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2024/10/22

<ライブレポート>なとり、【劇場~再演~】ファイナルで明かした“日なた”へ向かう決意――急激な進化と求心力をみせた自身10回目のライブ

 コンスタントなリリースはもちろん、楽曲提供、imaseやキタニタツヤとのコラボレーション楽曲の制作など、精力的な活動を続けるシンガー・ソングライターのなとり。彼が東阪ワンマンツアー【なとり 2nd ONE-MAN LIVE『劇場~再演~』】の最終公演を、神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにて迎えた。

 今年は2月に自身初のライブ【natori SECRET SHOW】を開催、以降は【VIVA LA ROCK】【ROCK IN JAPAN FESTIVAL】【SUMMER SONIC】と数々の音楽フェスへ出演するなど、着実にライブ活動を積み重ねてきた。彼にとって人生10回目となるこのライブでは、ライブの臨場感やその瞬間限りの特別な高揚感を楽しむなとりの姿を見ることができた。

 アルバム『劇場』のラスト曲「カーテンコール」のリアレンジ・バージョンでオープニングを彩ると、「金木犀」のアコースティック・ギターの音色に乗せて、ステージ中央よりなとりが登場する。艶やかかつ仄暗いムードの漂う楽曲、橙色と紫の照明、どこかホラーめいたステージセットが10月というタイムリーな季節感を表現し、会場一帯がなとりの世界に取り込まれるようだ。「Sleepwalk」ではステージ前方を往来しながらファルセットを巧みに操り、「猿芝居」ではトロンボーン、サックス/フルート、トランペットのホーン隊が加わりさらにふくよかな音を作り出す。それに合わせてなとりが身体を揺らす様子からも、彼がいまこの瞬間を存分に謳歌していることが伝わってきた。

 和風のメロディが耳に残る「猿芝居」では、幕越しに見える背景のモニターに多数の提灯が映し出され、洞穴の中でひそかに開催されている秋祭りに迷い込むような錯覚に陥った。このツアーのタイトルには『劇場~再演~』という言葉が使われているが、1stワンマンツアーの【劇場】(2024年3~4月開催)とは趣向が大きく異なる。前回のツアーは、丁寧に楽曲やアルバム『劇場』で表現した世界を緻密に組み立て、それを観客に提示するニュアンスが強かったが、今回はなとりのフロントシンガーとしての存在感が前面に出ることに加え、楽曲と生パフォーマンスでもってパワフルに会場を巻き込んでいく。ステージの躍動感が増したことからも、限られたライブの機会から、なとりが様々な知見や興奮を得ていたことがうかがえる。

「さっそく新曲を持ってきたのでぶっ飛ばしていきましょう。暴れようぜ!」と威勢よく告げると、「DRESSING ROOM」「EAT」と2曲を披露する。新曲でありながらも客席が盛り上がるのは楽曲の力だけでなく、彼が荒々しくも丁寧にエスコートをするからだ。彼の持つユーモアや色気、エッジの効いたハングリー精神が解放されるような音像はダークでありながらも爽やかさを纏っていた。1stツアーでも披露された未配信曲「Catherine」はホーンが加わることで華やかさが増し、少しかすれた声が効果的に響いた「ラブソング」の後はなとりが爪弾くアコギのアルペジオで始まる「ターミナル」へ。客席もリズムに乗せてクラップを鳴らし、グルーヴの効いた歌唱と演奏を楽しんだ。

 トリッキーなロックナンバー「聖者たち」で会場を触発すると、ピアノソロからドラムソロ、ドラムとベースのパフォーマンスを経て、ピアノ、ギターが重なりジャズテイストのインストでギアを上げ、なとりの「ようこそ『劇場』へ!」の掛け声でステージに垂れ下がる幕が落ち「劇場」へと連なる。ホーンも加わりダイナミックな演奏を響かせると、ソロ回しを兼ねたバンドメンバー紹介ののち「フライデー・ナイト」へとなだれ込む。スマートでありながらも遊び心に満ちた展開は、まさにめくるめく鮮やかさだ。バンドメンバーにアドリブで茶々を入れる様子もいたずらっ子のようで微笑ましい。「Overdose」にもホーンが加わり、大胆なライブアレンジは楽曲の更なる魅力を引き出すだけでなく、会場に熱気をもたらした。ふたりきりのベッドルーム的な甘美さというよりは、誰も取りこぼすことなく全員を連れ去るような頼もしさ。なとりがステージに立つ人間として、大きく進化したことを象徴するシーンだった。

 ホロライブインドネシアに所属するVTuber、こぼ・かなえるに提供した「HELP!!」のセルフカバー、imaseのパートもひとりで歌唱しラップも披露した“なとり & imase”名義の楽曲「メロドラマ」と、ライブならではのレアなパフォーマンスで会場を沸かし、「今年たくさんライブを経験するなかで、わたしにはブチ上げるためのロックな曲が足りないと思い、皆さんがタオルを回せるような曲を持ってきました」と言うと、新曲「IN_MY_HEAD」でがなるように歌いギターをかき鳴らす。その熱量を「絶対零度」「エウレカ」とロックナンバーで繋いでスピードを上げていくと、「Cult.」では再びピンボーカルに戻りクールダウン。この振れ幅が実現できるのも、なとりが様々な音楽性にトライしてきたからに他ならない。

 ラスト1曲を前に、なとりは「とても大事なお知らせをさせていただきたいです」と前置きし、2026年2月19日に東京・日本武道館公演をおこなうことを発表。彼にとって武道館は、大好きなアーティストのライブを初めて観た憧れの会場であり、上京してすぐ「Overdose」をレコーディングした日の夜に地元の友人と「あのステージに立ちたい」と誓った約束の場所であることを明かすと、客席からあたたかい歓声と拍手が沸き上がった。

 すると、なとりは今の自身の心境を語り出した。『劇場』の制作や、ライブで観客とコミュニケーションを取るなかで、自分の曲を愛する人たちを思いやり、救える曲を作りたいという願望が生まれたと述べると、夜や暗闇を描いてきた自分を愛してくれている人がいることに理解を示したうえで「わがままかもしれないけど、“日なた”を書いていくなとりのことをこれからも愛してほしい」とまっすぐ伝える。「これからも僕はたくさんの変化を繰り返して、もしかしたら皆さんを置いてけぼりにするかもしれない。けど、僕はちゃんと皆さんのことを愛しているので、これからもどうか僕の音楽をたくさん聴いてほしいです」と続け、本編の最後に歌唱したのは「糸電話」。歌詞の一つひとつをリスナーに届けるような、優しい歌声が胸に染み入った。

 アンコールで再びステージに戻ったなとりは、「ここからは“第2フェーズ”のなとりでお届けしたい」と告げると、改めて「(観客やリスナー、バンドメンバー、スタッフなど)みんながいてくれる環境が本当にうれしい」と話す。逆光で表情などはわからないが、その声の様子はなんだか少し感極まったような、涙ぐんでいるようにも感じられた。「最後に皆さんと1曲歌いたいです」と歌いだされたのは「夜の歯車」。柔らかい歌とギターのアルペジオに、楽器の音色と観客の歌声が少しずつ折り重なる。彼が観客の手を取り、夜から陽の当たる場所へとふわりと浮かんでいくような音像は、隅々まで誠実だった。

「次は(2025年5月からの)Zeppツアーでお会いしましょう」と深々と頭を下げ、なとりはステージを後にした。たった10回のライブ経験で格段に進化してきた彼のことである。日本武道館公演までの1年4か月で、様々な変遷を描いていくだろう。音楽家として飽くなき挑戦を続ける彼のアティテュードが表れたライブパフォーマンスは、広い空を飛び立つ鳥のように大らかに輝いていた。なとりの新章は始まったばかりだ。


Text:沖さやこ
Photo:タマイシンゴ

◎公演情報
【なとり 2nd ONE-MAN LIVE『劇場~再演~』】
2024年10月19日(土) 神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール

▼セットリスト
01. 金木犀
02. Sleepwalk
03. 食卓
04. 猿芝居
05. DRESSING ROOM
06. EAT
07. Catherine
08. ラブソング
09. ターミナル
10. 聖者たち
11. 劇場
12. フライデー・ナイト
13. Overdose
14. HELP!!
15. メロドラマ
16. IN_MY_HEAD
17. 絶対零度
18. エウレカ
19. Cult.
20. 糸電話

En.1 夜の歯車

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