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2022/04/29

JUVENILE「皆さんの知っている歌がトークボックスに変わったらどうなるのか──」大瀧詠一の名曲から始まる新プロジェクトについて語る

 「From Tokyo To The World」を掲げ、RADIO FISH「PERFECT HUMAN」などを手掛けてきた楽曲群のYouTube総再生数は1億回以上。独自のCity Musicを発信し続けるDJ/アーティスト/音楽プロデューサーのJUVENILEが、4月29日にトークボックス・カバープロジェクト第一弾シングルとして「夢で逢えたら」を配信リリース。この新たなチャレンジのスタートを記念し、同プロジェクトに込められた想いを語ってもらった。

◎JUVENILE トークボックス・カバープロジェクト始動『夢で逢えたら』リリース記念インタビュー

<トークボックスとの出逢い:2PAC「カリフォルニア・ラブ」などのウェッサイ~FINGAZZの来日公演>

--どのような経緯や想いがあって、このタイミングでトークボックスに特化したプロジェクトを始動することになったのでしょう?

JUVENILE:あらゆるジャンルの方々とフィーチャリングさせて頂いたアルバム『INTERWEAVE』『INTERWEAVE 02』を2020年と2021年にリリースして、その中でもさりげなくトークボックスは入れていましたし、自分の中ではトークボックスと楽曲提供の二本柱で活動してきた感覚なんですけど、おそらく世間的には楽曲提供の印象のほうが圧倒的に強いと思うんです。なので、この辺りでトークボックスをもっと前面に押し出していきたいなと。分かりづらい楽器でもあるし、そもそもトークボックスを知らない人も多いと思うので、自分からアピールしたほうがいいのかなと思ったんですよね。

--アース・ウィンド・アンド・ファイアー「レッツ・グルーヴ」やボン・ジョヴィ「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」などトークボックス(トーキングモジュレーター)を用いた楽曲は誰もが聴いていると思うんですけど、たしかにトークボックス自体の認知度は低い印象があります。

JUVENILE:そうなんですよね。なので、トークボックス自体の認知度を上げたいと考えたときに、トークボックスのオリジナル曲を作り続けてもいいんですけど、それよりは有名な曲をカバーして、皆さんの知っている歌がトークボックスに変わったらどうなるのか。それを聴いてもらう形がいちばん分かりやすいんじゃないかなと思って。僕自身も皆さんがどういう反応をするのか見えないんですけど、まずはトークボックス・カバープロジェクトで試してみようと思ったんです。

--そもそもJUVENILEさんがトークボックスの存在を知り、活用するようになったきっかけって何だったんですか?

JUVENILE:ロボットボイスは元々近い場所にあったというか、シンセを扱うようになって、YMOを知って、その流れでボコーダーの存在も知るようになるんですけど、その時点では手を出そうと思わなかったんです。ただ、のちにヒップホップに傾倒するようになって、西海岸系のウェッサイを聴いていたら、2PAC「カリフォルニア・ラブ」とかトークボックスが出てくる楽曲に出逢うようになって。それで「これはボコーダーとは違うらしい。トークボックスと言うらしい」と知って、YouTubeでトークボックスの演奏動画を見たりしていたんですよね。それからしばらくしてFINGAZZ(フィンガズ)という音楽プロデューサー/トークボックス・プレイヤーが来日したときに、ライブを観に行ってから「自分もやりたいな」と思ったんです。その人はいろんな曲を作っていて、トークボックスもやっていて、今の僕とちょっと似たような感じだったんですよね。

<トークボックスの制作:DIYなんですよ。トークボックスという商品はどこにも売ってないので>

--今のJUVENILEさんのスタイルが確立されるきっかけにもなったと。

JUVENILE:地元の友達がラップしたり、DJしたり、ダンスしたりしている中で、僕は曲を作っているだけだったので、どうしても表に出られなかったんですよ。まだスマホもギリギリあったかどうかぐらいの時代で、今ほどSNSも盛んじゃなかったし、Myspaceぐらいしかなかったので、ライブやイベントに出ていくしか表に出る手段がなかったんですけど、トークボックスを使えばライブに出られるなと思って。それで機材を調べるところから始めて、手に入れられるモノはネットオークションとかで買って、ホースはホームセンターまで買いに行って……

--それを取り付けるんですか?

JUVENILE:そうです。今でこそ10年ぐらいトークボックスを扱っているので、自分の中での完成したセッティングがあるんですけど、そんなに音に拘らないのであれば、ぶっちゃけ何でもいいんですよね。鍵盤があって、スピーカーがあって、そこに差したホースを口の中に入れればいい。なので、DIYなんですよ。トークボックスという商品はどこにも売ってないので。

--トークボックス用のセットみたいなモノは売ってないんですね。

JUVENILE:そんなものはどの店にも存在しないんです。「これを買えば、すぐにトークボックスができる」みたいなモノはなくて。でも「スピーカーはこれがいい。アンプはこれがいい。キーボードはこれがいい」みたいな情報はネットで調べられるから、それをバイトしながら順番にひとつずつ買っていったんですけど、その当時、薦められていたシンセがFMシンセという、音づくりの方式がすごく難しいシンセで。今思えば、他のシンセでもよかったんですけど、当時はたまたま見つけたサイトに「FMシンセが良い」と書かれていたからヤフオクで買って、おかげですごく苦労したという思い出もあります。

--そのトークボックスを用いた初ライブも憶えていますか?

JUVENILE:初めて人前でライブをやったのは、三宿かどこかの小さいバーみたいなところで。トークボックスがいくつか並んでいて「ホースもあるから、やりたい人はどうぞ」みたいな体験も込みのイベントだったんですけど、そこにファンクが好きな、80年代が青春だった、トークボックスを使っている先輩ミュージシャンも集まっていて。ゴスペラーズの酒井さんもいらっしゃっていたと思うんですけど、その方々が当時19歳ぐらいの僕のことを気に入ってくれて、イベントとかも紹介して下さったりして。それがきっかけでいろんな場所でトークボックスのライブが出来るようになっていったんです。理由は分からないんですけど、その頃、ちょっとしたトークボックスブームがあって、交流会みたいなモノも結構あって盛り上がっていたんですよね。

<横山裕(関ジャニ∞)「やってみないと分かんない」の真相>

--前回のインタビュー(https://bit.ly/3OIq93V)で「僕が日本でプロだと感じるトークボクサーは5人ぐらい」と仰っていましたけど、やはり難易度の高い楽器ではあるんですか?

JUVENILE:難しいですね。難易度もそうなんですけど、伝わりづらい。『関ジャム∞完全燃SHOW』に出演したとき、横山裕(関ジャニ∞)さんが横でトークボックスを演奏しようとしても全然出来なくて「これ、やってみないと分かんない」と仰っていたんですけど、本当にやってみないとこの難しさは分からないんですよね。ただ、だからと言って「俺は物凄いことをやっているんだぜ?」みたいな感じを出すのは好きじゃないから、どう伝えればいいか毎回悩むんですよ(笑)。ただ、なんで難しいかと言ったら、おそらく人間の生理的感覚と逆行しているからだと思います。パッと見て「何がどうなっているのか分からない」と思うのは、人間の自然な発想と掛け離れているからだろうし、やっても出来ないのは、自然な流れじゃないことをしているからだと思うんですよね。なので、慣れるしかないんです(笑)。

--その不自然さに慣れるしかないと(笑)。

JUVENILE:「伝わりづらい」ということで言えば、楽曲提供するときに「トークボックス入れますか?」と聞いても「……トークボックスってなんですか?」みたいな感じになることがあるんですよ(笑)。だから「とりあえず、1回入れてみますね」と入れてみて、「どれがトークボックスですか?」「これですね」みたいな。そんな感じで、そもそもトークボックスが何なのか理解されないケースがめちゃくちゃ多くて。でも、それを1から10まで説明する必要もないのかなと思ったりもするし……この10年、そこはずっと手探りではあります。

--ちなみに、JUVENILEさんが「これは凄い」と思うトークボックスの名曲ってありますか?

JUVENILE:ザップ&ロジャーのロジャー・トラウトマン。トークボックスの神様的存在なんですけど、その人の曲はぜんぶ凄いですね。すべてが正解みたいな感じなので。あとは、僕がトークボックスを始めるきっかけとなったFINGAZZ(フィンガズ)ですかね。日本だと、Como-Lee(コモ・リー)さんというトークボックス演奏家がいるんですけど、その方の「何度も歌うよ」は日本語のトークボックスの中でいちばん良い曲なんじゃないかなと思います。トークボックスって上手い人じゃないと何を言っているのか、歌っているのか分からないんですよ。ということは、あんまり早口じゃないほうが良いんですけど、その曲は言葉数も少ないし、音符の数も少ないし、速い曲でもない。ただ、少ないメロディーって歌詞も少なくなるから情報量が減るわけじゃないですか。そうなると、グッと来させる曲にするのが大変なんですよね。ぐわぁーっと熱量高くいろんな言葉を畳み掛けることが出来ないから。でも、その曲は歌詞が素晴らしくて、言葉数が少なくてもグッと来るんですよ。トークボックスの歌として優れていますね。

<分かれ道があったらムズいほうを選んじゃう(笑)>

--そんなトークボックスの魅力を広めていくべく始動したトークボックス・カバープロジェクト、第一弾シングルとして大瀧詠一氏の名曲「夢で逢えたら」のカバーを配信リリースすることになりました。この曲のカバーから始めようと思ったのは?

JUVENILE:まず純粋に好きな曲なんですよね。あと、先程話した「何度も歌うよ」とも共通する「夢でもし逢えたら 素敵なことね あなたに逢えるまで 眠り続けたい♪」といったシンプルに伝わってくる歌詞とテンポ。これが早口だったりすると、あんまりトークボックスには向かないんですよね。だから、今回のカバープロジェクトは選曲が実に難しくて、向き不向きもあるし、トークボックスでやる意義がある曲かどうかも見極めなきゃいけないし、もうずっと「この曲どう?」みたいなやり取りをスタッフと続けているんですけど、その中でも「夢で逢えたら」はすべてがばっちりハマる曲で、権利元の方からもご了承を頂けたので、第一弾としてリリースすることにしました。奇しくもシティポップが流行っている昨今ですし、このタイミングで大瀧詠一さんの名曲をカバーできたことはとても嬉しいです。

--その名曲「夢で逢えたら」と向き合って、改めてどんな印象を持たれたりしましたか?

JUVENILE:結構カバーされていて、いろんなバージョンがあるじゃないですか。最初のバージョンは大瀧さんがプロデュースして吉田美奈子さんが歌われていて、そのあとにラッツ&スターさんがカバーするんですけど、まずそのふたつがかなり違うんですよ。で、大瀧さん自身が歌っているバージョンもあって、それは吉田美奈子さん寄りだったりするんですけど、とにかくいろんな「夢で逢えたら」が存在するし、吉田美奈子さんと鈴木雅之さんの歌い方も全然違うし、ラッツ&スターさんはブラックミュージック然としていて夜のイメージだけど、吉田美奈子さんは昼下がりに軽快に散歩しながら歌っているようなイメージだから、おそらく楽曲に対する解釈も違うし……「どうしようかな?」みたいな(笑)。

--どっちに寄せるか悩まれたわけですね。

JUVENILE:結果的にどっちとも言えない仕上がりになったんですけど(笑)、ちょっとバンドを意識したんですよね。今回のトークボックス・カバープロジェクトは、最終的に一枚のアルバムにしたいと思っているんですけど、そのアルバムの参加メンバーをなるべく固定したいなと。それで、藤田義雄(ギター)、原田ソウ(ベース)、宮脇翔平 (ピアノ)といった面々に集まってもらって、その3人+僕の両手で足りる、あんまり同期に頼りすぎない音楽を作っていこうと思って。そうすれば、このメンバーでそのままライブとかも出来るし。あと、カバーってメロディーも歌詞も決まっているじゃないですか。で、原曲に付いているコード進行も決まっているんですけど、せっかく達者なミュージシャンが揃っているので、それをそのままなぞるんじゃなくて、物凄く変えているんですよね。そこは僕が指示しているんじゃなくて、3人に任せていて、その結果として面白いカバーが生まれている。

--そんな新しい体制で臨んでいるトークボックス・カバープロジェクト。こちらと共に歩んでいく2022年はどんな1年にしたいと思っていますか?

JUVENILE:2年連続でフィーチャリングアルバム『INTERWEAVE』『INTERWEAVE 02』を制作&リリースして、今年はまたそれとは違うことをしているので、脳の使い方も違うんです。それは自分にとって良いことだなと思うし、楽曲提供などの他の仕事にも良い影響を与えていくだろうし、毎日楽しみながら活動できているので、このトークボックス・カバープロジェクトをちゃんとひとつずつ形にしていきたい。カバーは権利関係があるから承諾をもらうのも大変で、トークボックスでカバーとなると余計に理解されづらいんですけど、でも、これは自分で「やる」って言い出したことなので。極論を言うと、やらなくてもいいことなんですけどね(笑)。誰かにめちゃくちゃ熱望されたことでもないし、そういう意味では求められている楽曲提供だけを一生懸命やっていればいいんです。でも「それじゃダメですよ」とケツを叩いてくれる人がいて、自分も「自分でやりたいことを見つけてやっていくべきだ」と思うし、人を巻き込んでいけば責任も伴うんですけど、それに見合った作品をちゃんと形にしてドン!と世に収める。これを続けていくことが使命だと勝手に思っているので。

--例年同様、今年も道なき道を歩んでいくんですね。

JUVENILE:分かれ道があったらムズいほうを選んじゃう(笑)。でも、これは僕の人生のテーマなのかもしれないです。

Interviewer:平賀哲雄

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