2021/06/15
米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で初のNo.1を記録したブレイク曲「Bad and Boujee」収録の『カルチャー』(2017年)、「Motorsport」(6位)、「Stir Fry」(8位)、「Walk It Talk It」(10位)3曲のTOP10ヒットを輩出した前作『カルチャーII』(2018年)に続く3部作の最終章『カルチャーIII』が、約3年半を要して遂に完成した。
その間には、 クエイヴォが『クエイヴォ・ハンチョ』、オフセットが『ファーザー・オブ・4』、テイクオフが『ザ・ラスト・ロケット』とそれぞれソロ・アルバムをリリースし、他アーティストの作品に参加しヒットを輩出するなど個々それぞれの精力的な働きぶりがみられた。また、本作には収録されていないDJマスタードとのコラボレーション「Pure Water」(2019年)や「Give No Fxk feat.トラヴィス・スコット&ヤング・サグ」(2020年)など、シングルもいくつかリリースしている。
彼らの存在は常にシーンにあったわけだが、ミーゴスとしてアルバムをリリースするのは「ようやく」ということで反響も大きい。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響等により、これまで度重なる延期が続いていたせいもあるだろう。途中経過では、タイトルやコンセプトを変更するかもしれないという説も浮上したが、当初の予定通り『カルチャーIII』として最高の状態で完成させたことは何より。
昨年5月にリリースした1stシングル「Need It」は、同年に2枚のアルバムを全米1位に送り込んだヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインとのコラボレーションで、50Centの「Get in My Car」(2005年)をサンプリングしたちょっと懐かしいトラックが印象的。ヒップホップ“らしい”演出のミュージック・ビデオでは、4人目のメンバーかと錯覚するほどYBが溶け込んでいて、ミーゴスとの相性の良さを伺わせた。なお、 クエイヴォとオフセットは他の楽曲でコラボしているが、テイクオフとヤングボーイはこの曲が初の共演となる。
発売前月にリリースした2ndシングル「Straightenin」では、ゲストを用いずグループとしての魅力をアプローチ。独特の不気味さを纏った中毒性の高いトラック、高級車とワルそうな仲間で構成されたMVいずれもミーゴスらしい仕上がりで、オフセットが「他のアーティストができないことをやる唯一無二のグループ」と自らを称えたのも納得できる。プロデューサーは長年作品に携わってきたDJ Durel、ビデオの監督はバンクロール・フレディとメーガン・ザ・スタリオンの「Pop It」などを手掛けるキーモーションが担当した。
シングル・カットされてはいないが、アルバムのオープニング・ナンバー「Avalanche」も発売同日にミュージック・ビデオが公開されている。モータウンの代表格=ザ・テンプテーションズの「Papa Was A Rolling Stone」(1972年)をサンプリングしたレトロ&モダンな曲で、MVも70年代ソウル(もしくは90年代ヒップホップ?)を意識したスーツでのパフォーマンスを起用している。2曲のシングルにも劣らない、冒頭に配置されただけのクオリティの高さ。
その他シングル候補に挙がりそうなのが、ジャスティン・ビーバーがフックを務めた11曲目の「What You See」。昨年はクエイヴォがジャスティンの「Intentions」にゲストとして参加し、Hot 100で5位、年間チャートでは17位にランクインする大ヒットを記録したワケだが、ヒットに乗じて「Intentions」路線にはせず、アコースティックベースのトラップ・メロウに仕立てている。ミーゴスの三連フロウとジャスティンのナイーヴなボーカルが、絶妙にフィットして聴き心地良い。
目玉曲という言い方は適さないが、13曲目の「Antisocial」にジュース・ワールド、トリ前の「Light It Up」にポップ・スモークと故人がクレジットされているのも、本作の聴きどころのひとつ。前者は、弦の美しい奏で幕を開けるジュース・ワールドらしいエモ・ラップで、彼の死因とされている薬物依存や精神疾患について歌っている。この曲は、3年前に録音されたジュースのみのバージョンに、テイクオフとラッパーのリル・スカイズをフィーチャーしたリミックスが作られ、それをさらにアレンジして本作収録に至ったとのこと。プロデュースはマーダー・ビーツが担当している。後者も昨年リークされた曲をリアレンジしたもので、ポップ・スモークへの敬意をドリル・ビートに乗せて畳みかける。
その他のゲストも豪華で、前述の「Walk It Talk It」で共演したドレイクは成功者のステータスを惜しげもなく披露した「Having Our Way」に、オートチューン効果が哀愁を漂わす夏の夕暮れ時に聴きたい「Picasso」にはフューチャーが、そして破局と復縁を繰り返すオフセットの妻でフィーメール・ラッパーのカーディ・Bが4曲目の「Type Shit」にフィーチャーされている。それから、ホーンをバックに従えたファンキー&クールな「Malibu」には、4月に「Rapstar」が初のNo.1を獲得したばかりのポロGが参加。若手の勢いが感じられるこの曲も、ヒットが狙えそうな本作の目玉だ。なお、ポロGは同日に自身の3rdアルバム『ホール・オブ・フェイム』をリリースしていて、チャートにおいてはどちらに軍配が上がるか注目されている。
金(持ち)に群がる女性をユニークに非難した00年代中~後期のサウスっぽい「Birthday」、シンセが唸る1st路線のトラップ「Modern Day」、タイトルの通りパンデミックについてラップした、チャイコフスキーの「くるみ割り人形(行進曲)」を下に敷いたような「Vaccine」、ドイツのプロダクション・デュオ=キュービーツがプロデュースしたエキゾチックな雰囲気の「Jane」、ゼイトーヴェンがプロデュースした内容・トラック共にまさにパーティー・チューンな「Roadrunner」、クエイヴォの「S-U-C-C-E-S-S」が脳裏に焼き付く「Mahomes」、過去と現在を照らし合わせる「Handle My Business」~「Time for Me」など、ゲスト不在の曲も数稼ぎとはいえないクオリティ。
2枚組、全24曲の前作『カルチャーII』よりはコンパクトにまとまったが、19曲というボリュームやアーティストの厳選からしても、ストリーミング=チャートに対する意識や戦略が感じられる。作品の質はもちろん、商業的な成功もしっかりおさえるあたりもミーゴスらしい。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”では、『カルチャー』、『カルチャーII』が2作連続で首位を獲得している。3部作の締め括り、最終章のNo.1デビューも期待したい。
Text: 本家 一成
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