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2021/11/17

『レッド(テイラーズ・ヴァージョン)』テイラー・スウィフト(Album Review)

 2019年にスクーター・ブラウンのイサカ・ホールディングスが発売元であるビッグ・マシーン・レーベルから音源の権利を買収したため、テイラーは過去の作品を順に再レコーディングしている。4月にリリースした 『フィアレス(テイラーズ・ヴァージョン)』に続いては、2012年発表の4thアルバム『レッド』が再録された。本作も、原曲をレコーディングし直した「テイラーズ・バージョン」に加え、諸事情でお蔵入りになっていた未発表9曲「フロム・ザ・ヴォルト」の全30曲で構成されている。

 『レッド』といえば、カントリーからポップへ本格的にクロスオーバーした転換期のアルバムで、日本でも人気番組の主題歌に起用された「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」が大ヒットしてテイラーの知名度を高めた、そんな作品。チャートにおける功績は、本国アメリカで前述の『フィアレス』(2008年)、『スピーク・ナウ』(2010年)に続く3作目の首位を、イギリスでは初のNo.1を獲得した。シングルは、その「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」が1位、「トラブル」が2位、タイトル曲「レッド」が6位に米ソング・チャート“Hot 100”でTOP10入りしている。

 3曲のヒット・シングルをはじめ、本作もオリジナル(テイラーズ・ヴァージョン)を忠実に再現。その「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」ではサビに若干のアクセントをつけてみたり、オープニング曲「ステイト・オブ・グレイス」ではブレスの位置を絶妙にズラしたり、スノウ・パトロールのギャリー・ライトボディとデュエットした「ザ・ラスト・タイム」のようなバラードではボーカルにより深みを出したり……と、それぞれ若干の変化はみられるが、原盤のイメージを崩さないようエゴを自制したファンへの配慮が伺える。

 前作『フィアレス(テイラーズ・ヴァージョン)』においても、再録がオリジナルにどれほど近づけたか、どちらの方が良かったか……等様々な意見が飛び交った。世界中を魅了するポップ・スターが故当然ではあるが、10年近くのブランクを「まったく同じに」仕上げることは不可能……ということもまた当然で、そのあたりは好みや解釈による(というのはどの作品にも言えることだが)。また、原盤のメインプロデューサーであったネイサン・チャップマンやマックス・マーティンは外れ、前作同様『フォークロア』~『エヴァーモア』を担当したジャック・アントノフとザ・ナショナルのアーロン・デスナーに入れ替わったことも、多少の“ニュアンス違い”に繋がっているだろう。

 そういえば、前述の「トラブル」は当時噂が囁かれたハリー・スタイルズについて書いたものだとしていたが、若くしてトップ・スターに上り詰めた2人が9年後も変わらず、むしろあの頃よりも箔をつけて第一線で活躍しているのをみると、何だか感慨深い。また、22歳の楽しかった夏休みを振り返る「22」も、「当時テイラーもそんな若かったか~」と自身の成長(?)と重ね合わせて想い出に浸る、そんな再録版“ならでは”の楽しみ方もできた。日本でも大ヒットした作品だけに、各々の記憶と照らし合わせる方も多いだろう。それは「繰り返し何度も(恋の)歴史を思い返していた」というフレーズが印象的な「ビギン・アゲイン」にも通ずる、ような。

 アート・ワークは、「RED」の大文字に俯き加減のテイラーがアップで写るビジュアルから、ヴィンテージ・カー(シボレー・カマロ コンバーチブル)に乗った秋らしいデザインに模様替えされている。なお、テイラーが被っているベルベットのハンチング帽はジャネッサレオンによるデザインで、公式ウェブサイトで販売されるも即完売したとのこと。SNSに投稿した動画には、その帽子の他にスカーフやソックス、パンプキン・スパイスのコーヒー、シナモン・クッキーなど秋にまつわる“お気に入り”や、レッド(赤)にまつわるドレスやアクセサリー、そして当時アルバムに収録しきれなかった未発表曲<フロム・ザ・ヴォルト>に収録された新曲の歌詞と音源も一部披露していた。ファンへの巧妙なアプローチ&プロモーションも、相も変わらず見事な御手前。

 そのフロム・ザ・ヴォルトの1曲目を飾る「ベター・マン」は、「ガール・クラッシュ」(2014年)などのヒットで知られるカントリー・ユニット=リトル・ビッグ・タウンに提供したセルフ・カバーで、原曲は2017年に米カントリー・ソング・チャートで1位を、同年の年間カントリー・チャートでは10位にランクインする大ヒットを記録した。「紅葉は落ちるべきところへ舞う」というフレーズや哀愁漂う旋律がこの時季にもピッタリのバラードで、LBTバージョンと聴き比べても大きな違いはみられず、忠実に焼き直している。ただ、ハスキーな声で“歌い込む”タイプのカレンと、女子力の高いライトなボーカルのテイラーは声質に大きな違いがあり、そのあたりは好みがわかれるかもしれない。カントリー色が強いか、ポップ色が強いか。

 次の「ナッシング・ニュー」は、米LA出身の女性シンガーソングライター=フィービー・ブリジャーズとのデュエット。昨年リリースした二部作『フォークロア』~『エヴァーモア』にも、フィービーの作風にも直結するインディー・フォークに、悲観的な歌詞を乗せたテイラーらしい曲で、地味ながら聴き入ってしまう引力がある。「18歳じゃ全てを悟れるはずないけど、22歳にしては何も知らなすぎる」というフレーズが当時の心境を物語るが、今どういう心持ちで歌い直したのか、またその間を生きる(現27歳)フィービーはどう解釈したのか、等々……妄想を働かせてしまったり。 

 「ベイブ」は、「ドロップス・オブ・ジュピター」(2001年 / 5位)や「ヘイ、ソウル・シスター」(2009年 / 3位)のヒットを輩出したロック・バンド、トレインのリード・ヴォーカル=パトリック・モナハンとの共作曲で、カントリー・デュオのシュガーランドに提供したセルフカバー。なお、原曲にもテイラーはフィーチャリング・ゲストとして参加していて、そういう意味でも原曲との温度差は然程ないが、バック・サウンドがより重奏感を増したこと、何より全パートをテイラーのボーカルで聴けるという新鮮味・醍醐味がある。

 「ベイブ」は、当時破局が報じられたジェイク・ギレンホールへのメッセージだとファンの間で噂が飛び交っているようだが、真相は不明(後述の「オール・トゥー・ウェル」はそうだと言及している)。シュガーランドに提供したのは3年前の2018年だが、制作は『レッド』の発売年である2012年だそうで、2人が交際していた期間(2010年~2011年)の直後というタイミングも合致していて、「時間の無駄だった」~「電話も着信拒否ね」など“そういう意味合い”が込められていると受け取られても不思議ではない。オリジナルに収録された曲にも、前述の「ザ・ラスト・タイム」や「ガール・アット・ホーム」など“それ”をニオわせる曲がある。

 「メッセージ・イン・ア・ボトル」は、当時大ヒットしていた故アヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」を彷彿させる、カントリーとEDMを融合させたようなダンス・ポップで、『レッド』より次作『1989』のカラーに近い。というのも、この曲はテイラーがマックス・マーティン&シェルバックのコンビと初めて制作したトラックで、3者によるタッグは後に「シェイク・イット・オフ」や「ブランク・スペース」などのNo.1ヒットを生み出しアルバムの完成に繋げる、いわば『1989』の原型・起爆剤というわけだ。シングル・カットすれば上位ランクインも期待できる傑作だが、お蔵入りになったのは当時“どちらつかず”だったから、かもしれない。

 次の「アイ・ベット・ユー・シンク・アバウト・ミー」は、カントリー・フォロワーから厚い支持を得るクリス・ステイプルトンとのコラボレーション・ソング。夕暮れの大草原が浮かぶ古典的なカントリー・バラードで、イントロのハーモニカやクリス・ステイプルトンとの絶妙なハーモニーなど、構成する全ての要素が洗練されている。この曲も、どうしようもない元彼への怒りや恨み節が満載で、「ベイブ」同様ジェイク絡みではないかとの予想が立てられている。

 一方、「フォーエヴァー・ウィンター」では離れた二人が“どちらも崩れ落ちていく”様を歌っていて、その別れを「永遠の冬」というテイラー独特の表現で記している。歌詞の重み緩和させるべく旋律や曲調はライト。強弱を使い分けた繊細なボーカルは、初期の作風に近い。制作には、米LAを拠点とするロック・バンド=フォスター・ザ・ピープルのフロントマン、マーク・フォスターが参加した。

 再録版の目玉曲である「ラン」は、先日ニュー・アルバム『=(イコールズ)』をリリースしたエド・シーランとのコラボレーション。2012年に共作したこともあり、同年に発表したデビュー作『+ / プラス』にも通ずる温かみあるフォーク・バラードに仕上がった。たしかに、オリジナルに収録されているエドとのデュエット「エブリシング・ハズ・チェンジド」の方がよりポップで、『レッド』の作風からすると後者が選ばれたのも納得できるが、作った本人をはじめ「ラン」がお気に入りだというリスナーも少なくないはず。

 それからすると、次の「ザ・ヴェリー・ファースト・ナイト」が収録されなかったのは少し惜しい気もする。同曲は、耳に残るキャッチ―な旋律~主張の強いリフレインが印象的なアップ・チューンで、未練を乙女心を添えて綴った歌詞含め『レッド』のカラーに染まっていた。「メッセージ・イン・ア・ボトル」同様、シングル・ヒットも期待できただろう。共同制作陣には、ノルウェーのプロデューサー・チーム=エスピオナージ(ビヨンセ、クリス・ブラウン等)がクレジットされている。

 そして最終曲「オール・トゥー・ウェル・テン・ミニット・ヴァージョン」。オリジナルの5曲目に収録されたファンの間でも高い人気を誇るソフト&メロウで、フロム・ザ・ヴォルトには10分を超える“完全版”として再録し、物語を完結させた。前述にもあるように、この曲はジェイクとの関係が終わった経緯や心境が綴られていて、曲というよりはひとつの物語としてテイラーの“ストーリーテラー”を堪能できる。故に、歌詞に集中すると10分のボリュームもまったく気にならない。優しいメロディラインに乗せて「まるで地獄のような気分」~「死にたい気持ちにさせる」と歌うテイラーは、やはり“あの頃の”テイラーだ。この曲の反響を受けて、9年越しにジェイク・ギレンホールがトレンド入りしたというエピソードもなかなか強烈。

 「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」のキャッチーさから、本作『レッド』に“負”のイメージは抱きにくいが、あらためて聴き返してみると息が詰まるような心境や切ない恋心が盛りだくさんで、感傷的になりやすい「秋」と非常にリンクする。再録するにあたり、テイラーが「そんなこともあったね」と吹っ切れていれば何よりだが、それは本人しか知り得ないこと。ともあれ、『レッド』は世界中でヒットしたのも頷ける完璧なポップ・アルバムだ。

Text: 本家 一成

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