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2022/11/21

<ライブレポート>はたけやま裕/細川千尋/浅利史花/春風亭昇太、落語とジャズのコラボレーションを披露した特別公演【かわさきジャズ2022】

 【Colorful JAZZ! with special guest 春風亭昇太】が、11月12日に神奈川・昭和音楽大学 ユリホールで開催された。

 Colorful JAZZ!は、もともと【かわさきジャズ2019】のために特別に結成された3人組ユニットだ。細川千尋(ピアノ)、はたけやま裕(パーカッション)、山下伶(クロマティック・ハーモニカ)によるこのグループは、2022年と21年のかわさきジャズにも参加し、2022年で4年連続出演となった。今回は山下が都合で参加できず、ギターの新星、浅利史花がピンチヒッターを務めた。なお、細川、はたけやま、山下は「グレイス」というバンド名で、かわさきジャズ以外の場での活動も始動したそうだ。

 さて、今回のコンサートの目玉は『笑点』の司会でも知られる大物落語家、春風亭昇太師匠がスペシャル・ゲストで参加して、落語とジャズのコラボレーションを披露するという第二部だ。とは言っても、Colorful JAZZ!3人による第一部が添え物、ということではまったくない。ユニット名通りにカラフルで楽しいジャズをまずたっぷりと楽しんで、その後で昇太師匠と彼女たちのコラボを堪能する、という舞台構成なわけだ。

 ステージの向かって左に細川千尋のグランド・ピアノ、中央やや後ろにギターを抱えた浅利史花、そして右側にはたけやま裕のパーカッションというセッティングで第一部が始まった。はたけやまの打楽器セットは、ドラム・セットがあり、何種類ものシンバルが屹立し、コンガやボンゴ、チャイムやベルをはじめとする小物類が置かれ、演奏するはたけやま裕はカホンの上に座っている、という大掛かりなものだ。

 第一部で演奏された曲目は、ボサノヴァの有名曲「ワンノート・サンバ」、デイヴ・ブルーベック・カルテットの代表曲「テイク・ファイヴ」、カーペンターズのヒットでバート・バカラック作曲の「クロース・トゥ・ユー」、サイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェア」といったおなじみの曲を中心に、はたけやま裕のオリジナルで、本人のカホン・ソロをフィーチュアした「クロスロード」、細川千尋の美しいオリジナル「エスポアール」という選曲。どの曲もギターとピアノがテーマを演奏し、三人がそれぞれソロを取るという流れだ。オーソドックスなジャズ・ギターの奏法で端正に弾く浅利、ふくよかな音色でダイナミック・レンジが広い細川、多種多様なパーカッションを駆使して情熱的な演奏を聞かせるはたけやまと、三者三様の個性が楽しい。速い8分の6拍子に編曲されて、後半のパーカッション・ソロが圧巻だった「スカボロー・フェア」で第一部が終了した。休憩後はいよいよ春風亭昇太師匠の登場だ。

 まずは昇太師匠とはたけやま裕のフリートーク。2人が知り合ったきっかけ、昇太師匠がトロンボーンを担当する落語家バンド「にゅうおいらんず」の話など、さすがに話術のプロだけあって、どんな話題でも実におもしろく、ごく自然に笑いが会場に渦巻く。そして昇太師匠のトロンボーンをフィーチュアしたデキシーランド・ジャズの定番「タイガー・ラグ」が演奏されて、師匠はいったん退場。いよいよ落語とジャズのコラボが始まるのだ。

 舞台正面には高座が設えられ、バンド3人が出囃子を演奏し始める。これは、落語マニアでもあるはたけやま裕が張り切って編曲した「笑点」司会者出囃子メドレーだ。まずは桂歌丸師匠の出囃子である「大漁節」がモード・ジャズっぽく奏でられ、昇太師匠の出囃子「デビー・クロケット」へと続くという実に凝ったもの。高座に上がった昇太師匠が語り始めたのは、古典落語の「一眼国」だ。

 旅人から「一つ目娘」が江戸から百里以上離れたところにいる、という話を聞いた見世物小屋の館主が、それを捕まえてきて見世物にしようと思って旅に出る。さんざん苦労してやっとその娘を見つけた館主、娘を誘拐しようとして捕らえられて、一つ目の国の役人の前に引き出される。そして……、という話なのだが、パーカッション、ピアノ、ギターが要所要所で効果音的な音を出すのはもちろん、長い旅の間にスティーヴィー・ワンダーの「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」が3人によって演奏されるパートが実におもしろかった。明るい曲想で始まった当初は、館主の旅もいろんな名物を食べて実に楽しそうだ。それが曲がマイナーに変化すると、館主の表情は辛そうになり、いくら歩いても目的の「1つ目娘」に出会えない、という状況がありありと表現される。

 昇太師匠は表情としぐさだけで、楽しい旅が辛い旅になる変化を見事に演じ、それにぴったりと合わせた曲の展開が実に効果的だ。それはまるで、映画音楽がその場でライブとして演奏されているといった趣で、この試みはもっと深めていってほしい。

 「一眼国」のあとはカーテンコールだ。昔なつかしいジャズソング「私の青空」を、昇太師匠はまずはトロンボーン、次はハーモニカで演奏し、最後は歌を披露してくれた。

 ジャズも落語も、いちばん楽しめるのはその場でのライブ。二つのジャンルの「ライブ芸能」のコラボレーションは、足し算ではなく掛け算の成果を挙げた。会場にいた老若男女は、きっとその成果を十分に楽しんだに違いない。もちろん、著者もとことん楽しんだ。


Text:村井康司
Photo:Tak. Tokiwa


◎公演情報
【Colorful JAZZ! with special guest 春風亭昇太】
2022年11月12日(土)神奈川・昭和音楽大学 ユリホール

<セットリスト>
1.One Note Samba
2.Take Five
3.Close To You
4.Crossroad
5. Espoir
6.Scarborough Fair
7.タイガーラグ
8.「笑点」司会者出囃子メドレー
9.昇太師匠とトリオによるコラボレーション
  古典落語「一眼国」

-Encore
En1.「私の青空」

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