2022/08/05
GLAYがファンクラブ発足25周年を記念したアリーナツアー【We▼Happy Swing Vol3】を開催した。本稿ではライターの青木優氏による、7月31日に千葉・幕張メッセ国際展示場9・10・11ホールにて行われたツアーファイナルのロングライブレポートをお届けする。
※▼=特殊記号のハート
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たぶん、愛である。このライブは、GLAYとファンとの間に愛があるから、そしてその愛のために、行われたのだ。
そのことは、アンコールでTAKUROが語った言葉で気づいた。
「こんな大変な状況(コロナ禍)ではあるけれども、GLAYのために、GLAYのファンクラブのために、ちょっと祝いに行ってやろうという、みんなのその思いがステージまで充分、届いた。その愛こそHAPPY SWINGの意味なんだということを今日教えていただきました。ありがとうございました!」
おそらくGLAYは、この愛を感じたくて、この愛を手元に置いておきたくて、今回のファンクラブのライブでも徹底してエンタ―テインしているのではないか……と思ったのである。
GLAYとファンの間には、前々からかなり特別な関係があると感じていた。バンドが目指し、作り上げようとしているものを全力でサポートしようとするファンのみんな。対して、そのファンのためには何ができるか、何を返せるのかをいつも考え、大きな約束を交わすメンバーたち。その熱い思いはちょっと青臭く、でもひたむきで精一杯。そのあり方はGLAYというバンドの本質を映し出してもいると思う。
そうしたものは今回のライブでもあちこちで形になっていた。まずは円形のステージだ。そうした舞台のデザインは過去のWe▼Happy Swingでもあったが、3都市のツアーになった今回はバンドが観客に360°囲まれるセンターステージである上に、これが演奏が数曲ほど進むたびに180°回転。GLAYの4人は放射状に近い立ち位置にいるので、この転換により、さっきまで正面にTERUとJIROを見ていたお客さんは、次にはHISASHIとTAKUROと向き合うことになる。それだけどの角度からでもライブに浸れるし、視覚的な楽しみも大きい。
この転換、つまり舞台が動いてセッティング完了までの短い時間には、これまでのGLAYのさまざまな写真がスクリーンに投射される。これがあらゆる時代の彼らが、本当にいろんな格好や表情で出てくるのだから、見ていてまったく飽きない。というのも、このHAPPY SWINGというGLAYのファンクラブは、とてもていねいに編集した会報誌『HAPPY SWING』を年に4回発行しているのだが(僕も時おり執筆させてもらってます)、それもインタビュー時の撮り下ろし写真、ライブやイベントの現場取材時の写真があるのはもちろん、メンバー発案の企画の模様や、中にはオフショットの写真もあるため、画像のストックが膨大にあるのだろう。それが25年(正確には26年)分ともなると、時代ごとのコスチュームやメイクに驚いたり懐かしくなったりしたし、また4人と一緒に映るサポートミュージシャンの姿に当時を思い出したりもした。そしてそれらを見るだけで、GLAYの「やるとなったら、とことんやる」、そして「ファンのためなら精一杯」という姿勢を再認識した。やはり、愛があるのだ。
ライブ自体は言うまでもなく全力投球のパフォーマンスで、いつも以上に楽しく聴かせてくれるGLAYだった。アンコールで浴衣姿のTERUが「夏祭りですね!」と言ってたように、今回はサマーソングが多かった。たとえば爽やかな「summer FM」は千葉のbayfmでの彼のラジオ番組『TERU ME NIGHT GLAY』(1996年10月開始で、現在もレギュラーでOA中)のために作った曲で、それゆえに歌詞に<稲毛の浜>という言葉があったりする。ほかにも「夏音」や「STAY TUNED」も夏の歌だ。
「BLACK EYES SHE HAD」はHISASHIの独壇場で、スクリーンにいきなり<REDRUM>という文字(ギターのボディにもペイント)が映し出され、赤を基調にしたライティングを駆使した不穏な世界が展開。映画『シャイニング』を連想させるこのダークな演出についニヤリとする。今回はこのように各々が演奏したい曲を出し合ってセットリストを作ったとのことである。
ファンクラブのライブらしくレアな楽曲(シングルのカップリング曲多し)が並ぶ中では「HOWEVER」が異彩を放っていたが、しかしハジメタルのピアノから始まる静かにアレンジと、TERUの繊細な歌唱は、この歌に込められた愛情を美しく、せつなく表現しきっていて、僕は涙腺を刺激された。この前後には「月の夜に」「ゆるぎない者達」「My Private “Jealousy”」「ROSY」といった真摯なラブソングが続き、それぞれの世界に浸れたのだが、そこで超メジャーなヒットソング「HOWEVER」の味わい深さに気持ちを持って行かれるとは予想していなかった。
「百花繚乱」では<YAVAI! YAVAI!>の連呼をひさびさに聴けたのと、<東京五輪が決まって日本は盛り上がってます>の唄い出しに始まる歌詞にTAKUROというアーティストの高い批評性をあらためて感じつつ、この歌から8年、そのオリンピックは1年前だったことを回想。また「SHINING MAN」では、TERUが1万8千人にウェーブを促す際に「稲穂のように」と表現したのが面白かった。この素朴な、気取らない表現がとても彼らしい。「ビリビリクラッシュメン」ではJIROの楽曲らしいパンクな疾走感に身を委ねることができた。
そして本編ラストでTERUが叫んだ。
「OK! 1999年7月31日、あの20万人ライブでやったあの曲をここで最後にやって、大盛り上がりしたいと思います!」
そこからバンドは「BURST」に突入した。インディーズ時代のアルバム『灰とダイヤモンド』に収録されているこの曲は、ビートバンドとしてのGLAYが表れたナンバー。20万人ライブとは、23年前のこの日に、この会場にほど近い場所で行われた【GLAY EXPO ‘99 SURVIVAL】のことである。7月31日は、この20万人ライブと、さらにGLAYがメジャーデビュー後の最初のライブ(1994年でその会場は現O-WESTである渋谷ON AIR WEST)をした日でもあるため、「GLAYの日」と呼ばれているのだ。
その「BURST」に身体を揺らしながら、僕はいろいろなことがつながっているように感じた。思えば20万人ライブは今日の1公演の11倍のボリュームの観客を一堂に集めたのだから、すさまじいスケールだった。あのライブは大きなニュースになったが、それも当然と思えるほど当時のGLAYは社会現象のような存在で、出すCDはすべてとんでもないセールスを叩き出し、コンサートの動員もうなぎ昇りだったのだ。
そしてあの時点でそこまでの巨大な存在になったことは、バンドに大きな影響をもたらした部分があっただろう。彼らは基本的にはそのプレッシャーをはねのけて動いてきたし、それによって作品のクオリティが落ちたわけでもない。ただ、後年、たとえばJIROが2000年代初頭までの時期は相当なストレスを抱えながらの活動だったと語っているように、ポジティヴな側面ばかりではなかった。
僕が思うのは、現在のGLAYがこうしてファンにしっかりと向かおうとしているのは、ああした狂騒的な時期を乗り越えたあと、自分たちの足元をいっそうしっかり見つめながら活動する必要性を感じたからではないか、ということだ。売上や動員などの数字が先行する報道ばかりで、音楽に関心があるのかどうかわからない層までが勝手なことを言ったり書いたり語ったりしたあの時代(もっとも、社会現象化するのはそうなることなのだが)。おそらく彼らは、バンド活動を続けていく上で、そうした浮動層より、信頼できるファンベースをきちんと築き、そうした人たちに自分たちの歌と音をちゃんと届けることを意識しようとした。それでいて音楽の間口の広さは確保して、ちょっとでも興味を持ってくれるリスナーや新しいファンはつねにウェルカムにしておく、と。
ファンベースに関しては、このHAPPY SWINGを主軸にして、そこではつねに濃くて面白くて、さらにはメンバー4人のキャラクターや、時には生き方まで感じられるようなものを見せるようになっていった。それに彼らのサービス精神や気取りのなさも加わり、GLAYのファンクラブはどんどん充実したものになっていった。その結果、お互いの間に信頼が生まれ、それをTAKUROが愛と表現するほどのものになった。そんな流れではないだろうか。
そういえばアンコールの冒頭、TERUがステージから降りて、小さな女の子にタオルを渡すシーンがあった。それについては、「まだ10歳ぐらいなのかな? 女の子がいて、ずっと前のめりに乗ってくれてたんで、タオルをプレゼントしたんですけども。これは『これからずっと来るんだよ』という約束のタオルなんですけどね(笑)」と言って、会場中の笑いを誘っていたのだが。そういうのを自然にやれること、そしてその照れ隠しとしても、また、ちょっとした本音としても当たり前に言ってしまえることが、TERUらしさであり、GLAYっぽいように思った。おそらく親御さんと一緒に来てくれた、そういう子との縁とか関係も大切にしたい、ということだ。
やはり愛、なのだろう。そしてそんなふうにこの場に集まったGLAYのファンたちには、ほんとに熱心で、まっすぐで、誠実なイメージがある。ファンはそのアーティストの一端を映す鏡である、というのは僕の持論なのだが……GLAYのファンの人たちは、本当にこのバンドの芯の部分をしっかりと反映していると思う。
そういえば今回、ファンの間で大きな存在になっているのを実感したのは、ZURAというGLAYの公式キャラクターだ。この黒い雪だるまみたいな妙なキャラはTERUが会報誌上で考案したもので、今までに数々のグッズ化を果たしているのだが、今回は通常のライブ以上のZURAとの遭遇率だったことにビックリした。とくに目立ったのがZURAのリュック! 黒地にその雪だるまライクな顔がデザインされたリュックは最寄りの海浜幕張駅に向かう電車内から会場までの道中、前を歩く人が幾人も背負ってるおかげでしょっちゅうZURAと目が合うのだ。ほかにもTシャツやキーホルダー、そして今回はカフェの出店まであったのでクッキーやバームクーヘンという形でも登場。そのZURAの姿を見かけるたびに、GLAYファンの熱心さを痛感した日だった。
アンコールで演奏された新曲「WE▼HAPPY SWING」はファンクラブの会員への感謝を込めた曲で、歌詞にはHAPPY SWINGのロゴのことが綴られており、ライブ中のスクリーンにはそれが映し出された。HISASHI発案による2024年開催のGLAY fes.も今から楽しみだし、ファンクラブ30周年の時(2026年)にベネツィアのサンマルコ広場でライブをやりたいというTERUの夢も再び表明された。
ファンクラブのライブなのに、ここまで話題というか、伏線?が多いGLAYの夏祭り。そしてそこにあったのは、たぶん愛だった。きっとGLAYは、そしてファンたちは、今後もこの愛を確かめながら生き、この愛を確認するたびに前向きに生きていこうという気持ちになれるのだろう。
青臭い? そう、ちょっと照れくさい。そんなのダサいよ、って言う人だっているだろう。でもこういうまっすぐさは、間違いなくGLAYというバンドの本質だと思う。熱くて誠実でまっすぐで、愛のために生きようとする人間たち。そんな大人のバンドがひとつぐらいいたっていいじゃないか。
……と、そんなふうに思えた幕張からの帰り道だった。そして電車内でそんなことを考えてる僕のことを、リュックのZURAが3方面からこっちを見つめてくれていたのだった(ZURA、帰りもやっぱりたくさんいた)。
Text:青木優
Photo:岡田裕介・田辺佳子
◎公演情報
【We▼Happy Swing Vol3】
2022年7月31日(日)
千葉・幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール
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