2022/06/17 20:00
2022年6月9日、ロックの日。この日、ロックバンドの“憧れの地”東京・日本武道館のステージに、Saucy Dogの3人は立っていた。今まさに勢いに乗る彼らの、全国ツアー【ARENA TOUR 2022 “Be yourself”】初日、自身2度目の日本武道館となった同公演の模様をレポートする。
開演前、席についていると不意に、ガタンゴトンと電車の通過音が聞こえた。驚いて耳を傾けると、次に聞こえてきたのは波の音。ときおり水鳥の鳴き声まで聞こえてきて、まるで海を見に向かっているような気持ちになっていると、波の音がしだいに大きくなっていく。なんだか海の中に入っているみたいだな――と感じた瞬間、突如会場が暗転し、海のなかに楽器が沈んでいくオープニングムービーがモニターに映し出された。楽器が沈んだ先を追うと、そこには海底都市が広がっていて……という意味深なムービーが終わると、そのまま流れるように1曲目「BLUE」がスタート。スモークが広がり、深い青の光で照らされた海底都市さながらのステージのなかで浮かび上がる3人の姿はとても神秘的だ。途中、石原慎也(Vo. / Gt.)が「武道館ー!」と360度いっぱいの観客に呼びかけると、全員が大きく手を挙げて応えた。
石原の「今までで言われていちばん悔しかった言葉」との前置きから披露されたのは「煙」。《「私達ね、もう大人だからね好きなだけじゃ一緒に/いられないのはもう分かっているよね? それじゃあまたね?」 》との歌い出しに、一転して会場はしっとりした雰囲気になる。続く「シーグラス」では会場のライトごと明るい雰囲気へと戻り、石原、秋澤和貴(Ba.)、せとゆいか(Dr. / Cho.)の3人が向き合って笑い合いながら演奏する姿も。その様子は心底楽しそうで、こちらまでつられて笑顔になるほどだった。
計6曲を立て続けに繰り出したあとは、ようやくMCタイムに。石原は「めちゃめちゃ……これって禁句だったっけ? 今日だけ言うわ、緊張してます!」と、素直な気持ちをこぼす。そして「早速なんですけど……まだどこにも出してない新曲を今からやろうかなと思ってます」と告げ、公演タイトルと同名の新曲「Be yourself」を披露。《君は君らしくいてね》《自分のために生きていいんだよ》という3人の大きなコーラスには、包み込まれるようなあたたかさがあった。さらにモニターには、さながらリリックビデオのように曲に合わせて歌詞が映し出され、観客は粋なサプライズと歌詞に込められたメッセージに胸を躍らせた。
会場が新曲の余韻に浸っていると、「この曲も、みんなにたくさん歌っていただいたり聴いていただいたおかげで、いろんな人に届けることができました」と語り始める石原。観客の期待が高まるなか、鳴らされたのはバンドの代表曲「シンデレラボーイ」。早朝、カーテンを閉めきった薄暗がりの部屋の中のような青白い照明が、歌詞で描かれている苦しさ、やりきれなさを一層リアルに伝えてくる。
続けて、サビ部分の石原、せとのハーモニーが切なく響く「今更だって僕は言うかな」を挟むと、ゲストミュージシャンとして、『THE FIRST TAKE』出演時にもサポートを務めた村山☆潤(Pf.)が登場。ピアノが加わった“スペシャルバージョン”で「魔法にかけられて」を奏でる。村山のソリッドなピアノの音が足されることで、石原の声の持つ切なさが一段と浮かび上がっていた。
そしてその編成のまま、ライブ恒例のアコースティックセットへ。せとへボーカルをバトンタッチすると、CDのボーナストラックである「煙草とコーヒー」「いつもの帰り道」を披露した。途中のMCでは、「去年はじめてSaucy Dogは武道館に立ちました。でも、緊急事態宣言まっただ中で……なんやろな、思い描いてた武道館とは違ってて。それはそれで、めちゃくちゃ幸せな時間だったんですけど……でも今回、見てください後ろまで(お客さんが)いる!」「武道館に来てくれたみんなが、こんな時期やけど、ちょっとでも自分たちらしく、みんならしくいてほしいと思って【Be yourself】というタイトルにしました!」と、せとが今回の武道館公演への思い入れを語る場面も。また、真剣な顔をしてアコースティックベースを弾く秋澤を「和貴、ずっと変な顔してる(笑)」と石原、せとがからかい、「リズムキープ!」と秋澤が穏やかに言い返す、3人の仲の良さがうかがえる一幕もあった。
ふたたびボーカルが石原に戻ると、さらにストリングスを加えたスペシャル編成で「結」へ。一気に壮大になった音像のなかでも、しっかり軸となって負けないスリーピースのサウンドが力強い。そのまま「ノンフィクション」へと流れ込むと、楽曲がもともと持つ爽やかさがピアノとストリングスで増幅され、思わず身体が動くような多幸感に満ちたアレンジに仕上がっていた。
切ない歌詞に石原の声の力強さが際立つ「リスポーン」を挟みつつ、アッパーチューン「雷に打たれて」、青春感あふれる応援歌「ゴーストバスター」でフロアの熱気を上げると、「もう1曲新曲やっていいですか? 今こんな状況だからこそ歌える曲、あなたに歌いたい!」と石原が叫ぶ。そして流れ出したのは最新曲「優しさに溢れた世界で」だ。曲終わりに投げかけられた「みんな、ちょっとずつでいいから、自分にも優しくなってあげて!」という言葉は、今のこんな世の中に向けて、石原が、Saucy Dogの音楽が、力いっぱいの優しさを届けたいという叫びのようにも聴こえた。
そして、石原はおもむろに「俺らは絶対に、ここにいるあなたの、人生を変えることはできないんだよね。でも手助けはできるんじゃないかなって思ってます」と語り出す。続けて奏でられた「猫の背」で《ずっと前だけを向いてなくて良い/叶うよ きっとさ》と歌われる詞は、先の言葉を受けて、よりその強度を増して胸に突き刺さってくるようだった。アンコールでは、ロングヒットを続ける代表曲「いつか」と、「グッバイ」を披露。《昨日までの自分にさよなら》のフレーズから、ラストの《グッバイバイ》とのリフレインは解放感たっぷり。まさに、暗く息のできない海底から徐々に明るい水面に浮かんでいくような、前向きな気持ちになれるセットリストだった。
Saucy Dogの楽曲がいま深く愛されている理由のひとつに、歌詞や本人たちのキャラクターの“等身大”の魅力を挙げる人も多い。このライブで彼らは、日本武道館という大舞台のステージでも、無理に背伸びしない”等身大”の姿で輝ける芯の強さをはっきりと見せつけた。7月6日には最新ミニアルバム『サニーボトル』のリリースも控えている。武道館をいっぱいに包み込んだ3人のエールは、これからもっと遠くへ、大きく響いていくはずだ。
Text by Maiko Murata
Photo by 日吉“JP”純平、白石達也
◎公演情報
【Saucy Dog ARENA TOUR 2022 “Be yourself”】
2022年6月9日(木) 東京・日本武道館
2022年6月10日(金) 東京・日本武道館
2022年6月14日(火) 愛知・名古屋ガイシホール
2022年6月16日(木) 大阪・大阪城ホール
<セットリスト>
1. BLUE
2. メトロノウム
3. 煙
4. シーグラス
5. 雀ノ欠伸
6. ナイトクロージング
7. Be yourself
8. シンデレラボーイ
9. 今更だって僕は言うかな
10. 魔法にかけられて
11. 煙草とコーヒー <Acoustic>
12. いつもの帰り道 <Acoustic>
13. 結
14. ノンフィクション
15. リスポーン
16. 雷に打たれて
17. ゴーストバスター
18. 優しさに溢れた世界で
19. バンドワゴンに乗って
20. 猫の背
En1. いつか
En2. グッバイ
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