2021/11/08 16:40
2021年11月3日発表のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”では、トップ10に2曲新曲がエントリーした。ひとつは圧倒的な強さを見せた1位の日向坂46「ってか」。そして、もう一曲は7位のAdo「阿修羅ちゃん」(【表1】)。前者はフィジカルのCDを主軸にしたいわゆる王道パターンでのヒットだが、後者はここ数年の新世代型とでもいうべきヒットの仕方だ。10年前なら考えられなかったタイプのヒット曲といえるだろう。
Adoがブレイクしたメジャー・デビュー曲「うっせぇわ」は昨年10月リリースなので、まだ1年くらいしか経っていない。その間、この新曲「阿修羅ちゃん」を含めると7枚のデジタル・リリースを行っている。このペースは配信ならではのスピード感があると同時に、その多くがロング・ヒットとなっているのが特徴だ。今もなおチャート上には「踊」が16位、「うっせぇわ」が42位、「ギラギラ」が45位と、新曲以外にも3曲が100位以内をキープしている。
しかもAdoのヒットの傾向は、かなり偏ったポイントによるものだ。まずフィジカルのCDがないため、売上数やルックアップ(PCによるCD読取数)は加算されない。初動ではダウンロードと動画再生数が強く、徐々にストリーミングとカラオケのポイントが上昇して入れ替わっていくというのがパターンとなっている。「阿修羅ちゃん」に関しても、初週のダウンロード数が2位、動画再生数が4位というのは、それだけ瞬発力がある証拠だ。あとはストリーミングとカラオケによって、いかにリスナーに親しまれる楽曲へと育っていくのかが鍵となる。Adoはこのセオリーをきちんと踏襲しながら楽曲を発表し、ヒットを生み出しているといえる。
さらに言えば、この動きは昨今の配信主導アーティストの特徴のひとつでもある。YOASOBIもBTSもタイプは違えど近い動きをしているのだ。そう考えれば、今後はAdoのようなヒットの形態が定番になっていくのは間違いないだろうし、配信メインでヒットを生みたいアーティストは、楽曲の良さはもちろんのこと、インパクトがあって何度も観てもらえるミュージック・ビデオを制作することが大きな課題となるだろう。そして、動画再生数でポイントを稼げば、ロング・ヒットへの道筋も生まれやすいと言い換えられる。
Adoは来年早々にいよいよアルバムを発表し、初のフィジカル・アイテムが生まれることになるが、おそらくシングルに関してはこれまでのパターンを踏襲していくのだろう。あとはいかに鮮度を保ちながら新曲のミュージック・ビデオを公開していくことが重要となる。後続のアーティストも続々と登場する激戦下ではあるが、ぶれずにリスナーを見据えたリリースとプロモーションの計画を立てていけば、しっかりと固定ファンを掴み続け、チャート上位をキープすることができるはずだ。
※記事初出時に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
Text:栗本斉
◎栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。
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