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2022/03/25

『クラッシュ』チャーリーXCX(Album Review)

 チャーリーXCXの名前が世界中に知れ渡ったのは、ちょうど10年前にリリースされたアイコナ・ポップとのコラボレーション「アイ・ラヴ・イット」(2012年)。その2年後には、フィーチャリング・アーティストとして参加したイギー・アゼリアの「ファンシー」(2014年)が爆発的にヒットして、10年代を代表するポップ・シンガーとして君臨。今でも女性を中心としたファンのアイコン的な存在で支持されている。

 あの頃から独特な味わいのある、まさに“ファンシー”なイメージに変わりはないが、9年も経てばそれなりの変化と自己が強調されてくるもので、ここ最近は“より”これまでと違う路線で攻めている印象を受けた。大胆な衣装とメイク、サウンド・プロダクションも、2年前にリリースした前作『ハウ・アイム・フィーリング・ナウ』とは一線を画す。

 昨年9月にリリースしたリード・シングル「グッド・ワンズ」は、ソングライターにマットマン&ロビン、プロデューサーにオスカー・ホルターを迎えたダンス・ポップ。80年代のニューウェーブっぽくもあり、10年代のEDMも取り入れたサウンド・スタイルは、初期のレディー・ガガを彷彿させる。パートナーの死を嘆き自暴自棄になる様を画いたミュージック・ビデオも、ランジェリーの喪服で情熱的なダンスの追悼をする独特のパフォーマンスが、ガガ風(メイクも?)。

 同曲を筆頭に、アルバム全体のテイストは昨今のブームに則ったエイティーズの要素が満載。前期よりは後期寄りの音を再現した印象で、ハウスの名作と名高いロビンS.の「ショウ・ミー・ラヴ」(1990年)をサンプリングした英国産アシッド・ハウス「ユースト・トゥ・ノウ・ミー」や、The 1975のドラマー=ジョージ・ダニエルが手掛けたニュージャック・スウィング路線の「クラッシュ」など、40代以降のリスナーにも“懐かしさ”がこみ上げる。

 近年はTikTokでのバイラル・ヒットが注目されているが、80年代といえばマイケル・ジャクソンを筆頭にMTVが流行に強く影響を及ぼしてきた。本作には、割れるようなシンセをバックに機械的な猫撫で声を纏わせるマドンナ風の「ライトニング」や、電子ドラムとシンセサイザー、キャッチーなメロディ、エコーをきかせたボーカルまで当時を忠実に再現した、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズ&キャロライン・ポラチェックとのコラボレーション「ニュー・シェイプス」、繊細な乙女心をメロディに反映したシンセ・バラード「エヴリ・ルール」など、MTVでの反響を受けてヒットした“あの頃”の痕跡が含まれている。「エヴリ・ルール」は、良い意味でチープな作りのビデオも“まんま”80's。

 本作の中でも高い人気と再生数を獲得しているのが、友人でもあるリナ・サワヤマをフィーチャーした「ベッグ・フォー・ユー」。両者の個性、相性の良さが際立つガラージ・ハウス風の傑作で、UKシングル・チャートでは29位に、最高13位を記録したトロイ・シヴァンとのコラボ曲「1999」(2018年)以来のTOP40入りを果たしている。東映不思議コメディー・シリーズのようなツッコミどころ満載のMVでは、両者ダンサーを引き連れてコンテンポラリー・ダンスを披露。2人がただ絡み合う別バージョンも(違う視点で)インパクトに富んだ仕上がりだった。

 「ベッグ・フォー・ユー」に続いて発表したばかりの最新シングル「ベイビー」も、本人がお気に入りと公言するだけのクオリティ。ストリングスとカッティング・ギターがレトロ感を醸すディスコ時代と、自身が活躍した10年代以降のエレクトロ・ポップが絶妙にブレンドされていて、新旧のハイブリッド・バランスも完璧。ミラーボールのライトが覆う部屋の中で妖艶に踊るMVも、サウンド、性的欲望をそそる歌詞に直結したいい仕上がりだ。リリースしたのは直近だが、歌詞を書き始めたのはアルバム中もっとも早かった曲だそうで、本作のイメージを決定づけたのはこの曲だったのかもしれない。

 ディスコを取り入れた曲では、弾力のあるベースラインとグルーヴがデュア・リパの「レヴィテイティング」を彷彿させる「ヤック」も傑作。サウンドのみならず歌詞も負けじと悩殺的で、その中には「今、日本に着いたところよ」というフレーズもあり、変わらずの日本愛も伺えた。アップでは、解放感ある歌詞を良質なメロディ・ラインに乗せた「コンスタント・リピート」もチャーリーらしい好曲。一方、不穏な心情を煽る不安定なリズム、うねるようなボーカル・ラインの「ムーヴ・ミー」、終始ソフトなボーカルで人生をポジティブに肯定する最終トラック「トゥワイス」といったミディアムも充実していて、出世作『サッカー』(2014年)以来の“興奮”があった。

 タイトルである『クラッシュ』には衝突や爆発といった意味が含まれるが、比喩的にも“まさに”といったところで、この挑戦、変化、アプローチは大成功だったといえる。事故を起こした車のフロントで流血しながら見据えるカバー・アートにも、(自分を)破壊して脱出しようというその情熱が伺えた。サウンドにおいても、前述にあるように時代、ジャンルを超越したチャーリーならではの“ポップ・カルチャー”を解放。これからの活躍が楽しみだ。

Text: 本家 一成

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