2022/02/09
サックス&クラリネット奏者としてCalmera(カルメラ)やPOLYPLUS(ポリプラス)、そしてソロミュージシャンとしても大活躍中の辻本美博。昨年のインタビュー(https://bit.ly/3GwZEZZ)で「演奏家が夢をちゃんと叶えられる世界を実現したい」と語っていた彼が、その想いを実現するべく新時代のクラリネット奏者たちと【東京クラリネットフェスティバル】を2月5日 メルパルク東京ホールにて開催した。
<新時代のクラリネット奏者6者6様のアクト>
新型コロナの影響で演奏活動が思うようにできなかったり、生の演奏会を観る機会を奪われてきてしまった学生たちを招待し、未来の音楽シーンを担う若き才能たちのモチベーションを上げるきっかけを作りたい。そんな想いもあって実現したこのイベントには、そのコンセプトに賛同してくれたクラリネット奏者(大野まりか、Akane、ヨウスケ(ニューポテトパーティー)、千花音、榊原花梨)や支援者、そして、学生たちを含むオーディエンスが集結。ロビーでは、同イベントの趣旨に賛同したビュッフェ・クランポン・ジャパン、クラリネット専門店 トニック楽器、岡山&巣鴨 服部管楽器、サッポロビール SORACHI1984のブースも設置され、会場は開演前から大きな賑わいを見せていた。
そんなクラリネットシーンに新たな旋風を巻き起こすべく開催された東京クラフェスは、クラリネット奏者6名に加え、スペシャルバンドメンバー(カワムラヒロシ(g)、片野吾朗(b)、千葉岳洋(pf)、きたいくにと(dr))と共にスウィング・ジャズの大名曲「Sing,Sing,Sing」の豪華セッションでスタート。それぞれの個性と技術がぶつかり合うオープニングアクトで盛大にイベントの幕を開けた。そして、主催者の辻本美博が出演者をひとりひとり紹介し「ここからは我々それぞれのソロステージもあったり、エンディングでまた他では体感できない、この6管のクラリネットとバンドのアンサンブルをお送りしたいと思います」と告げると、コロナ禍でも歩みを止めずに音楽を届け続けている、新時代のクラリネット奏者6者6様のアクトが繰り広げられていく。
<ライブレポ:大野まりか、Akane、ヨウスケ(ニューポテトパーティー)>
トップバッターを飾った大野まりかは、ベル、下管、上管、バレルとクラリネットのパーツをひとつずつ外しながら演奏し、最後はマウスピースだけの演奏で終わる「Immer Kleiner」を冒頭から披露(普段は外したパーツを客席に投げ入れるという、彼女独自のパフォーマンスを展開しているのだが、ご時勢的にそれは自粛し、共演者のヨウスケに執事役を担ってもらい、取り外したパーツを預かってもらうスタイルに)。また、正装から急遽ミニスカ&ヘソ出しルックに早着替えし、バンドと共に「Stand up」なるクラリネットでJ-POP的アプローチをしていくオリジナル曲もお届けし、現役大学生の最年少メンバーらしく、初心者でも楽しめるアクトでオーディエンスを扇情していった。
続いて登場したAkaneは、吹奏楽でもスタンダードナンバーとなっている「オーメンズ・オブ・ラブ」なるT-SQUAREの名曲を軽快に披露。また、神聖かまってちゃん『僕の戦争』(TVアニメ『進撃の巨人 The FinalSeason』OPテーマ)やアニメ劇伴のレコーディングに参加したり、TikTokやYouTubeでもよくアニソンの演奏動画を発信していることもあって、これまたクラシック畑以外のリスナーでも楽しめる、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌「残酷な天使のテーゼ」「魂のルフラン」をメドレー形式で展開し、さらには「コロナで奪われたたくさんの青春があると思います。何にも制限されることなく、青春を謳歌できる明るい未来が来ることを祈って──」とカーペンターズ「青春の輝き」を優しさに満ちた音で届けてくれた。
続くヨウスケ(ニューポテトパーティー)は、クラリネットの標準的なレパートリーとして定着しているヨゼフ・ホロヴィッツの「Horovitz Sonatina for Clarinet and Piano」を第一楽章から第三楽章までピアノとお届け。卓越した演奏力と情感豊かな表現力でもって、観客をその優美でユーモラスでドラマティックな世界へ飲み込んでいく。テレビコマーシャルでも度々使用されてきた名曲ということもあって、誰もが楽しげにその演奏に酔いしれていたのだが、この曲の演奏後に誰もが想像だにしていなかったサプライズが。ステージを後にしようとしたところをピアニストに呼び止められ、さらにはクラリネットを持つことも制止され、まさかの「O Sole Mio」をアカペラで熱唱! その歌唱力の高さでも我々を驚かせてくれた。
<ライブレポ:千花音、榊原花梨、辻本美博>
そんな前半戦からそれぞれに個性剥き出しのアクトで度肝を抜いてくれた東京クラフェスだが、後半戦も観客を一切飽きさせることのない、刺激的なクラリネット・エンターテインメントが繰り広げられていく。様々なコンテストで最高位を記録し、人気音楽番組『ミュージックステーション』に出演した経験もある千花音は、ガーシュウィンの「Rhapsody in Blue」をピアノと優しく寄り添うように、時に激しくぶつかり合うように、13分にわたって熱演! さらには「吹奏楽ではド定番でも、クラリネットとピアノの編成での演奏は珍しいと思うんですけど、クラリネットの音が魅力的に聴こえるアレンジになっていますので、ぜひお聴き下さい」とT-SQUAREの「宝島」も披露。原曲にも勝るとも劣らぬ爽快な風をその音から体感させてくれた。
続く榊原花梨は、エレクトーンとピアノを従えてディズニーの名曲たちをクラリネットで次々と披露。神々しいオーケストレーションと共に奏でた「ノートルダムの鐘メドレー」から始まり、映画『ムーラン』よりクリスティーナ・アギレラの歌唱でも有名な「Reflection」、映画『ポカホンタス』より「Color of the Wind」と畳み掛け、会場をファンタジックな世界へと染め上げていく。ディズニー各作品への愛情溢れる解説付きで届けてくれるのも有り難く、その後に演奏された「輝く未来」(塔の上のラプンツェル)や「Friend like me」(アラジン)、そして「A whole new world」(アラジン)に至るまですべて物語をイメージしながら堪能することができ、最初から最後までハートフルな気持ちにさせてくれるアクトであった。
そして、応援に駆け付けてくれた盟友・ゲッターズ飯田に無料で占ってもらえるジャンケン大会で盛り上がった後は、東京クラフェスのトリへ。同イベントの主宰者である辻本美博のターンである。この日は常にステージ上で司会進行も務めていたのだが、やはり彼が最も輝く瞬間は音楽を奏でるときであり、冒頭にも登場したスペシャルバンドを従えてクラリネットを吹く姿はまさに水を得た魚。数々のチャートで1位を総ナメしたクラリネットデビューアルバム『Vermilion』の収録曲を次々と披露してくれたのだが、CalmeraやPOLYPLUSで幾多数多のライブを経験してきた猛者は、その手に持つ楽器がサックスからクラリネットに変わろうと演奏に込められる熱量の高さは変わらず。管楽器でここまで多種多様なグルーヴを生める音楽家が他にいるだろうか。未来のプロ演奏家たちにとっても刺激的なステージになったことは間違いない。
<賽は投げられた──東京クラフェスが切り拓いた未来>
こうして個性と個性のぶつかり合いとなった東京クラフェスだが、最後は再び6人揃い踏みでスペシャルバンドと共にヒットメドレーを展開。令和のチャートを賑わせているJ-POPの名曲たちをインストゥルメンタルのセッション形式で披露する、これだけでも他に類を見ないアプローチなのだが、終盤のあらゆる名曲たちのフレーズを6人6様に複雑に交差させながら、ひとつの音楽を完成させる展開は実に衝撃的だった。この6人で今後もユニットを組んで活動してほしいと思うぐらい、最後の最後までエキサイティングだった東京クラフェスは、ここに集結した人々を中心に未来へと語り継がれていくことだろう。
ちなみに、辻本美博は前述のソロアクトで「鈴懸の径」なる昭和の名曲をカバーした。これは今は亡き伝説のジャズ・クラリネット奏者・鈴木章治が4拍子にジャズアレンジして大ヒットさせたナンバー(オリジナルは灰田勝彦が歌唱したもの)で、この曲のようにクラリネットがヒットチャートを賑わしたり、人気音楽番組でフィーチャーされたりする「未来を切り拓きたい」という想いで披露したわけだが、それはきっと夢物語では終わらないだろう。東京クラフェスは「演奏家が夢をちゃんと叶えられる世界を実現したい」これを実現する為に開催されたイベントだ。すでに賽は投げられた。もちろん簡単なことではないと思うが、クラリネットの魅力を東京クラフェスで知った身として断言してしまおう。この夢は必ず叶う。というわけで、今後の辻本美博、新時代のクラリネット奏者たちの動向にもぜひ注目してほしい。
<東京クラフェスの舞台裏を主催者 辻本美博がすべて話します>
なお、2月14日には、長引くコロナ禍で大変な想いをしているライブハウスを少しでも応援するべく、辻本美博の誕生日記念イベントとして無観客有料配信トークライブ【東京クラリネットフェスティバルの舞台裏を主催者 辻本美博がすべて話します】が六本木CLAPSにて開催される。こちらもお見逃しなく!
取材&テキスト:平賀哲雄
カメラマン:黒木治、門脇究、有本茜
◎辻本美博 ツイッターアカウント
https://twitter.com/tsuujiimot
◎イベント情報
辻本美博 誕生日記念!つーじートークライブ【東京クラリネットフェスティバルの舞台裏を主催者 辻本美博がすべて話します】
2022年02月14日(月)六本木CLAPS
配信スタート予定:19:00
※リアルタイムで見られない方は、配信後も2週間視聴できます。
配信チケット料金:2,000円(税込)
https://c-laps.jp/events/220214_tsujimoto-yoshihiro/
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