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2022/07/21

<ライブレポート>3年ぶりワンマンライブで提示した宮下遊の世界

 宮下遊が、7月10日に【彼方 ~宮下遊ワンマンライブ2022~】を東京・ZeppDivercityにて開催した。

 『彼方』というタイトルは、新しいフェーズへ突入ことへの決意表明だろうか。2019年5月以来約3年ぶり、自身3度目となるワンマン公演。披露された楽曲はほとんどが2021年リリースの3rdフルアルバム『錆付くまで』、2022年リリースの4thフルアルバム『見つけた扉は』の収録曲で、カバー曲も2019年5月以降に発表されたものである。つまりほぼ、前回のワンマンライブから今現在までの彼の音楽活動3年間で構成されたライブということ。発表されたばかりの新曲も含めた、最新モードの宮下遊の世界を堪能することができた。

 退廃的でありながら耽美な印象を与える、天蓋とギリシャ建築風の柱で構成されたステージセット。そこに紫と青の光がたゆたう。宮下がこの日のために書き下ろしたと思われる楽曲「彼方」をSEに、サポートメンバーであるマロン菩薩(Gt.)、松ヶ谷和樹(Ba.)、杉崎尚道(Dr.)の3名が登場。『見つけた扉は』の1曲目「幽火」の幻想的な高音ボーカルが響くと、下手(しもて)側の白い箱の上から宮下が姿を現した。

 ウィスパーボイスで繊細に楽曲を色づけていく彼の歌声は、キャンバスに絵の具で細やかに色づけをしていく所作のような優美さを纏っている。展開の多い「エンドゲエム」ではセクションごとに巧みにボーカルの色を変え、カラフルな照明もそのムードを増幅。「ラストリヴ」では悲しみに満ちた歌声でシリアスな空間を生成する。彼の声は楽曲の主人公の抱える、消え入りそうなのに決して消えることのない本音を表現することに長けていることを、序盤3曲であらためて思い知らされた。

 客席を見渡し「僕の想像以上の景色が広がっている」と感謝の念を表した宮下は、「久しぶりというのもあってか、ガラにもなくすごく緊張している」と笑う。観客に素直な思いを伝えた彼が続いて披露したのは「FREEEZE!!」。ラップやヒップホップのビートを用いた楽曲で、最新作『見つけた扉は』のなかでも大きな存在感を放つ楽曲だ。

 この楽曲に限らず、宮下の楽曲は斬新な展開や既存のセオリーから逸脱したものが多い。音源も楽曲の世界観をより深い解釈で届けるべく緻密なサウンドデザインで構成されており、ゆえにライブの場で演奏・歌唱するのはかなり難易度が高いと想像する。だが彼はバンドメンバーとともに、ポジティブに挑んでいた。それが実現できるのは、自身の楽曲を心から愛しているからこそだろう。その後の「Coquetterie dancer」でも、ただただまっすぐ歌に向き合う彼は、楽曲をより美しく存在させるために身を捧げているようにも見えた。

 柊キライの「ギャラリア」を歌唱した後は「日常に寄った楽曲をまとめてみました」と告げ、その第1投としてSEVENTHLINKSの「p.h.」を歌唱。彼がカバーに選ぶ楽曲は自身の声の親和性が高く、彼の歌唱も楽曲の主人公へと憑依する。アンニュイな歌声は悲観的かつ軽やか。くさくさした気持ちを抱えながらも日々と向き合う、現代人のニュートラルなモードへフォーカスしたボーカルに、張り詰めた心が和らいでいくのを感じた。その後もMVが投影された斜幕越しにパフォーマンスし、演出と一丸となり楽曲の本質を明瞭に届けた最新楽曲「Decorative」、穏やかなメランコリックで彩る「迷妄、取るに足らなくて」と、悲哀の感情へと丁寧に向き合う。宮下なりの方法で観客を優しく包み込むセクションだった。

 「ヲズワルド」では楽曲の切迫感を声で細部まで描き、「降伏論」では刺激的な光の演出とともに、反骨精神を思わせるたくましい声で魅了する。出口の見えない迷宮を体現するような「Ayka」では1曲のなかで様々な景色と感情を見せ、ディープな世界観で観客を鮮やかかつ心地よく翻弄した。「麒麟が死ぬ迄」は斜幕とステージバックにMVと歌詞が映し出され、映像の世界を立体的にした演出も見事。観客もMVのカラーに合わせてペンライトをピンクに変え、声が出せない環境ながらにステージと客席でひとつの空間を作り出していた。

 じっくりと仄暗いムードで引き付ける「ハチェット」とカバー曲「キルマー」を届けると、本編ラストは『見つけた扉は』を締めくくる楽曲「再生」。最新アルバムの世界と宮下の3年間の音楽活動を同時に体感できるセットリストは、彼がステージから去った後も観客を濃密な余韻で包み込んだ。

 アンコール1曲目は「輪廻転生」。リズムが心地よい楽曲ということもあり、バンドメンバーとのグルーヴを楽しむように気負わない様子で歌唱する。「今更緊張が解けてきました」と笑う彼は、「応援してくれている皆さんのおかげで、Zepp DiverCityのステージに立てています。自分が観に来ていた会場のステージに立っているって何?って今でもふわふわしてるくらい(笑)。でもこれからも、どんどん大きいところでライブができたらなと思っているので、これからもよろしくお願いします」と頭を下げた。

 ラストは「パラサイトピアノ」。音楽に執着するほどに魅せられた楽曲の主人公の心情と、宮下の音楽に対する思いがリンクし、より強いメッセージが波動となって飛び込んでくるようだった。歌い終えた彼は「またどこかでお会いしましょう!」と爽やかにステージを去った。初めての試みが随所に詰め込まれた90分間に、またさらに彼の世界が広がっていくことを予感させた。まだまだ彼の世界は大きく深く広がっていく――そう確信させる、夜明け前のようなライブだった。


Text:沖さやこ
Photo:小松陽祐[ODD JOB]


◎ライブ情報
【彼方 ~宮下遊ワンマンライブ2022~】
2202年7月10日(日)
東京・ZeppDivercity

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