Billboard JAPAN


NEWS

2021/09/10

<ライブレポート 吉井和哉>ソロ楽曲にセルフカバー、デヴィッド・ボウイの名曲まで幅広く披露し、改めて歌と向き合った「UTANOVA Billboard」最終公演

 吉井和哉のライブツアー「UTANOVA Billboard」の最終公演が2021年9月9日、東京・Billboard Live TOKYOにて開催された。

 コロナ禍の中で危機に瀕している全国のライブハウスの救済のため、昨年7月から弾き語りによるアコースティックライブシリーズ「UTANOVA」を実施している吉井。今回はその特別編として、自身初となるBillboard公演「UTANOVA Billboard」を開催。8月11・12日:横浜/8月29・30日:大阪/9月8・9日:東京の「Billboard Live」各会場を舞台に、1日2ステージ・計12公演を行った。

 折からの緊急事態宣言の状況下ということもあり、客席すべてにパーテーションを設け、消毒など感染対策を施した上での開催となった「UTANOVA Billboard」。通常であれば、お酒とともにライブを楽しむのがBillboard公演の醍醐味でもあるが、今回会場でのドリンク類はすべてノンアルコールのメニューのみの提供となった。それでも、ソロ/THE YELLOW MONKEY/カバー曲を織り交ぜながら吉井和哉がこの場所で繰り広げた歌と音楽は間違いなく、この日を待ち侘びたオーディエンスを深く心地好く陶酔させるものだった。

 LINE LIVE-VIEWINGにてライブ配信も行われたこの日の2部=ファイナル公演。サポートメンバーの真壁陽平(Guitar)&鶴谷崇(Piano)とともに舞台に立った吉井が、アコースティックギターのカッティングとともに歌い始めたのは、YOSHII LOVINSON名義で発表したソロ1stアルバム『at the BLACK HOLE』(2004年)の1曲目「20 GO」だった。真壁の奏でるフェンダー・ジャズマスターの重厚な音色、鶴谷の清冽なピアノの響きとともに、演奏を通して吉井の内面世界に至近距離で触れていくような生々しいパーソナルな感覚が、満場の客席を満たしていく。そこから一転、「VS」(6thアルバム『The Apples』収録/2011年)では3人一丸となって躍動感あふれるビートを生み出し、会場一面のクラップを呼び起こしてみせる。

 コロナ禍のライブということで、会場には観客の歌声も歓声もなかったが、「東京のみなさん、元気ですか? ついに最終日を迎えました!」と呼びかけ「配信をご覧のみなさん!」とカメラに手を振る吉井に応えて高らかな拍手が巻き起こる。「昼間もいいですけど、夜はやっぱり色めき立ってますね。二の腕が眩しいです!」と軽快に語りかけつつ、THE YELLOW MONKEYの「聖なる海とサンシャイン」(『8』収録/2000年)から「恋の花」~「BEAUTIFUL」と3rdアルバム『39108』(2006年)の楽曲を立て続けに披露。ロック系のアーティストによるBillboard公演の場合、ジャズやボサノバなど非ロック的なアプローチで楽曲をリアレンジして演奏に臨むケースも少なくないが、吉井は基本的に原曲のテイストに忠実に、しかしこの3人だからこその緻密で豊潤なアンサンブルを構築していく。

 「ずっとバンドを背負って歌ってきて。改めてひとりで歌ってみて、本当に歌の大切さというものを今頃知ったし、逆に面白さも知った」と「UTANOVA」の活動について語り、「なんで歌を歌い始めたかというと、僕の永遠のロックスターであるデヴィッド・ボウイのおかげ」と自身のルーツに触れた吉井が歌ったのは、そのデヴィッド・ボウイの名曲「Life On Mars?」。「僕が洋楽のカバーをさせてもらう時は、勝手に自分で訳詞をつけて歌ってたんですが、この曲に限っては違うかなあと思って。英詞で歌わせていただきます。したがって、歌詞をガン見します(笑)」と話しながらも、ロック史に残るマスターピースを歌い上げるその歌と佇まいからは、吉井の無垢で真摯なリスペクトが確かに伝わってきた。

 さらにTHE YELLOW MONKEYの楽曲からもう1曲「ピリオドの雨」(『FOUR SEASONS』/1995年)を披露したところで、「このBillboardでライブをやるということに、最初はすごく身構えたりもしてたんですけれども。やらせてもらうと、すごく自由なスペースで。これからいろんなことができそうだなと思いまして。Billboardさんさえよければ、引き続き来年とかもやらせていただきたいと思います!」と宣言。熱い拍手が一面に広がっていく。

 KinKi Kidsへの提供曲「薔薇と太陽」のセルフカバーから、ライブはいよいよ終盤へ。冒頭で歌詞を間違えてしまい、「KinKi Kidsのファンの方も観ていらっしゃるから……やり直します!」と曲の最初から歌い直すハプニングにも、会場のテンションは刻一刻と高まっていく。さらに、「ビルマニア」(5thアルバム『VOLT』収録/2009年)では舞台後方のカーテンが開き、ガラス張りのウインドウ越しに都心のビル街が背景に広がる中、弾けるような客席一面のクラップがさらなる祝祭感を描き出していく。

 「どんな時代になるかわからないですけど、いろんなものに左右されたくないし、自分の大切なもの、大好きなものにこだわって生きていきたいなって――それが実は一番難しいなって、本当に最近思います。僕はロックミュージシャン、ロックシンガーとしてここまで生きてきましたんで、死ぬまでそれを全うしようと思ってます。こういう時代に、歌うべき歌があると思いますので」――そんな言葉とともに本編ラストに披露したのは「血潮」(ベストアルバム『18』収録/2013年)。真壁が奏でるスパニッシュ調のガットギターのストロークとともに歌い上げた《さようなら いつも 怯えていた私》の言葉が、恋人同士を歌った歌詞の意味を超えた決意の言葉として、ひときわ決然と響いていた。

 アンコールでは、11月から始まるツアー「THE SILENT VISION TOUR 2021」のファイナルとして、お馴染みの12月28日・日本武道館の舞台に立つことを伝えた吉井。この日最後を飾った「MY FOOLISH HEART」(シングル『BEAUTIFUL』カップリング/2006年)の《なげだすものか 逃げ出すものか/怯えるなMY FOOLISH HEART》のフレーズに、時代と向き合い続ける表現者としてのリアルな想いが滲んでいた。


Text by 高橋智樹
Photo by 横山マサト


◎公演情報
【吉井和哉 UTANOVA Billboard】
2021年9月8日(水)-9日(木)  Billboard Live TOKYO ※終了
[SET LIST]
01.20 GO
02.VS
03.聖なる海とサンシャイン
04.恋の花
05.BEAUTIFUL
06.Life On Mars?
07.ピリオドの雨
08.薔薇と太陽
09.ビルマニア
10.血潮
EN.MY FOOLISH HEART

◎ツアー情報
【THE SILENT VISION TOUR 2021】
2021年11月29日(月) Zepp Fukuoka
2021年12月02日(木) Zepp Osaka Bayside
2021年12月09日(木) Zepp Nagoya
2021年12月17日(金) SENDAI GIGS
2021年12月28日(火) 日本武道館
チケット:指定席 8,800円
受付期間:9/13(月)23:59まで
441108.com、441kzch会員先行中
※ドリンク代別(武道館公演以外)
※年齢制限/6歳以上有料。席が必要な場合は未就学児童もチケットが必要。

◎リリース情報
「みらいのうた」
2021年8月6日 デジタルリリース

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