2022/07/11
「レコチョク上半期ランキング2022」が発表され、音楽ジャーナリスト柴那典氏による考察レポートが到着した。
■2022年上半期ランキングではAimerが躍進
レコチョクが発表した「2022年上半期ランキング」には、移り変わる音楽シーンの潮流が反映されている。各種チャートから見えてくる今年の状況を読み解きたい。
まず、2022年上半期に最も活躍したアーティストとして真っ先に挙げられるのが、ダウンロード部門「レコチョク上半期ランキング2022」でアーティストランキング1位を獲得したAimerだろう。2021年12月に先行配信リリースされた「残響散歌」は、ダウンロード、ストリーミング(サブスク、dヒッツ)の3部門のシングル(楽曲)ランキングを制覇。「ハイレゾシングルランキング」もあわせて計5冠を達成した。
「残響散歌」は、2021年12月から2022年2月まで放送されたテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編オープニングテーマに起用された1曲だ。「紅蓮華」や「炎」などこれまでの「鬼滅の刃」の主題歌の数々はLiSAが歌ってきたが、遊郭編ではエンディングテーマの「朝が来る」と共にAimerが主題歌を担当。「残響散歌」はダイナミックな曲調と深みのある歌声、きらびやかなミュージックビデオがアニメと共に評判を集め、今年上半期を代表するヒットとなった。
この曲だけでなく、デビュー10周年を迎えたAimerが歌手として確固たる評価を高めてきたのも大きなポイントだろう。2016年リリースのアルバム『daydream』収録曲「カタオモイ」はストリーミングを中心にロングヒットを記録し、今年は「THE FIRST TAKE」に登場し、1月には「カタオモイ」、翌月には「残響散歌」を披露したことも大きな話題を呼んだ。2月には全楽曲のストリーミング配信を解禁。そして2月から6月にかけては自身最長となる全国ホールライブツアーも開催した。ヒットの背景に充実した活動があるのは間違いない。
■TVや映画のタイアップ曲が上位に
「2022年上半期ランキング」から見えてくるのは、テレビや映画の主題歌タイアップの強さだ。「残響散歌」だけでなく、人気アニメやドラマの主題歌が多く上位にランクインしている。特に、旬な話題曲が上位になるダウンロードランキングの「レコチョク上半期ランキング2022」にはその傾向が明確に示されている。
シングルランキング2位のKing Gnu「カメレオン」は、フジテレビ1月期 月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』主題歌。King Gnuは『劇場版 呪術廻戦 0』主題歌の「一途」(11位)、エンディングテーマ「逆夢」(6位)と計3曲をランキング上位に送り込み、ダウンロード部門のアーティストランキングも2位。今年11月には東京ドーム2days公演も決定し、今の日本を代表するスタジアムクラスのロックバンドとしてシーンの最前線を走り続けている。
他にも、Official髭男dismの「ミックスナッツ」(3位)はTVアニメ『SPY×FAMILY』オープニング主題歌、米津玄師「M八七」(5位)は映画『シン・ウルトラマン』主題歌と、大物アーティストと人気アニメや注目映画のタイアップ曲がTOP5にランクインしている。
こうした背景には、コロナ禍で音楽だけでなくエンタメ全体に大きな逆風が吹いた2020年と2021年からの“揺り戻し”もあるのではないかと考えられる。外出自粛の影響もありスマートフォンを通して自宅で音楽やエンタメを楽しむ人が増えた過去2年は、YouTubeやTikTokといった動画サイト、SNSから注目を集めたアーティストが次々とブレイクを果たした時期だった。特に、YOASOBI「夜に駆ける」、Ado「うっせぇわ」、優里「ドライフラワー」など、2020年から2021年を代表するヒットソングの多くは、タイアップもなく、リリース当時にはマスメディアへの露出がほとんどなかったタイプの楽曲だ。
対して、2022年の春からはまん延防止等重点措置の解除もあり、社会の中でのエンタメを巡るムードも少しずつ変わってきている。そんな中で、“パーソナルな手のひらサイズの画面”であるスマートフォンがエンタメとのアクセスポイントとして絶大な位置を占めていた過去2年に比べて、テレビや映画の“話題喚起力”も復権してきているということなのではないだろうか。公開6週目で興行収入76億円を突破した『トップガン マーヴェリック』にレディー・ガガが主題歌として書き下ろした「ホールド・マイ・ハンド」が洋楽曲のダウンロードランキング1位となっているというのも象徴的な出来事だ。
ただし、特筆すべきは、ランキング上位になった楽曲は、どれも曲自体の評価が高いということ。作品のテーマに寄り添った歌詞の内容や、斬新さと大衆性を併せ持つ曲調など、それぞれのアーティストや作家のクリエイティブの部分が人気の理由となっている。アニメやドラマの主題歌タイアップはメディア露出も多く話題性に結びつきやすいが、それだけではヒットに結びつかない。あくまでポイントは曲のクオリティにあると言えるだろう。
■注目の新人にKep1erとLizabet。そしてBE:FIRSTの躍進
そういう意味では、今回の「新人アーティストランキング」も興味深い結果となっている。ダウンロード部門「レコチョク上半期ランキング2022」では、Lizabetが「新人アーティストランキング」1位を獲得した。これもドラマの主題歌タイアップによる結果だ。
Lizabetは、英国人とベトナム人の両親のもと、香港で生まれ育った16歳のアーティスト。彼女のデビュー曲となったのが、TBS系日曜劇場『DCU』の主題歌である「Another Day Goes By」だ。作曲とプロデュースを手掛けたのは、これまで数々のヒットをJ-POPシーンに送り出してきた小林武史。ドラマの放送スタートと共に楽曲とアーティスト情報が解禁となり、2022年1月31日には楽曲の配信と同時にMVが公開。3月9日にデビューCDシングル「Another Day Goes By」がリリースとなった。
まだ発表されているのはシングル収録の3曲のみだが、ひとたび聴けば、透明感を持ち奥深さも感じさせる歌声の表現力が鮮烈な印象を残す。ミュージックビデオの監督を岩井俊二が務めるなど彼女の才能に多くのクリエイターが惚れ込んだ理由も納得だ。香港を拠点にしているがゆえに日本ではほぼ活動が見られないが、さらなるブレイクの予感も大きい。
また、ストリーミング部門「レコチョク上半期サブスクランキング2022」では、9人組グローバルガールズグループ・Kep1erが「新人アーティストランキング」1位を獲得している。韓国のオーディション番組『Girls Planet 999:少女祭典』(通称:ガルプラ)から誕生したグループで、2022年1月3日にミニアルバム『FIRST IMPACT』で韓国デビュー。番組の話題性や2年半という期間限定の活動ということもあり当初から注目は高く、特にデビュー曲「WA DA DA」は聴いたら耳から離れなくなるタイプのダンスサウンド、サビの特徴的な振り付けが人気となり、TikTokやYouTubeでのダンスの流行もあり、各国でのブレイクに結びついた。
昨年「レコチョク年間ランキング2021」「レコチョク年間サブスクランキング2021」の「新人アーティストランキング」で1位を獲得したBE:FIRSTの躍進も続いている。BE:FIRSTは、SKY-HIが設立したマネジメント/レーベル「BMSG」が主催したオーディション「THE FIRST」から誕生した7人組ダンス&ボーカルユニット。2021年8月にプレデビュー曲「Shining One」を配信リリース。11月にリリースしたデビュー曲「Gifted.」も大きな注目を集め、2022年に入っても「Brave Generation」「Bye-Good-Bye」「Betrayal Game」など話題曲を連発。特に「Bye-Good-Bye」は「レコチョク上半期ランキング2022」8位と上位にランクインしている。
■BTS、YOASOBI、Ado……スターダムを手にしたアーティストの未来
2022年の大きなトピックとしては、BTSがグループ活動に加えソロ活動も行っていくことを発表したこともあげられるだろう。いまや世界を代表するスターとなった彼らは「レコチョク上半期サブスクランキング2022」でもアーティストランキング1位と盤石の人気を示している。彼らの動向はK-POPだけでなく、今後の音楽シーン全般にも大きな影響を与えそうだ。
“国民的ユニット”となったYOASOBIも安定した人気を誇っている。昨年の「2021年年間ランキング」ではダウンロード、ストリーミング(レコチョクサブスク、dヒッツ)の3部門のアーティストランキングを制覇、計6冠を受賞という快挙を成し遂げたYOASOBI。デビュー曲「夜に駆ける」は今年に入っても驚異的なロングヒットを続け、「レコチョク上半期サブスクランキング2022」で5位。「dヒッツ上半期ランキング2022」では「アーティストランキング」1位。今年は直木賞作家4名とのコラボ・プロジェクトを始動、各地の夏フェスへの出演も決定するなど活動の幅を広げている。
デビュー曲「うっせぇわ」が2021年に社会現象的なヒットとなったAdoも着実にステップアップを果たしている。様々なボカロPをクリエイターとして迎え1月にリリースした1stアルバム『狂言』はダウンロード部門「レコチョク上半期ランキング2022」で「アルバムランキング」「ハイレゾアルバムランキング」で1位。「うっせぇわ」1曲の話題性に終わらず、歌い手としての支持を高めてきたことを証明した。4月には自身初のライブも成功、8月6日に公開される映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌と劇中歌を担当することも発表されている。両者とも、登場当初は“ネット発”と言われたアーティストがJ-POPのメインストリームを担うようになってきている今の時代を象徴する存在と言えそうだ。
いよいよ“2020年代の音楽シーン”の様相が明らかになってきた昨今。今年はTVアニメや映画の話題作の公開も控えている一方、TikTokでのダンスのムーブメントを起点にしたヒットもたびたび生まれ、エンタメ全般においてだいぶ賑やかなムードが戻ってきている印象だ。下半期も注目したい。
Text:柴 那典
【レコチョク上半期ランキング2022】
https://recochoku.jp/special/100944
【レコチョク上半期サブスクランキング2022】
▼上半期アーティストランキング2022
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000058786
▼上半期再生ランキング2022
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000058787
【dヒッツ上半期ランキング2022】
https://selection.music.dmkt-sp.jp/ft/sys00411
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