2021/10/29
90年代前半のイギリスを舞台に、音楽ライターとして駆け出した女子高校生の奮闘を描く映画『ビルド・ア・ガール』が現在公開中だ。その劇中ではUKロックシーンを代表する名曲達が彩るほか、当時のロック・ジャーナリズム業界の裏事情が窺える内容となっている。
物語の舞台はオアシス、ブラー、プライマル・スクリームなどがロックシーンに旋風を巻き起こした90年代前半のイギリス。高校生のジョアンナは、あふれる表現欲求の限界と代わり映えしない日々を変えるため、大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募し見事合格する。“ドリー・ワイルド”と名乗り新しい人生を歩みはじめ、メキメキと才能を開花させる彼女だが、取材で出会ったロック・スターのジョン・カイトに夢中になってしまい、冷静な記事を書けず一度はライターとしての仕事を失ってしまう。しかし、編集部のアドバイスで“嫌われ者”の辛口批評家として返り咲き、過激な毒舌記事を書きまくるジョアンナ。クイーンの名曲を「ボヘミアン“寒”ソディ」呼ばわりするなど、彼女の辛口コメントは瞬く間に話題を呼び、お金と名声を手に入れるが、徐々に自分の心を見失っていく…。
主人公ジョアンナを演じるのは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』、『レディ・バード』の名演で注目された新進女優、ビーニー・フェルドスタイン。劣等感もパワーに変え、自らの力で未来を切り開くヒロインを熱演している。また、原作は世界的ベストセラー作家でありジャーナリストのキャトリン・モランによる半自伝的小説『How To Build a Girl』で、内容はほぼ実話。当時、実際に16歳で音楽批評家として活躍したキャトリンが経験する若さゆえの失敗や、出会い、奮闘の日々を通して当時のリアルな業界事情が描かれる。
そんな本作を盛り上げる珠玉のナンバーたちは、キャトリンが提供した7万曲を超えるプレイリストから選び抜かれたそうだ。監督のコーキー・ギェドロイツは「この映画のサウンドトラックは文字通り、ジョアンナが成長していく過程のサウンドトラックであり、彼女の旅、一人の少女が自分を作り上げるまでのストーリーでもあるのよ」と語る。
例えば、音楽の知識などまるでなかった文学少女ジョアンナがライターとして初体験するライブは、デビュー当時のマニック・ストリート・プリーチャーズだ。“ロックをぶっ潰すぜ!”とシャウトし「You Love Us」を歌う彼らの姿に、最初は圧倒されつつも、しまいには原稿を書くのも忘れて大騒ぎしロックの虜になっていく。
また、ジョアンナが髪を真っ赤に染め、過激でド派手なファッションを纏った音楽ライターへと変貌を遂げるシーンでは、ビキニ・キルの「Rebel Girl」が未来に向かって突き進む彼女のファンファーレのように鳴り響き、他にもハッピー・マンデーズ、プライマル・スクリーム、ジェフ・バックリー、プリテンダーズといった時代を彩るアーティストたちの名曲が随所に散りばめられている。
なお、劇中のキャラクターや撮影地/セットにも90年代の音楽業界へのリスペクトが込められている。アルフィー・アレン(『ゲーム・オブ・スローンズ』)演じる、ジョアンナが初めて恋をするロック・スター、ジョン・カイトのキャラクターについて監督は、「マニック・ストリート・プリーチャーズのハリー・ディーン・ブラッドフィールドや、エルボーのガイ・ガーベイから大きなインスピレーションを受けています」とコメント。90年代の音楽シーンで活躍した労働者階級出身のヒーローたちをモデルにしていることを明かす。また、そのジョン・カイトのライブシーンは、ロンドンの名門ライブハウスKOKOで撮影されているのもポイントだろう。ヴィジュアルからももちろん、当時の空気感・世界観を存分に味わうことができるのだ。
まだインターネットが普及する以前、マスメディアのジャーナリズムは絶大な力を持っており、ミュージシャンと共に、時には敵対しながら音楽シーンを盛り上げた。そんな懐かしき90年代のUKロックナンバーとともに、劣等感もパワーに変えたティーンの奮闘を描くビーニー・フェルドスタイン主演最新作『ビルド・ア・ガール』は、新宿武蔵野館ほかで公開中。
◎映画情報
『ビルド・ア・ガール』
劇場公開日:2021年10月22日
【原作】 キャトリン・モラン著「How to Build a Girl」
【脚本】 キャトリン・モラン
【監督】 コーキー・ギェドロイツ
【出演】 ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン
https://buildagirl.jp/
(c) Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
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