2022/04/20
世界的野外音楽フェスティバル【コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバル】が、新型コロナウイルスの影響による2年連続の中止を経て、米カリフォルニア州インディオにて開催された。
ヘッドライナーにハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュ、そして直前で決定したザ・ウィークエンドとスウェディッシュ・ハウス・マフィアを迎えた今年のフェスティバルは、これまで以上に国際的かつ多様性を重視したアーティスト・ラインナップとなった。ここでは、2022年4月15日~17日にかけて実施されたウィークエンド1のBillboard JAPAN特派員によるレポートをお届けする。
つい先週まで北米ツアーを行っていたビリー・アイリッシュが、実に3年ぶりとなる【コーチェラ】の出演で、史上最年少となるヘッドライナーを務めることになった。そのタイトな演奏や演出など、最高の状態で乗り込んで来たパフォーマンスに期待が高まらないはずはない。今回のステージは、中央にスクリーンのスロープがあり、それを上がった左側にフィニアス、右側にドラマーのアンドリュー・マーシャルと、前回の【ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ・ワールド・ツアー】と同じ編成だ。筆者は、ビリーの歌声がオーディエンスのシンガロングでかき消されないよう、ステージからある程度離れつつ、演出も堪能できる絶妙なスポットから鑑賞することにした。
照明が暗転すると悲鳴にも近いガールズ・ファンの叫び声が響き渡り、デビュー・アルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』からの大ヒット曲「ベリー・ア・フレンド」で、会場のエネルギーは早くも最高潮に達した。セカンド・アルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』の「NDA」では、MVのように何台もの車がビリーの横を通り過ぎる躍動感をスクリーンを使用して再現した。ドラムのリズムが継続したまま「ゼアフォー・アイ・アム」へ突入すると、ビリーは観客の間に設置された花道(キャットウォーク)を四つん這いになって文字通り”キャットウォーク”した。
「やあ、みなさん。これはクレイジーですね。なんてことでしょう。私の言っている意味わかりますか?」と彼女はステージから見える観客の多さとヘッドライナーとしてパフォーマンスしていることに感嘆した。そして「元気ですか?一番後ろも、右も左も、真ん中も前方にいる人、大丈夫ですか?楽しむ準備はできていますか?」とオーディエンスに確認すると、「マイ・ストレンジ・アディクション」を演奏した。続く「アイドントワナビーユーエニーモア」では、伸びやかで透き通ったボーカルを披露し、カリードがゲストとして登場した「ラヴリー」では、互いのボーカルの特徴を活かした、これ以上ないほど完璧なデュエットを聞かせた。
まだ夢心地の様子のビリーは「本当に奇妙です。私がヘッドラインをするなんて。みんながここにいて、私もここにいて、本当に夢が叶いました。(前回の出演から)3年が経ったなんてクレイジーです」と述べ、オーディエンスに「他人に迷惑をかけない、他人を批判しない、楽しむ」という彼女のライブでの3つのルールを伝えた。そして「体をほぐして、自由になって、心地良く、良い事だけを思い描き、ジャンプして楽しんでください」と念押しすると、「ユー・シュッド・シー・ミー・イン・ア・クラウン」をパフォーマンスした。背後のスクリーンにメリー・ゴーランドを映し出して演奏した「ハリーズ・コメット」では、スロー・テンポのメロディと見事に絡み合った美しい歌声で魅了した。続く「オキシトシン」では、「ここは【コーチェラ】。ここでは、私たち全員が公平で、地位も年を取っていようが若かろうが、あなたが誰かなんて関係ない。合図をしたら低く屈んで、ジャンプしてください」とリクエストした。低く屈む前には、EP『ドント・スマイル・アット・ミー』から「コピーキャット」のサビを差し込み、豪華な特別バージョンとなった。
「イロミロ」、「アイ・ラヴ・ユー」、「ユア・パワー」の3曲では、ビリーとフィニアスがステージ中央のイスに腰掛け、ミニマルなサウンドと息の合ったボーカルで聴き手を魅了した。「さっきの曲で、守られていると感じることが私にとって本当に重要です」と彼女は「ユアー・パワー」について言及し、「権力を乱用しないこと、そして若いガールズたちを守ることが本当に大切だと思います」と訴え、「ノット・マイ・レスポンシビリティ」のMVが流れている間に音響ブースの後ろにあるクレーンに移動した。クレーンに乗ったビリーは、後方にいるオーディエンスに向かって「オーヴァーヒーテッド」、観客にスマホのライトを付けて振るようにリクエストした「ベリーエイク」、心が清められるような真っ青で濁りのない歌声で「オーシャン・アイズ」の3曲を歌唱した。
昨年リリースされた『ハピアー・ザン・エヴァー』の1曲目に収録されている「ゲッティング・オールダー」では、文字通りビリーが赤ちゃんだった頃から成長していく写真が何枚もスクリーンに映し出された。それまでパフォーマンスをしていた音響ブース後方から彼女が花道を通ってステージに戻ると、そこにはなんとデーモン・アルバーンが待ち構えており、後半部分を共演するというサプライズが用意されていた。
「みなさん、静かにしてください。ゴリラズのデーモン・アルバーンを温かく迎えてください!今まで経験した中で最もクレイジーな体験だと思います」と興奮を抑えきれない様子で彼女は述べ、「彼はたくさんの意味で私の人生を変え、音楽のあり方、芸術のあり方、創作のあり方について、私の考えを完全に変えてくれました」と説明した。6歳の時に最初に好きになったバンドが、「世界を変え、そしてその少女が世界を変えました。彼は天才です。【コーチェラ】、フィール・グッドですか?」と前置きをすると、デ・ラ・ソウルのポスが加わり、ゴリラズの「フィール・グッド・インク」が披露された。ビリーは積極的に歌唱に参加すると言うよりも、むしろファンとしてデーモンとポスのパフォーマンスに見惚れており、その姿に20歳の女の子なのだと微笑ましくなった。10代の頃から音楽が高く評価され数々の賞を受賞し、精力的に音楽制作を継続し、アリーナ・ツアーも大成功させ、常に走り続けている彼女が自分自身に贈ったご褒美のようにも思えた。
デーモンとの2曲の共演後、自分のペースに戻すのに戸惑い気味だったビリーは、「みなさん、デーモンが私にとってどれだけ意味があるかわからないかもしれませんが、私は死にそうなぐらいです」と心境を説明した。「この瞬間を生きましょう。みなさんに私たちが生きていて、呼吸をしていて、ここにいることに感謝して欲しいです。これまでとても長いクレイジーな3年間でした。私たちは楽しみ、幸福と安心を感じるに値します。目を閉じて、深呼吸をしてください」と話すと、「ホエン・ザ・パーティーズ・オーヴァー」を披露した。そして、オーディエンスの安全を願って歌った「エヴリシング・アイ・ウォンテッド」では、「本当に私たちは地球や他の人を大事にするためにより務めないといけないですし、他の人の味方をする必要があります」と語った。
スロー・テンポからドラマチックな雰囲気に移行していくラストの「ハピアー・ザン・エヴァー」の終わり方は見事としか言えなかった。エレキ・ギターをかき鳴らす音、低音のドラム・ビート、そしてビリーの叫び声に合わせて、照明のストロボとスクリーンが稲妻のように光を放つと、強烈なエネルギーが会場を満たした。限られた時間でもファンが満足できるように一部の楽曲はショート・バージョンに編曲されていたが、これまでリリースしたシングル曲、EP、アルバム2作からバランス良く演奏した最高で最強なセットリストだった。
今回のパフォーマンスで感じたのは、ビリーにとってコンサートはファンとの最大のコミュニケーションの場なのだということだ。メッセージがつまった楽曲を一方的に届けるのではなく、一緒に飛び跳ねたり、踊ったりしながら、喜びを共有したいという想いがひしひしと感じられた。そこには誰が偉くてそうでないという考えはない。誰もが平等という考えが根底にあり、それを守るための彼女なりのルールもある。そして若い女性たちを守り、地球や他人のために立ち上がることが重要なのだという、彼女のメッセージに溢れたライブだった。
Photo: Courtesy of Coachella / Charles Reagan
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