2022/05/16
CDの売上だけのチャートではなく、Billboard JAPANのような様々な要素を複合した総合チャートにおいては、ロングヒットが非常に多い。裏を返せば、CDの売上数以外の要素の中に、ロングヒットするための特徴的なポイントがいくつか含まれている。わかりやすい例で、優里のヒット曲2曲を挙げてみよう。
2022年5月11日公開分のBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”では、10位が「ベテルギウス」(【表1】)、11位が「ドライフラワー」(【表2】)となっている。ご存じの通り、前者は2020年10月リリース、後者は2021年11月リリースとどちらの楽曲も長期でチャート上位にランクインし続けている、ロングヒットの教科書といってもいい楽曲だ。
この2曲に共通する特徴がいくつかある。ひとつは、フィジカルのシングルCDリリースがなく、配信オンリーであること。なかでもストリーミングに非常に強いのはこれらの楽曲の最大の強みである。さらにいうと、動画再生数のポイントも高いということ。そして、カラオケの歌唱回数のポイントも長期間にわたって上位であることだろう。一見これらの関連性はなさそうに思うかもしれないが、実はこの3つのポイントは密接にリンクしている。
優里の楽曲が高く支持されているのは、SNS上での盛り上がりがかなり反映されている。YouTubeの「歌ってみた」動画で何人ものYouTuberにカヴァーされているし、TikTokでの振り付け動画やBGM使いもかなり多い。それだけ彼の歌詞やメロディには何か引っかかる魅力がある証拠だろう。SNS使いをするなら、フィジカルの必要はなく、逆に何度でも再生できるストリーミングやYouTubeにアクセスするのは自然な流れだ。また、「歌ってみた」系動画の影響もあって、彼の楽曲を歌いたいと思うリスナーが多くなるのも当然。SNS上で盛り上がれば、自然とカラオケのチャートも上昇する。そして、ストリーミングもカラオケも瞬間的なチャートアップというよりも、じわじわとなだらかな坂道を上るように増えていくため、ロングヒットになりやすいのだ。
ひとつの楽曲が世の中に広まっていくために、じっくりと時間をかけるというのは、瞬発力のあるヒットよりも非常に健全ではないだろうか。情報量が膨大で、トレンドの流れも速い今、ロングヒットする音楽こそが真のヒット曲といえるのかもしれない。
Text:栗本斉
◎栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。
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