2021/12/03
2021年の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”は、モーガン・ウォレンの『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』が年間1位に輝いた。
モーガン・ウォレンは、米テネシー州出身の男性カントリー・シンガー。本作は、2018年4月にリリースしたデビュー・アルバム『イフ・アイ・ノウ・ミー』から約3年ぶり、自身2作目のスタジオ・アルバムで、1月23日付チャートで自身初のNo.1デビューを果たし、3月27日付チャートまでの計10週首位をキープして、集計期間終了の11月27日付チャートまで45週間TOP10にランクインし続けた。
カントリー・アルバムが累計10週以上首位を獲得したのは、18週を記録したガース・ブルックスの『ローピン・ザ・ウィンド』(1991年から92年)、17週を記録したビリー・レイ・サイラスの『サム・ゲイブ・オール』(1992年)、11週を記録したテイラー・スウィフトの『フィアレス』(2008年から09年)の4作のみで、そのうち『サム・ゲイブ・オール』(17週連続)と本作『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』の2作のみ、連続記録として10週を超えている。
初週のアルバム・ストリーミングは、男性カントリー・アーティストの歴代最高記録2億4,018万回を打ち出し、累計ユニット数は発売1年足らずでダブル・ミリオンを突破した。アルバムはタイトルの通り2枚組、全30曲という大ボリュームで、ストリーミング数を獲得しやすいともいえるが、ストリーミングの弱いカントリー系のアーティストが、先行シングルの大ヒットもなくこの数字を叩き出したのは異例といえる。本作の大ヒットを受けて、デビュー作『イフ・アイ・ノウ・ミー』も今年の年間38位にランクインした。
カントリー・アルバムが年間首位に立つのは、テイラー・スウィフトの『フィアレス』が獲得した2009年以来11年ぶりで、男性アーティストではガース・ブルックスの『ローピン・ザ・ウィンド』が記録した1992年以来、29年ぶりの快挙となる。それ以前には、1972年にニール・ヤングが『ハーヴェスト』で1位を獲得しているが、本作はカントリーの要素はあるものの、正式なカントリー・アルバム(カントリー・シンガー)にはカテゴライズされていないため、過去50年間では『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』と『ローピン・ザ・ウィンド』の2枚のみ、ということになる。
『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』が大ヒットしている最中の2月2日、モーガンが夜中に友人と騒ぎ、放送禁止用語や差別用語を叫ぶ様子を捉えた映像が米ニュース・サイトTMZで報じられ、レーベルのBig Loudは契約を無期限で停止すると発表し、影響力のある多くのラジオ局やストリーミング・サービスが、モーガンの音楽をプレイリストから削除した。【アカデミー・オブ・カントリー・ミュージック・アワード(ACM賞)】も除外を発表するなど大騒動に発展したが、アルバムのヒットには影響を及さず、むしろ騒動の翌週は各ポイントが10%以上伸びたという日本では考えられないチャート・アクションが起きた。
続いて年間2位にはオリヴィア・ロドリゴの『サワー』がランクイン。6月5日付チャートでNo.1デビューを果たし、7月3日、7月17日から24日、9月4日付チャートの非連続、計5週をマークして、集計終了の11月末まで26週連続でTOP10にランクインし続けるロングヒットに至った。
女性アーティストのデビュー・アルバムが年間TOP3にランクインするのは、2019年のアルバム・チャートを制したビリー・アイリッシュの『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』以来2年ぶりで、過去10年間では昨年3位にランクインしたロディ・リッチの『プリーズ・エクスキューズ・ミー・フォー・ビーイング・アンチソーシャル』と、2015年の3位を記録したサム・スミスの『イン・ザ・ロンリー・アワー』の4作のみ、デビュー作をTOP3入りさせている。
本作からは、ソング・チャート“Hot 100”で通算8週のNo.1をマークしたデビュー曲「drivers license」が8位、2ndシングル「deja vu」が13位、3rdシングル「good 4 u」が5位に、3曲が年間TOP20にランクインする記録を樹立し、アルバムの大ヒットに繋げた。
『サワー』は、前述の『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』の約1/3の全11曲で、初週のアルバム・ストリーミング3億73万回という大記録を打ち出している。また、後述の作品のように新曲を追加したデラックス・エディションをリリースせず、オリジナルのまま年間2位にランクインする大ヒットを記録した。今年の年間チャート上位10作のうち、デラックス盤をリリースしていないのは本作と『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』、5位にランクインしたドレイクの 『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』の3作のみだが、前者は30曲、後者は21曲とそもそもオリジナルの曲数が多く、11曲で週間ストリーミング3億回を突破したというのは凄まじい記録といえる。なお、11曲以下で週間チャート1位を獲得したのは、12月5日付チャートでBTSの『BE』(8曲)が記録して以来約半年ぶりで、2021年にリリースした作品としては最も少ない曲数で首位を獲得した作品となる。
続いて年間3位にランクインしたのは、昨年2月に死去した故ポップ・スモークの『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』。リリースは昨年の7月で、2020年7月18日、10月24日付チャートの計2週1位を獲得して、同年の年間チャートでは7位にランクインした。2021年に入ってからは首位に到達していないものの、上位をキープしてTOP5のランクイン総週を34週に更新し、集計終了の11月末まで計72週のロングヒットを記録した。R&B/ヒップホップ・アルバム・チャートでは計19週、ラップ・アルバム・チャートでは歴代最長の21週No.1をマークしている。
死後にリリースされた故人のオリジナル・アルバムが、年間チャートで2年連続TOP10入りするのは史上初の快挙。近年は、プリンスやデヴィッド・ボウイなどレジェンド等の作品もヒットしているが、ここまでの反響を示した作品はなく、ヒップホップ系のアーティストでは1997年の年間8位を記録したノトーリアス・B.I.G.の『ライフ・アフター・デス』以来の功績。なお、こちらは2年連続のTOP10入りを逃したが、昨年の年間9位にランクインした故ジュース・ワールドの『レジェンズ・ネヴァー・ダイ』も、今年の11位に2年連続でTOP20入りしている。
年間4位にランクインしたテイラー・スウィフトの『エヴァーモア』は、1位に初登場した2020年12月26日から2021年1月2日、1月16日の計3週を記録した後、アナログ盤のリリース効果で6月12日付チャートで約半年ぶりに返り咲き、通算4週の首位を獲得。集計終了まで累計49週のランクインを果たした。本作からは、リード・シングル「willow」も週間チャート(2020年12月26日)で1位を獲得している。
テイラーは、これでデビュー作から本作『エヴァーモア』まで、9枚すべてのオリジナル・アルバムを年間TOP10入りさせるという記録を樹立した。
1st『テイラー・スウィフト』2008年/5位
2nd『フィアレス』2009年/1位
3rd『スピーク・ナウ』2011年/2位
4th『レッド』2013年/2位
5th『1989』2015年/1位
6th『レピュテーション』2017年/1位
7th『ラヴァ―』2019年/4位
8th『フォークロア』2020年/4位
9th『エヴァーモア』2021年/4位
昨年の年間4位にランクインした前作『フォークロア』は、今年も12位に2年連続でTOP20入りしていて、4月に再録盤としてリリースした『フィアレス(テイラーズ・ヴァージョン)』を33位、前々作『ラヴァー』も61位にそれぞれランクインさせている。
続いて5位にランクインしたのは、ドレイクの『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』。初登場の9月18日から10月2日、10月23日、11月6日付チャートの計5週1位を獲得した後、集計終了まで11週連続でTOP10にランクインし続けている。例年の傾向からすると、チャートイン数が少ないため上位に食い込むのは難しいと予想されたが、初週のアルバム・ストリーミングだけで7億4,367万回と驚異的な数字を叩き出し、初動ユニット613,000という大記録を打ち出したことが上位ランクインに繋がった。この記録は、自身の『スコーピオン』が打ち出した7億4,592万回に匹敵するもので、過去3年間では最高記録となる。
ドレイクの年間TOP10入りは、『テイク・ケア』(2012年/3位)、『ヴューズ』(2016年/2位)、『モア・ライフ』(2017年/5位)、『スコーピオン』(2018年/2位)に続く5作目で、過去10年間では前述のテイラー・スウィフト(7作)に次ぐ2番目、男性アーティストとしては最多のランクインとなる。
続いて6位もヒップホップ界から、オーストラリアの新星ザ・キッド・ラロイの『ファック・ラヴ』がランクインした。2020年8月8日付チャートで8位に初登場した後、同年11月に7曲を追加したデラックス盤『ファック・ラヴ(サヴェージ)』をリリースして11月21日付チャートで3位に最高位を更新。2020年の年間チャートでは190位どまりだったが、2021年7月23日に7曲、27日には6曲を追加したデラックス盤『ファック・ラヴ 3(オーヴァー・ユー)』を再びリリース。翌8月7日付チャートで自身初の首位を獲得し、今年初の年間TOP10入りを果たした。
オーストラリア出身のアーティストが年間アルバム・チャートでTOP10入りするのは、AC/DCの『バック・イン・ブラック 』が7位にランクインした1981年以来40年ぶりで、ソロ・アーティストとしては初の快挙、そして歴代最高位となる。
夏にリリースしたデラックス盤からは、ジャスティン・ビーバーとコラボレーションした「ステイ」がソング・チャート“Hot 100”でこちらも自身初の首位を獲得し、同曲の大ヒットを受けアルバムも集計終了まで69週のロングヒットを記録した。なお、「ステイ」のパートナーであるジャスティン・ビーバーの『ジャスティス』は、今年の年間15位にランクインしている。本作は、4月3日付チャートで1位に初登場し、4月17日の計2週を獲得してから集計終了まで35週連続でTOP40にランクインした。アルバムからのリード・シングル「ピーチズfeat.ダニエル・シーザー&ギヴィオン」は、同4月3日付チャートでNo.1デビューし、年間チャートでは10位にランクインしている。
7位には、昨年の年間チャートで10位にランクインしたルーク・コムズの『ホワット・ユー・シー・イズ・ホワット・ユー・ゲット』が2年連続のTOP10入りを果たした。カントリー・アルバムにカテゴライズされる作品が年間チャートで2年連続TOP10入りするのは、2013年の9位、2014年の7位にランクインしたルーク・ブライアンの『クラッシュ・マイ・パーティ』、同13年に7位、14年に10位を記録したフロリダ・ジョージア・ラインの『ヒアズ・トゥ・ザ・グッド・タイムズ』以来となる。
本作のリリースは2年前の2019年11月で、翌11月23日付チャートで1位に初登場。約1年のロングランを経て2020年10月23日に新曲6タイトルを追加したデラックス盤を発売し、通算106週という驚異的なチャートイン数を打ち出した。デラックス盤を発表した翌2020年11月7日付チャートでは、約1年ぶりに首位に返り咲き、当時のカントリー・アルバム歴代最高の週間ストリーミング1億226万再生を記録している。
8位にランクインしたアリアナ・グランデの『ポジションズ』は、前作『thank u, next』(2019年)から約1年半ぶり、通算6枚目のスタジオ・アルバムで、週間チャートでの首位獲得は5作目、年間チャートでは2019年2位を記録した『thank u, next』に続く2作目のTOP10入りとなる。2018年8月にリリースした4thアルバム『スウィートナー』から、『thank u, next』、『ポジションズ』の3作連続の首位を獲得し、女性アーティストの記録としては過去10年間の最速記録2年3か月を打ち出した。本作からは、年間14位にランクインしたタイトル曲「ポジションズ」も週間チャートで1位を獲得し、次のシングル「34+35」も週間チャートで2位、年間チャートでは21位にランクインするヒットを記録した。
続いて9位はデュア・リパの『フューチャー・ノスタルジア』がランクインし、自身初の年間TOP10入りを果たした。本作のリリースは昨年の3月で、2020年の年間チャートでは62位と伸び悩んだが、今年の2月に未発表曲6タイトルを追加したデラックス盤『ザ・ムーンライト・エディション』として再リリースし、翌3月に開催された【第63回グラミー賞】では<最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞>を受賞。それらの反響を受けて春から夏にかけTOP10にランクインし続け、年間チャートではTOP10入りを果たした。アルバムからは、昨年の年間4位を記録した「ドント・スタート・ナウ」、そして今年の年間チャート1位に輝いた「レヴィテイティング」の2曲が大ヒットし、アルバムのセールス、ストリーミングに繋いでいる。
10位にランクインしたのは、リル・ベイビーの『マイ・ターン』。本作もリリースは昨年の2月で、2020年3月14日、6月20日から7月11日付チャートの計5週1位を獲得して昨年の年間チャートでは2位にランクインする大ヒットを記録した。2021年に入ってからは首位を獲得していないが、今年だけで52週、累計90週のロングランを記録して、2月末には3ミリオン・ユニットに認定。前述の『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』同様、集計最終週の時点でTOP20にランクインするロングヒットを記録し、2年連続のTOP10入りを果たした。
その『マイ・ターン』や『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』、テイラー・スウィフトの『フォークロア』や前述の『ホワット・ユー・シー・イズ・ホワット・ユー・ゲット』の他、昨年の年間1位を獲得したポスト・マローンの『ハリウッズ・ブリーディング』(13位)やザ・ウィークエンドの『アフター・アワーズ』(14位)、ハリー・スタイルズの『ファイン・ライン』(16位)など、2年連続でTOP20入りしたタイトルは多く、その傾向から、オリヴィア・ロドリゴの『サワー』やドレイクの『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』など、年半ばから登場したアルバムは、来年の年間チャートでも上位にランクインする可能性が高い。
前述の『サワー』の概要に記述したとおり、昨年に続き今年もデラックス盤のリリースと収録曲の数、そしてシングル・ヒットがアルバムのヒットに直結している。というのも、アルバム・チャートの集計は、ストリーミングを換算する=SEA(Streaming Equivalent Album)と、収録各曲の売り上げをアルバムの売り上げとして換算する=TEA(Track Equivalent Albums)、それからダウンロード数とCDやLP、カセットテープのフィジカル・セールスで構成されていて、ヒット・シングルが収録されているアルバムはTEAが、曲数の多い作品はSEAが上昇しやすい傾向にあるからだ。過去の年間チャートにおいても、シングルとアルバムのヒットは比例してはいるが、曲数で稼ぐという戦略はストリーミング時代ならではの傾向といえるだろう。
Text:本家一成
◎【Billboard 200】2021年年間チャートTOP10
1位『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』モーガン・ウォレン
2位『サワー』オリヴィア・ロドリゴ
3位『シュート・フォー・ザ・スターズ、エイム・フォー・ザ・ムーン』ポップ・スモーク
4位『エヴァーモア』テイラー・スウィフト
5位『サーティファイド・ラヴァー・ボーイ』ドレイク
6位『ファック・ラヴ』ザ・キッド・ラロイ
7位『ホワット・ユー・シー・イズ・ホワット・ユー・ゲット』ルーク・コムズ
8位『ポジションズ』アリアナ・グランデ
9位『フューチャー・ノスタルジア』デュア・リパ
10位『マイ・ターン』リル・ベイビー
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