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2021/11/15

『アン・イヴニング・ウィズ・シルク・ソニック』シルク・ソニック(Album Review)

 ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるコラボレーション・プロジェクト=シルク・ソニック。今年3月にリリースしたシングル「リーヴ・ザ・ドア・オープン」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で4位に初登場した後、翌4月にNo.1を獲得し、文字通り“華々しい”デビューを飾った。公式ミュージック・ビデオも、公開半年間で3億回再生を突破する大記録を樹立している。

 結成の発端となったのは、アンダーソン・パークがオープニング・アクトを務めたブルーノの【24K・マジック・ツアー】で、5年前の同ツアー中にはスタジオ入りもしていたとのこと。“ノリ”で始まったこのプロジェクトだが、前述の「リーヴ・ザ・ドア・オープン」、そして本デビュー作『アン・イヴニング・ウィズ・シルク・ソニック』の細やかな仕事ぶりからして、その意気込みが如何なものだったかが伺える。

 そもそも、2010年代のトップ・シンガー/現R&Bシーンの第一人者であるブルーノ・マーズと、ドクター・ドレーやエミネム、ポップ・スターのジャスティン・ティンバーレイクまでを網羅してきたアンダーソン・パークとのコラボレーションが駄作なはずもなく、彼らのカリスマ性が合致した時に“どれだけのものが”生み出されるのか、期待に胸をふくらませる以外にない。ソウルやR&Bのニーズが低い此処日本でも、「リーヴ・ザ・ドア・オープン」がリリースされた当初大きな反響を呼んだほどだ。

 両者のタッグが成功に至った要因として、アーティストとしての真逆な性質をアンダーソン・パークは挙げている。論理的で妥協を許さない完璧主義者のブルーノ、枠にとらわれず第六感で動くタイプのアンダーソン・パーク。対照が故惹かれあう2人のケミストリーが合致したことが吉と出たようだ。プロデューサーには、今年3月に開催された【第63回グラミー賞】で<最優秀楽曲賞>を受賞したH.E.R.の「アイ・キャント・ブリーズ」等を手掛けるDマイルを迎えている。

 グループの名付け親でもあるブーツィー・コリンズがナレーションを務めたオープニング・ナンバー「シルク・ソニック・イントロ」は、ブルーノがマーク・ロンソンとコラボしたモンスター・ヒット「アップタウン・ファンク」(2014年)直系の華やかなアンサンブルで幕開けし、前述の「リーヴ・ザ・ドア・オープン」へと繋げる。テディ・ペンダーグラス(フィリー・ソウル)のような甘さと、マーヴィン・ゲイ(モータウン)の男臭さをブレンドした同曲は、レジェンド等にも引けを取らないブルーノのボーカル、アンダーソンのグルーヴィーなパフォーマンス何れも完璧な構成で、好みは別として文句のつけどころは一切ない。前年ザ・ウィークエンドが80年代のシンセ・ウェーブを再燃させたら、今年は70年代スウィート・ソウルのリメイクである同曲が1位を獲得する、そんな目まぐるしいチャート・アクションも含めて諸々“衝撃的”だった。

 次曲「フライ・アズ・ミー」は、ビートナッツの「ワッチ・アウト・ナウ」(1999年)を彷彿させるトラック、ラップで仕上げたファンキーなヴァース、コーラスでカマすシャウト……等、70年代ファンクというよりは、その感覚を用いた90年代ヒップホップに通ずるアップ・チューンで、ソングライターにはラッパーのビッグ・ショーンもクレジットされている。なお、本作でソングライター/プロデューサーとしてではなく、唯一ゲストがクレジットされたのは次の「アフター・ラスト・ナイト」のみ。

 その「アフター・ラスト・ナイト」は、ブーツィーと米LAを代表するベーシスト=サンダーキャットを迎えたミディアム・ファンク。プロデュースは、ブルーノの「24K・マジック」(2016年)を大ヒットさせたザ・ステレオタイプスが担当している。呪術的且つユーモアに溢れた全体のトーンは、ブーツィも所属していたファンカデリックを意識したような作りで、ブルーノ&アンダーソンのエネルギーに満ちたボーカル・パフォーマンス含め先覚者への敬意が伺える。

 3曲目のシングルとして前週にリリースした「スモーキン・アウト・ザ・ウインドウ」は両者がはじめて一緒に書いた曲だそうで、不安やストレスをタバコで解消する、おセンチな男心を歌詞(タイトル)に反映させたのだそう。当時の音楽番組(ソウル・トレイン?)をイメージしたミュージック・ビデオでも、ふかしながら歌う“時代をスリップした”シーンを起用した。ボーカルの技術でいえば本作中最も難易度高く、甘茶ソウルに見合ったサビのコーラス・ワークがうっとりする程すばらしい。

 次の「プット・オン・ア・スマイル」には、彼らのキャリアにも大きな影響を与えたであろうベビーフェイスが、制作とバック・ボーカルに参加している。とはいえ、90年代を彩った楽曲陣とは一線を引いていて、泥臭さや哀愁系の旋律、粘り気あるボーカルがサザン・ソウル(ジョニー・テイラーあたり?)を彷彿させる。90年代といえば、ラップを絡めたボーカル~Gファンクにも形容できそうなサウンド・プロダクションの次曲「777」の方がそれっぽい雰囲気。独自の特徴を活かしたパフォーマンスからも、純粋に“音を楽しんでいる”様が伝わってくる。

 7月にリリースした2ndシングル「スケート」は、前曲までとはまた違う雰囲気のディスコ・ファンク。コンガのリズム&ブラス・セクションが風通しの良い夏らしさを演出し、当時の西海岸サウンドを彷彿させる。タバレスのキャッチーさからブラス・コントトラクションのカリブ色までを網羅した音作りには感服も感服。ブルーノ・マーズが監督を務めたミュージック・ビデオも、シンプルながらサマー・ジャムに直結した傑作だった。

 ラストを飾る「ブラスト・オフ」は、「リーヴ・ザ・ドア・オープン」の続編的なスウィート・ソウル。流麗なストリングス、目眩くようなギターの演奏、ムーディーでゴージャスなハーモニーに酔いしれてずっと浸っていたくなる中毒性があり、フェイドアウトしていくのが惜しいくらいだ。シメもブーツィーがホストとしてナレーションを務め、全9曲・31分強の短い演奏を終えた。

 そう、本作で唯一懸念点を挙げるとすればその“尺の短さ”くらいで、その他は一切妥協点が見つからない。懸念点といっても、曲数が少ない分一曲一曲の印象が強く残るという利点もあり、70年代を忠実に再現するという意味でもアナログ盤(的)な構成・演出は見事だったといえる。昨今は、チャートに反映させるストリーミングを稼ぐため、曲数の多いアルバムが増えつつあるが、9曲で挑む姿勢からは作品への自信と余裕も伺える。

 そういった意味も含め、流行には一切左右されずまさに“独自の感覚”で完成させたシルク・ソニックのデビュー・アルバム『アン・イヴニング・ウィズ・シルク・ソニック』。「毎秒に注意を払った」というだけはあるこの9曲を聴かずして今年のR&Bを……と訴えたいリスナーも多いだろう。マーヴィン・ゲイ~スティーヴィー・ワンダー、ジェームス・ブラウン、プリンス・フォロワーまでも魅了する誇り高き一枚は、彼ら夫々のソロ・プロジェクトを超えたといってもいいクオリティだ。

 2022年に開催予定の【第64回グラミー賞】には間に合わなかったが、翌23年の【第65回グラミー賞】では<R&Bアルバム>をはじめ主要各賞を総ナメにする可能性も……?

Text: 本家 一成

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