリンガルな彼女ならではの展開でじっくりと聴かせた。続いては、松任谷由実の「春よ来い」を、サラのオリジナルの英語詞を乗せたジャズ・アレンジで披露。おなじみのメロディーであるにもかかわらず、どこか北欧ジャズ的なテイストも感じさせるような独創的なムードで響かせた。

 ここで「めっちゃ会いたかったわ」と関西弁も交えて場内を和ませつつ挨拶のMCを終え、彼女の音楽的ルーツであるクラシックで春といえばヴィヴァルディの『四季』と前置きすると、ヴァイオリンを手にしてヴィヴァルディの有名な旋律を弾き始める。ルーパーを駆使して、ディズニー映画『バンビー』より「Little April Shower」(4月の小雨)からの旋律でコーラスを多重録音的に重ね合わせながらシンフォニックな“春”を展開。ディズニー創立100周年を記念し、続いてはディズニー映画『ピノキオ』の楽曲メドレー。前半のスタンダード曲「星に願いを」ではカリンバ(親指ピアノ)を弾きながら幻想的なボイスを重ねるアプローチで意表を突き、そこから軽快にしてスウィンギーな演奏へとスイッチし、アカデミー賞を受賞した『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』から「Ciao Papa」へ。そして、ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」の一節から幕を開けるチック・コリア作の祝祭的な名曲「Spain」では、複雑なメロディをなんと英語の早口言葉で歌いこなすスリリングなアンサンブルを経て、ドラム、ベース、ヴァイオリン、ピアノとソロ回しをしながら熱狂度を高めていく演奏で盛り上がりをみせ、凄腕プレイヤーたちが集った今回のカルテットならではの興奮へと誘った。

 後半もジャズの定番曲として愛されるスタンダード「Misty」に、サラが育ったオーストラリアでは特に大ヒットしたという80年代洋楽ポップ屈指の名曲であるクラウデッド・ハウス「Don’t Dream It’s Over」(※2部では選曲を変え、60年代のフランスのヒット、フランス・ギャルの「Laisse tomber les filles(娘たちにかまわないで)」を気怠く、今までにないコケティッシュな発声で歌い上げた)など彼女にとって思い出深い楽曲をジャンルレスに取り上げると、太いベースラインとグルーヴィーなリズムを伴ったアレンジで聴かせたのは、スティーヴィ―・ワンダーが70年代後半にヒットさせた「I Wish」。曲後半には彼のトレードマークとも言えるクラヴィネットの音色を設定したキーボードも自ら演奏し、一気にダンサブルに盛り上げた。そして、一転して映画『バグダッド・カフェ』でおなじみの「Calling You」をブルージーかつジャジーに聴かせると、本編のラストには先月末に惜しまれつつ亡くなった、敬愛する音楽家である坂本龍一の代表曲「戦場のメリークリスマス」とYMO「Behind The Mask」を、シンセを弾いて歌いながらのオリジナルなアレンジによるメドレーで展開。終盤には「春よ来い」の旋律もリプライズ的に織り交ぜて、壮大に締めくくった。

 アンコールでは、ピアノ・トリオが奏でるアッパーな4ビートに乗せて、スウィング・ジャズの人気曲「Airmail Special」を圧巻のヴォカリーズのアドリブで歌って喝采を集めると、ラストはフランク・シナトラなどでおなじみの「My Way」を、実は英語版とフランス語版では歌詞の内容がまったく違うと前置きしてマルチリンガルに熱唱。原曲であるクロード・フランソワ「Comme d'habitude」から力強さを増しつつよく知られた「My Way」へと情緒豊かに流れ込んで、最後までサラ・オレイン流の多彩なジャズ・カルテットを惜しみなく展開してくれた。スペシャルな編成と選曲で奏でられる今回の彼女の春のツアーは、4月15日にビルボードライブ横浜での公演を終え、4月27日のビルボードライブ東京における公演で最終日を迎える。

Text by 吉本秀純
Photo by 宇山ケンジュ

◎公演情報
【Sarah Àlainn Quartet ~You Must Be in Spring~】
2023年4月14日(金)大阪・ビルボードライブ大阪 ※終了
1stステージ 開場16:00 開演17:00
2ndステージ 開場19:00 開演20:00

2023年4月15日(土)神奈川・ビルボードライブ横浜 ※終了
1stステージ 開場15:00 開演16:00
2ndステージ 開場18:00 開演19:00

2023年4月27日(木)東京・ビルボードライブ東京
1stステージ 開場16:00 開演17:00
2ndステージ 開場19:00 開演20:00

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