2026/04/03 19:00
3月から、渋谷駅がホロライブ所属のバーチャルアイドル・星街すいせいの広告で埋め尽くされている。VTuberも、ずいぶんと日常に溶け込んできたように思う。しかしさらにこの先、こうした光景はアップデートされ、フィジカルな視点においてもリアルとシームレスに接続されていくだろう。たとえるなら、世界中の人々が当たり前に手にしているApple製品のように。
経営理念に「Think Different(常識にとらわれない思考)」を掲げるAppleは、4月1日に迎える創業50周年を記念し、ニューヨーク市のApple Grand Centralを皮切りに、3月13日より世界各地で創立50周年の記念イベントを開催した。ニューヨークにはアリシア・キーズ、ロンドンにはマムフォード・アンド・サンズといった世界中のビッグアーティストが登壇するなか、3月27日に日本・Apple 表参道で行われた【パフォーマンス:Mori Calliope - 創造性とテクノロジーの祝典】のヘッドライナーに選ばれたのは、hololive English「-Myth-」(ホロライブプロダクション傘下の英語圏向けグループ)の一期生であり、グローバルな人気を博しているVirtual Artist・Mori Calliope(森カリオペ)だった。
筆者が入場し、イベントの開始を待つあいだで印象に残ったのは、Apple 表参道の外に並んでいた来場者たちが、スタッフの誘導によって一列で入場するたびに、Appleスタッフの拍手で迎え入れられるというハートウォームな受け入れ体制だった。チケットは、Apple公式サイトにて3日前から先着順の事前申込制。ふと、ニッチな最新AIの話題も耳に入ってきたことから、恐らくAppleファンから最新テクノロジーに関心の高い開発者、Mori Calliopeのリスナーなどが、国籍を問わず集まっているのだと感じられた。そして、普段はApple製品が理路整然と並ぶApple Storeが、ライブ会場へと姿を変えたのは、イベントが19時にスタートしてからのことだった。
巨大なビデオウォールに、デジタルな存在として現れたMori Calliope。Apple Musicにおける彼女のトップソングで上位に位置するスリリングなエレクトロサウンド「Go-Getters」の歌唱後は、Apple Music RadioのDJ・みのが進行を務め、Mori CalliopeとのQ&Aが繰り広げられた。音楽との出会いのきっかけが、誕生日に買ってもらった赤いiPod nanoだったこと、ニューアルバム『DISASTERPIECE』の新曲「Ningen Dakara」のデモはiPadを用いてGarageBandで作曲したことが明かされる。いかにAppleが彼女の音楽人生にナチュラルに組み込まれていたかを物語るセクションだった。初めてダウンロードして聴いた曲が、アメリカのヒップホップデュオのアウトキャストの「HeyYa!」で、当時はその曲しか聴いていなかったというエピソードには、会場がどっと笑いに包まれた。
今では、当たり前の存在として日常に溶け込み、こうして集まったApple愛好家同士のコミュニティさえも生み出してきたAppleも、そのルーツを辿れば、1976年4月1日、カリフォルニアの小さなガレージでの創業に行き着く。パーソナルコンピュータという概念自体もまだなかった。iPodやiPhone、iPad、Apple Watchなどのプロダクトから始まり、近年ではApp StoreやApple Music、Apple Pay、iCloud、Apple TV+といったソフトウェア領域にもラインを拡張。今では、世界規模で支配的な影響力を持つ企業群、通称・ビッグ・テック(Google、Apple、Meta(旧Facebook)、Amazon、Microsoft)の一員でもある。なかでも主力製品であるiPhoneのアクティブユーザー数は世界的に増え続け、2025年時点では15億6,000万人に達したそうだ。こうした世界を凌駕するストーリーを持つAppleと、2016年に誕生した、キャラクター的存在と実在する活動主体のハイブリッドな表現形態のVTuberシーンを並べると重なるものがある。Appleの歩んできた道を、VTuberがなぞるように追随していくのではないか? そういうストーリーが脳裏に鮮明に浮かび上がってきた。それを印象付けたのが、Mori Calliopeの「今、日本では少しずつ当たり前になってきましたが、世界的にみれば私たち(VTuber)は、まだとても珍しい存在。そこから抜け出すことはロックな精神の一部ですね」という言葉だった。
Mori Calliopeを象徴するピンク色のペンライトが揺れるなか立て続けに「未来島」から、ファンキーなベースのリズムとフロウが踊る「Orpheus」、「DONMAI」といったパワフルなロックチューンが披露される。英詞と日本語詞が自由に行き交うことで生まれるグルーヴ。言語の壁にとらわれないパフォーマンスでありながら、引き立っていたのはより根源的な部分だ。まさに、困難な状況下でも歩き出そうとする“ロックな精神力”が表現されていたと思う。
「クリエイティビティの原動力を教えてください」と、みのの問いに対し、現実の世界に、3Dホログラムとして当たり前にいるそんな未来を目指すビジョンこそが、自身の創作を突き動かす原動力になっていると語ったMori Calliopeの瞳は、たしかに輝いていた。同時に、AppleのCEO・ティム・クックが創業50周年を祝う手紙に綴った「世界を変えられると信じるほど“クレイジー”な人たちこそが、実際に世界を変えるのだ」という言葉を想起させた。彼女のジャンルと言語の壁を越えたグルーヴィーな音楽、VTuberに対する情熱そのものが、どこか“クレイジー”と呼びたくなるほど純度の高い熱量を放っている。VTuberやバーチャルヒューマンがすでに浸透しつつある今、テクノロジーが驚異的なスピードで進化していることを思えば、Mori Calliopeの思い描く未来は、そう遠くないはずだ。
「バーチャルアーティストの身体はバーチャルですけど、人間の“心”がある」と語ったMori Calliope。手紙の中で、ティム・クックは、「製品の真の意味はユーザーがどのように活用するかにある」とも伝えていた。テクノロジーの進化によって、さまざまなものが便利になってきたなかでも、人間が手放していけないのは、いつの時代も人間が“司令塔”であり続けるという意志だと感じる。VTuberはデジタルな存在と言っても、そのキャラクターの“中”に個性を持った“人”がいる。そういう安心感があるからこそ、カルチャーとして成立し、ここまで発展してきた。そう考えると、VTuberは、令和の時代において見失いがちな本質である、人間の意志や創造性の価値を、あらためて伝えてくれる存在とも言える。ある意味で、“救世主”的だ。
披露された楽曲がApple Musicで配信されていることに加え、ホロライブ初の公式スマートフォンゲーム『ホロライブ ドリームス(通称:ホロドリ)』がApp Storeにて予約受付中であることもアナウンスされた。筆者の目には、約40分という限られた時間のなかで、Apple、Mori Calliopeともに、非常に尖った存在として焼き付いた。そして、ひとつ気付いたことがある。それは、たとえメインストリームに浸透しても、その尖りを失わずに在り続ける──その精神が何よりも肝心なのだ、ということだった。
Text by 小町碧音
◎イベント情報
【パフォーマンス:Mori Calliope - 創造性とテクノロジーの祝典】
2026年3月27日(金)
東京・Apple 表参道
セットリスト
01. Go-Getters
02. 未来島
03. Orpheus
04. DONMAI
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