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<インタビュー>後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 本と流通、そしてAI時代の“表現”をめぐる思考の現在地【WITH BOOKS】

インタビューバナー

Interview & Text:黒田隆憲


 書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】、今回登場するのはASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター、Gotchこと後藤正文。彼はこれまで、音楽活動を通して──とりわけ歌詞という言葉の力によって、社会や政治の問題と向き合ってきた。分断や対立が深まる時代にあって、その先でなお“つながる”可能性を探り続けてきた稀有な存在である。

 近年は静岡・藤枝に滞在型音楽スタジオ〈MUSIC inn Fujieda〉を設立し、創作の場そのものを育てる試みにも力を注いでいる。実は彼は、かつて出版社で営業を務めていた経歴も持つ。「届ける側」に身を置いた経験は、作品の流通や受け取られ方を見つめるまなざしにどう結びついているのか。後藤はいま、どんな本を読み、何に心を動かされているのか。AI時代における表現と流通の行方まで、その思考の現在地を聞いた。

最近読むのは
“社会の仕組みを考える”ための本

――最近はどんな本を読んでいますか?

後藤:最近は、どうしても実用的というか、社会の仕組みや、これからのあり方を考えるための本を読むことが多くなってきましたね。たとえばデヴィッド・グレーバーのような本に手が伸びがちで、創作物やフィクションにはあまり触れられていないなと感じています。それでは良くないなという気持ちもあって、なるべく小説などにも手を伸ばすようにはしているのですが、どうしても積読気味。忙しさにかまけて読めていないのが現状です。


――よくわかります。

後藤:ただ、このところZINEを手に取る機会が増えましたね。兵庫県尼崎市にある『DIY BOOKS』という場所で、自分の物販用の絵葉書をリソグラフ印刷で刷らせてもらったことがあって。それ以降はDIYで本を作る人たちと出会う機会が増えたんです。あと、静岡県藤枝市に音楽家支援を目的としてつくった滞在型音楽スタジオ〈MUSIC inn Fujieda〉にも、友人がリソグラフ印刷機を導入してくれたので、それでZINEやフライヤーの制作をしようと盛り上がっているところです。それもあって、ここ数年はリソグラフのワークショップに参加することも多く、そうした流れの中で自然と自主出版にも触れるようになっていったんだと思います。



――ここ最近は文学フリマやZINE Fest.などの盛り上がりもすごいですよね。では、今まで読んできた本の中で、特に印象に残っている本というと?

後藤:小説だとカズオ・イシグロの『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』です。映画を見る前に原作を読んだのですが、本を読んで泣いたのは、たぶんあれが一度きりですね。それくらい強く心に残っています。それからカルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』も衝撃的でした。次に読んだ『世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論』が素晴らしくて、「これはすごい」と感銘を受けました。日本だと、佐々木 中さんの『切りとれ、あの祈る手を―〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』や平野啓一郎さんの『私とは何か――「個人」から「分人」へ』も強く印象に残っています。


――読んだあとに、世界の見え方や物事の捉え方が少し変わるような本を求めている感じがします。

後藤:そうですね。そしてそういう体験は、思想書やノンフィクションに限らず小説でも起こることです。


「作り手だけが偉くない」

――後藤さんが出版社で営業をされていたことも、よく知られています。

後藤:建設会社の中に出版部があって、そこで星野富弘さんの作品だけを扱っていたんです。中心は絵葉書やカレンダーで、かなり特殊な形態だったと思いますね。とはいえ、取次の一般倉庫に行くこともありましたし、カレンダーは文具に近い扱いなので、通常の書店営業もありました。有隣堂の各店を回ったり、ロフトのような文具を扱う店に行ったり、大型チェーンの本部に足を運んだり。

人手がほとんどいなかったので、基本的には僕がやるしかなかった。特別な夢があったというより、引き継がれた仕事を一つひとつ必死にこなしていくなかで、結果的に営業の現場を一通り学ばせてもらった、という感覚ですね。


――そうした「売る側」「届ける側」の経験は、その後の本との向き合い方に、何か影響をもたらしましたか?

後藤:読書のしかた自体が大きく変わった、という感覚はあまりないかもしれません。ただ、その後に自分が「売ってもらう側」になったことで、営業の方たちの大変さは以前よりも強く想像するようになりました。「作品を売りに行ってくれている人がいるんだな」とか、レコードショップにきちんと入れてもらっていることのありがたさとか。そういうことは自然と意識するようになりましたね。


――音楽活動のほうにも何か影響はありましたか?

後藤:どうでしょうね。ただ、CDやレコードを売ってくれている人たちのことは、やっぱり仲間だと思ったほうがいいと思っています。音楽って、作っている人間だけが偉いわけじゃない。お客さんと直接向き合って届けてくれる人たちも含めて、みんなで作っているものだと思うんです。いろんな役割や労働が重なり合って、ひとつの作品が届いている。最近は、そのプロセスをすっ飛ばして、いきなり届いてしまうような時代にもなってきていますよね。そういう状況については、やっぱり思うところがあります。


紙媒体だからこそ生まれる“誤配”

――配信の仕方などは変わりつつありますが、人が多く関わって作品が届くという構造自体は、今も変わらない部分がありますよね。完全にひとりで完結するわけではない、というか。

後藤:そうですね。ただ僕は、「紙に書く」ということの強さを、また別のところで強く感じるようになりました。それは出版社で働いていた時よりも、むしろ自分たちで『THE FUTURE TIMES』という新聞を作った経験が大きかったと思います。

紙に刷って、人に配ったり売ったりする。その一連の作業が、どれだけ手間と時間のかかるものなのかを身をもって知りました。編集についても、そこで本当に学んだ感覚があります。一文字一文字をきちんと読み、何度もゲラを重ねて、校了までにこれだけ多くの人がプレッシャーやエネルギーを注いでいるんだ、ということを実感しました。

ネットだったら、WEB担当に連絡すれば数分で直せることでも、紙ではそうはいかない。見出しを間違えたらシャレにならないし、写真の差し替えもできない。刷ってしまったらもう終わりですからね。だからこそ「紙で出す」という行為の重みや強さを、自分たちで新聞を作ってみて、あらためて思い知らされました。


――なるほど。

後藤:紙には「ボディ」がある、と言ったらいいんでしょうか。物理的な身体性があるから、書店だけでなく、たとえば喫茶店に置かれた新聞や本を、まったく関係のない人がふと手に取ることが起きる。いわゆる“誤配”が生まれるんですよね。東浩紀さんの言葉で言うと(笑)。でも、その誤配が起きることで、出版物ならではの強みが立ち上がる。意図しない出会いが生まれる、というか。雑誌の強さも、まさにそこにあると思っています。

たとえば、美味しい牛丼屋の特集を目当てに買った本に、急に映画の話が載っていたりする(笑)。でも、そのズレが面白い。音楽のサブスクも含めて、いまは全体に少しずつ均一化が進んでいる感覚がありますよね。横のつながりは分かりやすくなったけれど、どうしても近いジャンル同士に収まりがちになる。まったく別のジャンルにいきなり橋を架けてくれるような機能は、なかなか起きにくい。プレイリストで起こることもあるかもしれませんが、紙が持っている偶然性とは、やはり少し違う気がしています。


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本は「効率のいい」メディア

――気軽に読まれたり、気軽に聴かれたりすることの良さも、もちろんあると思います。一方で、紙の本を作るには多くの時間がかかりますし、読む側も音楽以上に時間を使うことになりますよね。文字を読むという行為自体、かなり手間のかかるメディアだとも感じます。それでもなお本に惹かれる理由として、先ほどおっしゃっていた“強さ”や“誤配”以外に、じっくり、ある種「非効率に」読み解いていくことの醍醐味はあると感じますか?

後藤:僕は、本って実はすごく効率のいいメディアだと思っているんです。というのも、本って時間が止まっているんですよ。自分で動かさなければ、勝手に進まない。いまの動画メディアって、気づいたら再生されていて、自分の時間をどんどん奪われていく構造じゃないですか。だから「タイパ」みたいな言葉が出てくるんだと思うんですけど、実は本はその逆なんですよね。

自分の隙間時間に、どこを読むかを自分で選べる。しおりを挟めば、そこでちゃんと止まって待っていてくれる。時間の主導権が、完全に読む側にある。そういう意味では、文章っていちばん効率のいいメディアなんじゃないかな、と思ったりします。


――後藤さんご自身は、どんなタイミングで本を読むことが多いですか?

後藤:移動中が多いかもしれない。電車とか。ただ、乗り物に乗って本を読むと、なぜか眠くなるんですよ(笑)。あとは、もう無理やり時間を作るしかない。昔は寝る前に読むこともよくやっていましたけど、最近はなかなかできていなくて。正直、いまはちょっとワーカホリックすぎて、とにかく時間がないんですよね。もう少し仕事を減らして、ちゃんと読む時間を作らなきゃなとは思っています。

でも、やっぱり一時間くらいまとまって集中して読めると、理解の深さが全然違う。だから本当は、そういう時間を取りたいんですけど、現実的にはどうしても移動中になってしまいますね。タクシーの中は難しいけど、電車の中でパッと開いて、少しずつ読む、という感じです。


――飛行機はいいですよね。ネットも使えないし、携帯も触れないから、すごく集中できる。

後藤:本一択になるのがいいんですよね。正直、新幹線もWi-Fiを切ってくれたらいいのにって思います(笑)。デバイスがあると、どうしても連絡や考え事に引っ張られてしまう。だから、そういうものから強制的に切り離される環境じゃないと、なかなか本に集中できなくなってきているな、とは感じます。


――ビルボードジャパンが新たに立ち上げたブックチャートをご覧になって、率直にどう思いましたか?

後藤:いまは総合(“Book Hot 100”)1位が『キングダム』なんですね(※取材当時)。“Hot Economy Books”は俵万智さんの『生きる言葉』が1位にチャートインされているのか。すごいですね。個人的には、文芸のチャートが気になります。何が読まれているのかなって。見ると、柚木麻子さんの『BUTTER』がいまだに売れ続けているのがすごいなと思います。賞も取っていますし。僕は村田沙耶香さんの『コンビニ人間』も好きでしたし、いまだに根強く読まれているのを見ると、純文学がここまで上位に来ているのは、すごいことだなと思います。


――こうしたチャートがあることで、読み方や読まれ方がどう変わっていったらいいと思いますか?

後藤:うまく機能すれば、一つのカウンターになり得るのではないかと思っていて。最近はだいぶ減りましたけど、以前の空港の書店や新幹線の売店って、正直、ヘイト本の温床みたいになっていた時期があった気がしていて。そういう状況に対して、今は(日本のあらゆる書籍販売チャネル隅々までを集計している)「本当のチャート」ではないにしても、別の視点を提示する存在としては、十分意味があると思うんです。

ただ、チャートって世相を映すものでもありますよね。たとえばこのブックチャートを見たときに「ちょっと嫌だな」と感じるときがあるとすれば、それは社会全体が「そういう空気」にあるということでもある。もちろん、単純に良い/悪いで断じるべき話ではないと思いますが……。ただ、割とみんな、書店の平台にあるもの──いわば「平台のプロパガンダ」に引っ張られがちじゃないですか。だから、単純に「今、売れている本が気になる」という人にとっては、だったらこっち(ブックチャート)を参考にしてみてほしいな、という気持ちもありますね。


「誰が作った」か分からない時代、
受け手の態度が強く試される

――いま、コンテンツやエンタメが溢れているなかで、作品はこれからどんなふうに届けられていくと思いますか?

後藤:やはりAIが、今後ますます僕たちの表現の中に深く入り込んでくるのは間違いないと思います。どう使うのか、あるいは使われるのかはまだ分からないけれど、避けて通れないテーマですよね。もちろん人間を拡張し、世界を開いていく可能性も大きい。一方で、表現の領域においては「本は誰が書くのか」「音楽は誰が作るのか」という問いを、根本から揺さぶる存在でもあると思うんです。

とはいえ書きたい人、作りたい人は、自分の手でやらない限り欲求が満たされない。そこについては、あまり心配していません。やりたい人は、これからもきっと自分でやり続けると思います。むしろ問われるのは、僕たちが受け手になったときに、それらをどう扱うのか?ということなんじゃないかと。リスナーや読者としての態度そのものが、強く試される時代になる気がしています。


――というと?

後藤:たとえば先人たちが「これは名著だ」「これは名盤だ」と言って繋いできてくれたからこそ、僕たちはいま、本屋や図書館、レコード屋に行って、それらを素晴らしいものとして受け取り、もう一度味わうことができる。でもこれからは、誰が書いたのか分からないものが、大量に出てくる。そのなかで、何を信じて、何を残していくのか。


――AIによるフェイク動画やフェイク画像がネットに溢れかえり、何か見たとき即座に「これは本当なのか?」と考えざるを得ないですよね。その思考の動きに違和感を覚えるというか。なぜそんなバイアスが自分の中に組み込まれてしまったのだろう?と。

後藤:AIによるフェイク動画やフェイク画像がネットに溢れかえり、何か見たとき即座に「これは本当なのか?」と考えざるを得ないですよね。その思考の動きに違和感を覚えるというか。なぜそんなバイアスが自分の中に組み込まれてしまったのだろう?と。

音楽やスポーツは、その点で分かりやすいですよね。目の前に人がいて、たとえばギターソロを弾きまくっていたり、身体を動かして技術を競っていたりする。その場に行かなければ成立しない体験が、はっきり存在している。


――まさに。

後藤:一方で、書かれたものや作られたものについては、これから判別がどんどん難しくなっていくと思います。印刷されたり、コピーされて大量に流通するものは、文体を研究すればある程度までは再現できてしまう。そうなったときに、じゃあどこにその人ならではの“シグネチャー”が宿るのか。それを感じ取ること自体が、ますます難しくなっていく。極端な話、面白ければ誰が書いたっていい、感動できればそれでいい、という考え方もあるとは思うんです。でも、そこまでいくと、今度は完全にリスナーや読者の態度そのものが問われることになる。

書き物のようにデジタル変換が容易なものは、人間そのものの情報量と比べると、圧倒的に少ない。人間ひとりを丸ごとキャプチャーすることは、AIでもできないけれど、本は違う。一冊の小説だって、せいぜい数メガバイトですよね。文字情報としてはキロバイト単位です。その限られた容量の中に、本当に「人間の痕跡」を残せるのかどうか。その点が、いちばん悩ましいところだと思っています。


――今、ふたたびZINEが見直されているのも、そういうことへの反動なのかもしれない。

後藤:まさにそうだと思います。限られた場所で、限られた人にしか届かない。その時点で、文字や表現は身体性や独自性を持ち始めるんですよね。紙にこだわるとか、リソグラフで刷るとか。正直、マーケットに乗せて、とにかく数を売らなきゃいけないものは、ほぼAIが作るようになると思います。もうとっくに工業化しているけれど、それがさらに進んで、みんながそれを消費して、お金が回ればいい、という世界になっていく。だからこそ、チャートももっとローカルな意味を持ち始めるかもしれません。「俺が考えたベストテン」みたいなものが実はいちばん信用される、という状況になっていく可能性はあると思います。たとえるなら、野菜みたいなものかなと。


――野菜、ですか?

後藤:デジタル野菜って存在しないじゃないですか。実際に取り出して、食べられないと意味がない。iPadにストローを刺して飲める、みたいな飲み物はない(笑)。ボディがないと、人は体感として信用できないんですよ。そういうものにより魅力を感じる人は、多かれ少なかれ今後も居続けると思いますね。


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