2022/09/15
9月4日の大阪編、そしてこの9月6日の東京編の2日間にわたって開催された、ヒューマンビートボックスを中心にしたアクトのみを集めた【BEAT X FES 2022 IN JAPAN】はシーンにおいて待望の瞬間のひとつだった。
「ビートボックスここまで来たぞ!」
オープニングアクトで温まった会場にユーモアと気の利いたオープニング・ムービーのあと現れたヒューマンビートボックスタッグ・Rofu。その片割れ、サングラスをかけた男・Fugaはこう叫び会場を沸かせたことが何より物語っていただろう。平日にも関わらず、チケットはソールドアウト。SNSを見る限り配信で観ていた人もかなりの数だっただろう。トップバッターを務めた彼らはSARUKANIと共にこのイベントを主催しているともあって、その成果には感慨深いものがある。が、一方でステージ上の彼らはいつも通りといった感じだ。淡々とビートを生み出していくヒューマンビートボックスウマ男ことHIROと「新曲をやります」と言って実のおばあちゃんのエピソードを歌にするユーモラスなRofuのコントラストで見事に会場の雰囲気をモノにしていた。アジア・チャンピオンの名にふさわしい貫禄でバトンを受け取ったのはシンガーソングライターとしても活動するYAMORI。うっとりしてしまうような歌とビートボックスがテクニカルに絡み合い、その世界観に会場がグッと引き込まれる。続いて現れたヒューマンビートボックスタッグ・MiCoは一転してラウドなスタイルだ。出で立ちこそクールではあるが、込められたメッセージはポジティブ。ここまでの3アクトで、一口にヒューマンビートボックスと言ってもその世界はかなり奥深いことが窺い知れる。
次はいよいよ海外からのアクト、オーストラリア出身のコドフィシュの登場だ。アコギを手にしていたのは意外ではあったが、それよりもただただビートボックスの素晴らしさに圧倒されてしまう。身体を芯から震わせるバスドラム、安定したピッチ、隙間のない音、柔らかな人柄からは想像できないような音が口から発せられていく。あとコドフィシュによるグリーン・デイ「Boulevard of Broken Dreams」を生で聴くことができて本当に良かった。
そのあとを引き受けたのは、ポーランドで行われたビートボックスの世界大会【Grand Beatbox Battle 2021】のタッグループ部門で日本人初の世界チャンピオンとなったSORRY。まずは「We are Rofu from Japan」とFugaのモノマネから入ったSO-SOがソロでパフォーマンス、ループステーションを駆使したスタイルで会場をブチ上げていく。そこにRUSYが合流し、さらに加速。ちなみにSARUKANIのMCでSO-SOが告白した通り、このときミスがあったようだが、正直観ていた側としては十分カバーしていたと思う。
そして次は個人的にはこの日、最も楽しみにしていたアクト、イギリスから来たディーロウ。はっきり言って圧巻だった。会場の床を震わせる低音、天井を突き抜けるような高音、臨場感のある口スクラッチなど言い出したらキリがないのだが、どの音もクリアで抜けが良い。BPMを変幻自在に操るようにビートを紡いでいくスタイルもあって、さながら優れたDJの手さばきを観ているかのよう。それも、どういうことか飄々とやってのけてしまっていて、どこから褒めていいのかわからなくなってしまう。
呆気にとられているのもつかの間、次はニューヨークを拠点に活動するクリス・セリスとジン・シノザキによるデュオ、スパイダーホースだ。パッドなどを用いたビートボックスのみにとらわれないパフォーマンスで、2人で現れたあとにそれぞれのソロのステージを挟んだりと多彩。だが何と言っても、Rofuの2人がYouTubeで「心に沁みるビートボックス」と紹介していたように、スパイダーホースの生み出すハーモニーである。会場を包み込むように響いた、チャンス・ザ・ラッパー「Same Drugs」のフレーズに自然と目が潤んだ。
このイベントのラストを飾ったのは日本のSARUKANI。【Grand Beatbox Battle 2021】のクルー部門で世界2位に輝いた彼らなら、ヒューマンビートボックス界のレジェンドが並んだアクトの締めとしても役不足ということはない。SO-SOを筆頭に派手な衣装で現れた4人がグイグイと会場のボルテージを頂点に導いていく。途中で盛り込まれたビートボックス・バトルもサービス精神たっぷりに繰り広げられ、「1!2!3!4!」で盛り上がりは最高潮に。終始笑顔が浮かんできてしまう、ヒューマンビートボックスの楽しさが全面に出た素晴らしいパフォーマンスだった。
錚々たるアクトが(Fugaに配られたサングラスをかけながら)横一列に並んだ微笑ましいラストまで、長いようで短い一夜だった。パフォーマンス以外にも国内のアクトが会場内での声出しが禁止であることを口々に観客に詫び、フロアはそれに応えて拍手でその感動をステージに伝えていたのがとても印象的だった。現在勢いに乗るヒューマンビートボックスのシーンは愛情深いリスナーによって支えられている。【BEAT X FES】は、きっと来年はさらにその規模を大きくして帰ってくるだろう。
Text by 高久大輝
Photo by Leo Kosaka
◎公演情報
【BEAT X FES 2022 IN JAPAN】
2022年9月6日(火)
東京・Zepp DiverCity
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