2021/08/30 12:00
2021年8月25日発表のBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”は久しぶりに上位がガラッと入れ替わった印象だ。特筆すべき楽曲はいくつもあるが、その中から今回は4位にチャートインしたback numberの「水平線」に注目してみたい(【表1】)。
この曲は他のヒット曲とかなり違った経緯を持つ異色の一曲である。というのも、もともとはインターハイを運営していた高校生から「中止になった」という手紙をもらったメンバーが、彼らのためになにかできることがないかと考えて作られた楽曲で、2020年の8月18日にYouTubeのみで限定公開されていたものだ。リリースやその他の配信は予定されていなかったが、今年に入って無事にインターハイが行われたことを記念し、8月13日に各配信プラットフォームであらためて公開され、今回のチャートインにつながった。
グラフを見てみると、そのユニークな推移が見て取れるだろう。YouTubeで公開された当初はまずまずの反響だったが、徐々に広がっていき、昨年12月頃からは動画再生数が20位圏内をしばらくキープしていた。と同時に、カラオケのランキングにも入ってきたため、動画再生数と同じような推移となっている。YouTubeのみの発表でここまでの結果を出せるというのはなかなかないだろう。実際、YouTubeの再生回数は、現時点で9200万回という驚異的な結果となっている。
そして、ダウンロードやストリーミング・サービスでの配信がスタートしてからは一気に大きな結果につながった。配信のポイントはもちろんのこと、ラジオでのオンエア回数も急増。もちろん、動画再生数やカラオケの歌唱回数も相まって、前週の8月18日発表の“JAPAN HOT 100”では圏外から一気に14位となり、さらに今週の4位という結果を生み出したのである。計算された戦略に則ってヒットを生み出したのではなく、あくまでもニーズに合わせていくことで自然発生したヒット曲といえるだろう。
この「水平線」の強さの根源は、back numberの他の楽曲同様に、長く愛されるということに尽きる。彼らのファンに対する真摯な姿勢と、そこに向けた熱いメッセージ、そしてそのメッセージに共感したリスナーが作り上げたヒットと言い換えてもいいだろう。こういったヒットが生まれることはそう多くはない。だからこそ、ネガティブなニュースが多い鬱屈したコロナ禍において、とても勇気付けられる結果なのではないだろうか。
Text:栗本斉
◎栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。
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