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2021/11/25

<レポート>ジャスティン・ビーバーがメタバースから贈る、“ファン・ファースト”な革新的バーチャル・ライブ

 今年3月にリリースされた6枚目のスタジオ・アルバム『ジャスティス』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でNo.1デビューを飾り、全米1位獲得枚数を通算8作目に更新したジャスティン・ビーバー。同3月に開催された【第63回グラミー賞】では、フィーチャリング・アーティストとして参加したタイトル含む4作でノミネートされ、アルバムから5曲目のシングルとしてリリースされた「ピーチズfeat.ダニエル・シーザー&ギヴィオン」もソング・チャート“Hot 100”で同週1位を獲得。その後、夏にデラックス盤として再リリースされたザ・キッド・ラロイのデビュー・アルバム『ファック・ラヴ』からコラボレーションした「ステイ」が首位に、同年2曲目の快挙を達成。先月は、ヨーロッパ最大級の音楽授賞式【2021 MTV EMA】で最多となる全8部門にノミネートされ話題を呼ぶなど、この一年間の活躍ぶりはまさに“目覚ましいもの”だった。

 アルバム『ジャスティス』からは、「ホーリーfeat.チャンス・ザ・ラッパー」(2020年9月)、「ロンリーwithべニー・ブランコ」(2020年10月)、「エニワン」(2021年1月)、「ホールド・オン」(2021年3月)の先行シングル4曲もスマッシュ・ヒットを記録。アルバムも発売約半年でミリオン・ユニットを突破し、全世界で45億回以上のストリーミング、主要各国でプラチナ/ゴールド・ディスクに認定されるなど、様々な功績を残した。その『ジャスティス』を引っ提げた【ジャスティス・ワールド・ツアー】も、来たる2022年2月から米サンディエゴにあるペチャンガ・アリーナでスタートする。

 日本時間2021年11月19日に開催された【Justin Bieber An Interactive Virtual Experience】は、その【ジャスティス・ワールド・ツアー】を目前としたバーチャル・ライブで、アバターになったジャスティンがオンライン上の仮想空間 “メタバース”でパフォーマンスをするという現代“ならでは”の企画。ライブを視聴しているオーディエンスは、チャットを通して他の視聴者と会話したり、ステージに絵文字を飛ばしたり、ジャスティンに向けたメッセージを投稿できる構成となっている。『ジャスティス』が発売されてからは、7月に米ラスベガスにあるウィン・ラスベガス内の異なる会場でライブ・パフォーマンスを行い、アルバムに収録された曲もいくつか歌っているが、広く世界中のファンにお披露目するのはこのバーチャル・ライブが初となる。

 開催元は、ジャスティンも出資しているバーチャル・エンターテイメント・プラットフォームのWaveで、無料のWave.watchアカウントにサインアップするとライブが視聴できるようになる。ログインすると開始約8分前から画面右上にカウントダウンが表示され、ファン同士のチャットも掲載された。その多くは「From〇〇」や国旗の絵文字など、自身が“どこの国から”観ているかというもので、筆者も日の丸を数回投稿してみたが、凄まじい数のメッセージに埋もれてしまう。さすがは世界が誇るスーパー・スターだと実感した。5分前になると、女性ナレーターが登場。興奮気味にライブの詳細を話した後、10秒のカウントダウンを経て、いよいよ“SHOWTIME”だ。

 バーチャルで描かれた米LAを彷彿させる街に我々視聴者が集まり、中央にあるヴィンテージ・カーのボンネットにアバターになったジャスティンが登場。画面右下には、黒いモーション・キャプチャー・スーツとゴーグルを着用したアバターを操るリアル・ジャスティンも表示されていた。“PARTY START”の合図で始まったのは、ライアン・テダーと共作した80年代風のダンス・チューン「サムバディ」。車の上で軽くステップするパフォーマンスも、茶色のジャケットに白のTシャツ~緑のパンツという普段着に近いシンプルな衣装も、実にリアリティがある。「いいね」のハートをショットガンのように飛ばしたり、視聴者が送ったメッセージが表示されたりと、リアクションする楽しみも充実している。

 街が夕暮れに染まると車が走り出し、ボンネットに立ったまま歌い始めたのは前述のNo.1ヒット「ピーチズ」。反映はされないが、各々の部屋では大歓声が飛び交っていただろう。バーチャル・ライブも、ネオンライトに照らされた街をクルーズしながら軽くステップする、ミュージック・ビデオの世界観をそのまま再現したような作りで、2曲目にしてボルテージが急上する。画はバーチャルだが歌声と演奏はリアル。ライブの“生感”も十分堪能できる演出になっている。曲を終え、街を抜けて郊外へ……。

 画面が切り替わると、上部にはライブを視聴しているファンの顔が表示されたステージにジャスティンが佇み、手を振りながら「ありがとう」~「愛してるよ!」など感謝を伝え「次の曲いくよ」と仮想空間へ誘う。3曲目に歌われたのは、シングル・カットされた前述の「ロンリー」。暗闇の一本道にオレンジの閃光が誘導する演出は、スーパースターが故の孤独や悩みを綴った歌詞のイメージそのもの。伸びのあるボーカル&ファルセットも、忠実“以上に”再現されている。

 赤い光が消え辺りはさらに暗くなり、雷が鳴り響く。そんな重々しい空気の中披露されたのは、「ステイ」完成の引き金となったザ・キッド・ラロイとのコラボ曲「アンステイブル」。「ピーチズ」や「ロンリー」もそうだが、ゲストのいない“ソロ・バージョン”もまた違う聴きごたえ、味わいがあることをこのライブでアプローチできたといえる。ファンからのダイレクト・メッセージが光の光線となってジャスティンに飛び交い割れるとメッセージが表示される、生命の息吹を感じさせるこの演出も、バーチャル・ライブならではの芸術だった。

 曲が終わると再びファンの顔が表示されたホールに切り替わり、「楽しんでる?」~「画面を通じてエナジーをもらってるよ」とファンにメッセージを贈るジャスティン。光に包まれ消えていくと、夕焼けが映える草原にステージが移行し、アバターのオーディエンスに囲まれながら「ホールド・オン」を披露した。ステップしながら歌うジャスティンのサイドには、アカウント名が表示されたバーチャルのダンサーが、その周りには視聴しているファンがパフォーマンスを煽る。画面右下でステップしているリアルなジャスティンの動きも見逃せない。

 夜明けが訪れしっとり歌うのは「ホーリー」。生音のギター演奏に音源以上にやさしいボーカル、歩くと草が輝く演出いずれも“愛の大切さ”を歌った歌詞の世界観そのもので、パンデミックが終息に向かいつつある現状……ともリンクする。ヒット・チューンだけに、投稿されたメッセージの数も多かったような印象だ。章が完結し、ファンとの短い交流では「たのしい時間をありがとう」~「色んな国の人が見てくれてるね、(母国)カナダも!」などのメッセージを添え、次章へ……。

 続いては、ピンクと紫のコントラストにレーザー・ビームが舞う、海上に催した石のステージで披露した「アズ・アイ・アム」からダンス・トラック「ラヴ・ユー・ディファレント」へと繋ぐ。燃えるようなライトの演出に、次々と登場する光り輝くダンサーたち。バックに映える夕日も相まって、ジャスティンのパフォーマンスも気持ちテンションが高ぶっているように見えた。

 エンディングのステージは、 星空と月が浮かぶ塔の上。歌うのは失った大切な“誰か”への想いを綴った「ゴースト」で、感情を振り絞った熱唱に心打たれたオーディエンスからは、様々な経験・思いが投稿され、それが花火のように次々と夜空に上がる“浄化”をイメージした演出に活用された。上下左右から取りこむ神々しいライトに包まれて、最後に披露したのはパワー・バラード「エニワン」。バーチャルながら、ジャスティン独特の“練り歩き”や迫力が伝わるギター&ドラムの演奏など、ライブならではの“体感”も味わえる演出には感服。光の光線に沿って浮かぶファンの顔に、ひとつひとつ相槌を打つようにはけていくジャスティンは、バーチャル・ライブでも、そして何年経っても“ファン・ファースト”だ。

 約45分の短いステージながら、映像の技術や選曲の良さ、アバターに扮してパフォーマンスをするという新たな試み何れも大成功を収めた【Justin Bieber An Interactive Virtual Experience】。今年大ヒットした「ステイ」や過去の人気曲は披露されなかったが、ヒット曲満載のライブではなく『ジャスティス』の収録曲のみで構成されたのは、前述にもあるように【ジャスティス・ワールド・ツアー】のプロジェクトを目的としているからだろう。ライブの最後には、ワールド・ツアーの詳細も表示されていた。

 Waveでは、出資者であるジョン・レジェンドやザ・ウィークエンドなどのトップ・アーティスト等もコンサートを行い、同様のバーチャル・ライブでは、昨年ジャスティンが「スタック・ウィズ・ユー」でデュエットしたアリアナ・グランデやトラヴィス・スコット、マシュメロなどが「フォートナイト」でパフォーマンスしヒットに繋げたり、昨年秋にはビリー・アイリッシュが最先端のXR技術を駆使したバーチャル・コンサートを開催し、反響を呼んだ。パンデミックを機に開催されたオンライン・ライブだが、多くのファンが参加できるというメリットを考慮しても、今後はこういったスタイルのライブが主流になっていくのだろう。

Text: 本家 一成

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