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2021/08/17

『グッド・シングス』ダン+シェイ(Album Review)

 近年、カントリーにカテゴライズされるアーティストのクロスオーバー化が止まらない。代表的なヒットを挙げれば、フロリダ・ジョージア・ラインがポップ・シンガーのビービー・レクサとコラボした「Meant to Be」(2017年)、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で歴代最長の19週1位を記録した、ラッパーのリル・ナズ・Xとビリー・レイ・サイラスによる「オールド・タウン・ロード」(2019年)などがある。また、タトゥー&キャップという異色のビジュアルで登場したケーン・ブラウンや、ポップからR&B、そしてフォークへ回帰したテイラー・スウィフトなど、クロスオーバーの仕方も様々。

 今年1月には、モーガン・ウォレンの『デンジャラス:ザ・ダブル・アルバム』が米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で10週間1位をマークし、テイラーも初期のアルバム『フィアレス』を再録するなど、2021年はカントリー勢がチャートを賑わせているわけだが、彼らのアルバムも聴けば“純粋なカントリー・アルバム”とは少しテイストの違う、ポップにも足を踏み入れたような内容で、かつてのカントリーという(ある種古臭い)概念はなくなりつつある。

 セクシャリティやファッション、個々のライフスタイルも多様化する中で、音楽もジャンルの垣根がなくなるのは当然のこと。ダン+シェイは、その流行をデビュー曲「19 You + Me」(2013年)から取り入れていたのだから凄い。同年「最もラジオリストに追加された曲」として幅広い層に受け入れられたこの曲は、ポップへ転換するテイラーをはじめとした後のアーティストたちのお手本にもなったことだろう。

 聴きやすさや多様性を重視したスタイルが支持され、デビュー・アルバム『ウェア・イット・オール・ビガン』は米Billboard 200で6位、カントリー・アルバム・チャートでは処女作にして1位を獲得。2ndアルバム『オブセスト』(2016年)も両チャート8位、2位にそれぞれTOP10入りし、前作『ダン+シェイ』(2018年)ではデビュー作と同位の6位、そしてカントリー・アルバム・チャートで2作目の首位を獲得した。

 本作『グッド・シングス』は、それらに続く通算4枚目のスタジオ・アルバム。メイン・プロデューサーは、引き続きダニー・オートンが担当した。

 約2年前の2019年10月にリリースした1stシングル「10,000 Hours」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で4位にグループ初のTOP10入りを果たし、初週としてはカントリー・ソング最大の週間ストリーミング記録を更新するという大偉業も達成した。デュエット・パートナーに迎えたジャスティン・ビーバーのネームバリュー(妻ヘイリーも?)効果もあるだろうが、歌詞・曲共にまどろっこしさのないシンプルなラブ・バラ―ドは、ヒットするべくしてした誰もが納得できる名曲。今年3月に開催された【第63回グラミー賞】で <最優秀カントリー・デュオ/グループ・パフォーマンス>を堂々受賞したのも頷ける。

 それに匹敵するのが、アルバムのトリを飾る「I Should Probably Go To Bed」。ゆっくりとエスカレートしていくドラマチックな展開、R&Bとカントリーのハイブリットともいえるサウンド・プロダクションは、ジャスティンの手法を取り入れ良いところだけコンパイルしたような充実ぶりだ。ピアノの美しい音色、テノール&アルトを使い分けたボーカルもすばらしく、アルバムの最高の瞬間を彩るべく“エンド・ソング”らしい傑作。

 同路線では、ストリングス・セクションが、彼らの出身地である米ナッシュビルの雰囲気を連想させるドラマティックなカントリー・メロウ「Let Me Get Over Her」や、パンデミックによるネガティブ/ポジティブ両面の思想を歌った「Glad You Exist」もいい曲。後者では、アンクル・クラッカーの「Follow Me」(2000年)やキッド・ロックの面影もみせる“懐かしさ”も聴きどころ。ゴスペル風のコーラスを従えた、デイブ・バーンズ作のスタンダードなカントリー・ソング「You」も捨てがたい。

 クロスオーバーした曲では、チャーリー・プース流のソウルフルなハーモニー~オートチューンにマンドリンが絡み合うR&Bテイストのタイトル曲や、ショーン・メンデスと彼のプロデューサーとしても知られるスコット・ハリスが共作したアコースティック調のスムース&メロウ「Body Language」、ジュリア・マイケルズがソングライターに参加した、ピアノとストリングスが主体のクラシカルな「Give In To You」あたりが、なかなか強めの主張を放っている。

 タイトルに「One Direction」を冠したこの曲も、1Dの楽曲に通ずる爽やかな風通しの良いポップ・ソングにクロスオーバーしている。歌詞には直接グループについて触れるようなフレーズは見られないが、曲調にはその雰囲気があらわれているような気がする。ツイン・ボーカルが活きたジェイソン・ムラーズ風の オーガニック・メロウ「Steal My Love」や、フリー・ソウル・シーンで再燃し今なお高い人気を誇るビル・ウィザースの「Lean on Me」(1972年)を引用したレゲエっぽいチルアウト・ソング「Lying」など、ジャケ写の夏感をそのまま音にした曲もいい。最もカントリーらしいといえば、バンジョーやアコーディオンの音色が舞うメロディック&ノスタルジックな旋律の「Irresponsible」か?

 カントリー・アルバムとして聴くと大分違和感があるが、ポップ・アルバムとしてはこれほど分かりやすい作品も昨今では珍しいくらいのクオリティで、そのラインを自在に行き来できる彼らの才能にあらためて感服した。正直チャラついたイメージがあったが、どの曲にも根底にはしっかりとしたカントリーの基盤があり、彼らが影響を受けたというキース・アーバンやティム・マックグロウといった先輩方への敬意も曲から伝わるいいアルバムだった。内容も重すぎず曲もライトなだけに、残る夏の清涼剤にもオススメ。

Text: 本家 一成

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