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2021/06/28

『プラネット・ハー』ドージャ・キャット(Album Review)

 米カリフォルニア州ロサンゼルス出身。昨今のフィーメール・ラッパー・ブームにおける火付け役の一人として活躍の幅を広げているドージャ・キャット。ハイスクール時代から本格的にアーティスト活動を始動させ、高校を中退し2014年にEP『Purrr!』でデビュー。本作からのシングル「ソー・ハイ」は高い注目を集め、700万再生を超えるストリーミングを記録した。

 2018年には自身の名前(アマラ・ラトナ・ザンディル・ドラミニ)を冠したデビュー・アルバム『アマラ』、翌2019年には2ndアルバム『ホット・ピンク』を発表。本作からのシングル「セイ・ソー」は、TikTokでのブレイクとニッキー・ミナージュをフィーチャーしたリミックスのリリースにより、翌2020年の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初のNo.1を獲得した(5月16日付チャート)。

 今年3月に開催された【第63回グラミー賞】では<最優秀新人賞>、<最優秀レコード賞>、<最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞>の3部門にノミネートされ、「セイ・ソー」の近未来的な演出によるパフォーマンスも大成功を収めたばかり。そして翌4月には、本作『プラネット・ハー』からのリード・シングル「キス・ミー・モアfeat.シザ」をリリースし、リミックスのゲストとしてクレジットされたアリアナ・グランデの「34+35 with ドージャ・キャット&メーガン・ザ・スタリオン」(最高2位)に続く3曲目のTOP10入りを果たしている。

 その「キス・ミー・モア」は、本作のトリを飾る最終曲として収録。「セイ・ソー」の続編ともいえるニュー・ディスコ風のトラックには、コーラス部に80'sディスコの定番であるオリビア・ニュートン=ジョンの「フィジカル」(1981年)がサンプリングされている。歌詞をイメージした官能的で甘ったるい両者のボーカル、カラフルなエレクトロ・サウンドにフィットした未来的&宇宙的なミュージック・ビデオも上出来で、いずれの要素においても(良い意味で)あざとさが伺える。あざといといえば、1億再生を突破したMVのピンクの銅像に扮したドージャと、桜の木に囲まれて歌うアフロへアーのシザがキュートで“あざとかわいい”。

 前述のアリアナ・グランデは、6曲目に収録された「アイ・ドント・ドゥ・ドラッグス」にゲストとして登場。サウンドは、昨年11月にリリースしたアリアナの最新作『ポジションズ』路線のミディアムで、ライトなファルセットを用いて歌うダメ男への執着と離脱を綴った歌詞が彼女たち“らしい”仕上がりに。「34+35」の再結成=メーガンを加えたリミックスをリリースしたら、面白い展開が期待できそう……。12曲目の「イマジン」もアリアナ風味のトラップ/R&Bで、語尾を伸ばしたフックとファンキーなヴァースが中毒性抜群。今さらではあるが、ボーカルとラップどちらも熟すのがドージャの強みだと実感させられる。

 アリアナといえば、彼女と共に「セイヴ・ユア・ティアーズ」をNo.1に送り込んだザ・ウィークエンドも8曲目の「ユー・ライト」にフィーチャリング・ゲストとして参加している。ザ・ウィークエンドも、昨年の年間1位に輝いた「ブラインディング・ライツ」のモンスター・ヒット~今年2月に開催された【第55回スーパーボウル】でのパフォーマンス、グラミーでのボイコット騒ぎなど、目覚ましい活躍が続いているトップ・アーティストの一人。

 「ユー・ライト」は、ウィークエンドのお得意とする重々しい空気感のオルタナティヴR&Bで、不貞ともとれる“イケナイ恋”を歌った歌詞、それに通じるギリシア神話のような世界観のミュージック・ビデオも美しく、完成度の高い作品だった。9曲目の「ベン・ライク・ディス」も、ウィークエンドの作風をお手本にしたようなダウンビートの傑作。クールネスなサウンドが、これまら迎える夏の清涼剤にも最適だ。

 「ユー・ライト」をプロデュースしたドクター・ルークは、その他にもエロティシズムなフレーズを強烈なフロウで攻め立てる「ニード・トゥ・ノウ」、そして「Tyson Trax」名義で書いた前述の「キス・ミー・モア」の計3曲を手掛けている。ドクター・ルークといえば、歌手のケシャに対する精神的操縦や性的虐待で2014年に訴訟され、実質“干され”状態だったが、昨年ドージャの「セイ・ソー」をプロデュースし、大成功を遂げカムバック果たしたという経緯がある。彼の起用は女性アーティスト~ファンにとって「暴挙に出た」と受け取れなくもないが、ドージャのブレイクはドクター・ルークあってのもの……というのもまた事実。

 その他には、ヤング・サグとコラボレーションした「ペイ・デイ」、J.コールのレーベル<Dreamville>所属のラッパー=J.I.Dをフィーチャーした「オプションズ」の2曲の客演がある。前者はトラップとエレポップを融合させたキュートなナンバーで、両者のボーカルも曲調に合わせコミカルに加工されている。後者はタキシードのフロントマン=メイヤー・ホーソーンがプロデュースしたファンキーな曲で、J.I.Dのクセ強めなラップとドージャのラップを交えたボーカルが映える。

 アルバムのオープニング曲「ウーマン」は、女性の権威・向上を主張したエキゾチックなアフロ・ビート。腰が浮くほどのテンションを維持したまま、ラテン・フレイバー漂うダンスホールの次曲「ネイキッド」へ繋ぐ。チャーリーXCXやかつてのグウェン・ステファニーを彷彿させるラップ・ラインの「ゲット・イントゥ・イット(ヤー)」では過激なベッド・シーンを連想させ、夏の夕暮れ時に聴きたいセピア色のスペイシー・メロウ「アローン」では切ない別れを……と、様々な女性の顔をみせた。

 「セイ・ソー」や「キス・ミー・モア」のイメージが定着しているリスナーにとっては、タイトルに直結したドリーミーなサウンド・プロダクション&浮遊感漂うファルセットによる「ラヴ・トゥ・ドリーム」や、敬愛するエリカ・バドゥをお手本にしたようなロジェ・チャハイドによるプロデュース曲「エイント・シット」なんかも(ある意味では)彼女の“別の顔”が垣間見える。

 ラッパー/ヒップホップ・アーティストにカテゴライズされているドージャだが、本作はR&B寄りのポップ・アルバムで、歌詞もドギついニュアンスは少なく、14曲・45分弱というコンパクトさも含めて聴きやすくまとまっている。SNSでの綿密なマーケティング戦略も見事で、大衆受けを狙ったヒット・アルバムという視点でみれば大成功といえるだろう。絵画の中に裸で飛び込んだようなカバー・アートも、キャラクターと内容に沿った美学に精通している。既にブレイクを果たしてはいるが、本作を皮切りに更なる活躍にも期待……できるか。今後が楽しみなアーティストである。

Text: 本家 一成

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