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<インタビュー>倖田來未、デビュー25年目は「笑いたい!」――新曲「This weekend」でアニバーサリー・イヤーをスタート
Interview & Text:高橋梓
Photo:森好弘
デビュー25年目を迎え、12月6日よりアニバーサリーイヤーへ突入した倖田來未。12月6日、7日には『KODA KUMI 25th Anniversary Documentary Film 「walk」』の上映会が開催され、本人がサプライズ登場して観客たちを驚かせる場面もあった。さらに25年目の幕開けとともに新曲「This weekend」もリリース。約17年ぶりに出演するGEMCEREYのCMタイアップ・ソングにもなっており、必聴の一曲だ。すでに様々な活動予定を発表した倖田本人に25年目について、『KODA KUMI 25th Anniversary Documentary Film 「walk」』について、新曲についてなど、たっぷり語ってもらった。
ファンのみんなのための努力やったらいくらでもできる
――デビュー25年目、おめでとうございます! まずは、この24年間についてどう感じているのかお伺いさせてください。
倖田來未:喜怒哀楽で言ったら、楽しいが一番勝るかもしれないですね。周りを見渡しても、クラブから歌い始めて25年も歌い続けているアーティストって、私、AI、Crystal Kayちゃんくらいしか思い浮かばなくて。辞めてしまった子もたくさんいる中、定期的にコンサートをやらせてもらったり、楽曲をリリースさせていただいたりしているのは本当にありがたいことです。今思えばキツい状況の時もありましたが、「あの時は笑ってたな」と楽しい思い出もたくさんあります。実際、お客さんが3人しかいないライブもありましたが、ダンサーやスタッフ、ヘアメイクさん、スタイリストさんなどの仲間が「大丈夫、大丈夫!」って笑いながら盛り上げてくれて、乗り越えさせてくれましたね。
――素敵なチームですね。
倖田:そうなの! みんな支えてくれて、感謝しかないです。例えば、昔はスタイリストさんをつけるお金がないから、会社から3万円もらって、クラブで歌う用の衣装を自分で買いに行っていたんです。どこに買いに行ったらいいかわからないと言ったら、一緒について来てくれた方がいて。そんなふうに、友だちに近い気持ちで仕事をしてくれた方ばかりが、今もチームに残ってくれているんですよね。そこに対する感謝の気持ちを倖田來未として返すために、結果を残さなきゃと思いながら今も仕事をさせていただいています。倖田來未がメディアに出ることで「倖田來未と仕事をしていて良かった」、「私、倖田來未やってんねんで」と自慢してもらえるようなアーティストであり続けたいなって。
――『KODA KUMI 25th Anniversary Documentary Film 「walk」』でも、たくさんのスタッフさんが倖田さんと仕事をする楽しさをお話されていました。皆さん大切な仲間という前提のもと、「倖田來未が大きく育ったきっかけとなる出会い」を1人挙げるとしたら、どなたになりますか?
倖田:やっぱりU★Gじゃないかな。売れる前から一緒にやってくれていて、ダンサーの中でもあの子が一番長いんですよね。今でこそたくさんのスタッフさんに協力してもらえていますが、最初の頃は本当に少人数でやっていたんです。例えば、今は室井(良夫)さんが生カメをやってくれていますが、生カメって複数のカメラマンがいて成立するんですよね。1stライブの頃はたくさんのカメラマンを連れて回るほど予算もなかったし、生カメをつけるほどの大きな会場でもないし。でもU★Gはお金のない、集客ができない時代も一緒に見てきてくれている仲間なんです。しかも驕ることなく、今も同じ目線でやってくれていて。そういう意味でも、U★Gは当時の私を思い出させてくれて、奮い立たたせてくれる人だと思っています。
――強い絆がありそうですね。
倖田:よく一緒にいましたからね。クラブって19時くらいにオープンなので、18時くらいにリハをするんです。そこから夜中の2時まで待機で。でもご飯を食べに行くお金もないから、銭湯のようなところで時間を潰していて、「1時くらいに集合ね!」って。そこから自分でメイクして、衣装に着替えてスタンバイをしていました。U★Gといると、当時よく聞いていた「1時集合ね」というフレーズが蘇ってきます(笑)。そう思うと、今は本当に恵まれているなと感じます。(周りを見渡しながら)今はこんなにたくさんスタッフさんがいてくれてますけど、当時なんてマネージャー1人しかいなかったですもん。こうしてスタッフさんが固定しているなんてこともなかったですし、空いている人が来るという環境でした。その中でもU★Gは居続けてくれましたね。どんな仕事も笑いながらやってくれていたのもありがたかったです。
――U★Gさんも然りですが、映画の中に登場されるスタッフさんは皆さん「できない」とおっしゃらないのが印象的でした。
倖田:もうね、根性座ってる人しか残ってないですもん(笑)。
――(笑)。倖田さん自身も、周りから「難しい」と言われてもアイデアを貫かれています。
倖田:それはね、失敗してきたからなんです。こんな衣装が着たい、こんなことがしたいと私が言って、周りから「普通はそうじゃないから」、「普通は歌詞にしない」というように“普通は”という言葉で片付けられたとしますよね。実際、やりたいことがやれなかった作品がたくさんありました。でも、リリースした直後に自分がその作品について語るわけです。どういうMVで、どういう思いで、どこが一番の推しポイントなのか。そうするとインタビュアーさんから「これが倖田さんがやりたかったことなんですね」と返されるわけです。それに対して「はい、そうです」と言わなきゃいけない。それがしんどいんですよね。そういうことを何回かやってきて、「諦めるって倖田來未を殺すことなんだ」と気がつきました。なので、わがままを言ってでも、倖田來未を生かすために戦わなきゃいけないと失敗して学びました。
――たしかにそれはしんどい……。
倖田:わかったふりをして「やめとくわ」ってやらなかったことがたくさんあるんですけど、自分らしくない、倖田來未が表現したかったことじゃないものが世の中に出た時に、それを説明するのが違和感だらけやったんですよ。それに、ファンに嘘をついているみたいで嫌やったし、自分が表現したいものを表現するのがアーティストだという考えも自分の中にあったし。なので途中から一切妥協しなくなりました。
――ただ、倖田さんのお人柄を考えると強く意見を貫いたり、誰かに厳しい言葉をかけるのもしんどかったりしませんか?
倖田:いや、そやねん! ドキュメンタリーの中にもありましたけど、本当はキツいんですよ。でも、一生懸命頑張っている人たちに失礼だし、高い目標を持っているチームの中にそうでない人が一人でも居るだけでダメになりかねないので。すべては倖田來未のためなんでしょうね。倖田來未でいるためには嫌われたとしてもそれぐらいしないとなって。
――覚悟を持って倖田來未をやっているからこそ、ですね。
倖田:でも、結婚して子どもができたくらいに丸くなりましたけどね(笑)。子どもってできないことはできないじゃないですか。それを見てしまったが故に一瞬丸くなりました。でも、子どもはできないことでもとりあえずやってみるんです。それを見て、できないものもやってみる努力をすることも思い出しました。家族が教えてくれたことも大きいですね。
――そういったアクシデントがありつつも、【KODA KUMI LIVE TOUR 2024 ~BEST SINGLE KNIGHT~】を完走されて、その様子がドキュメンタリーに収められている、と。
倖田:よう「やめたい」って言わへんかったなと思って。他にも見せたいところがいっぱいあるんですよ。
――あのクオリティのものを作るため故、ですよね。その中で「アクシデントはあったけど歌はめちゃくちゃ良かった」とご自身で仰っていました。
倖田:そう! 私、言ってたやん? でも、蓋を開けたらめちゃめちゃ歌と戦っているっていう(笑)。結局歌に関しては自分自身との戦いなので苦行ではないんですよね。リハーサル中に「重い、重い」って泣いていた場面がありましたけど、本番はのびのび歌えていたので自分の中では順風満帆に感じていたんでしょうね。ドキュメンタリーを見たら、「全然順風満帆ちゃうやんけ」と思いましたけど(笑)。
――「歌はめちゃくちゃ良かった」と言えるのはどんなことを経たからなんだろうと思っていたのですが、とことん自分と戦い抜いた結果なんですね。
倖田:それは自分のためというか、ファンのためかな。私、ファンのみんなのための努力やったらいくらでもできるんです。例えば体を絞るとか、空中で回れるように一生懸命練習するとか。自分の歌が下手やからボイストレーニングをするということが1回もなかったのですが、10年前くらいから声の調子がまずいと思い始めて、「このままだとファンのみんなが悲しむ」と思ってボイストレーニングを始めたりもしました。そういった意味で自分と声を向き合った結果、本番はのびのび歌うことができたのかなと思います。
――ドキュメンタリーには様々な倖田さんの姿が詰まっていますが、どんなメッセージが伝わればいいなと思いますか?
倖田:「包み隠さない倖田來未」が見えていればいいなと思います。今ってSNS時代なだけあって、いろいろ言う人がいるわけです。でも倖田來未はアーティストなので中身を見せないんですよね。だから私は心配かけるようなことや、言い訳は一切言わずにやってきました。例えばスタッフが抜けた、ダンサーが入れ替わったということが起きると、ファンのみんなの中で論争が巻き起こるんですよ。でも私が「この人はこういう理由で外れました」とキッパリ発信してしまうと、誰かを晒すことになる。他にも、熱がある状態でテレビ番組に出たとすると、「くうちゃん、調子悪かったよね」と言われてしまう。でも「いや、40度熱出てん!」とは言いません。それは、SNSは楽しい場所であってほしいという思いがあるから。「実はこうなんだよ」、「本当の自分はこうだったんだよ」ということを言いたくても言えないのが倖田來未、弱音を吐かないのが倖田來未なんです。そうやってずっと隠し通してきたけど、ファンのみんなにご覧いただくのであれば「包み隠さない倖田來未」を感じてほしいと思って、このドキュメンタリーを作りました。
――倖田さんの新しい一面も見えるかもしれませんね。
倖田:アーティスト写真もそうなのですが、「光と影」をテーマにしていて。ファンの方はよく知ってくれていることではありますが、あっけらかんとして見えるけど実はよう泣くとか、倖田來未って、光と影をたくさん持っているアーティストなんです。そこはこのアニバーサリー・イヤーでフォーカスしていけたらなと思っています。
――影の部分を持っていても、SNSで弱音を吐かない精神力の強さは本当に尊敬します。
倖田:それを支えてくれているのは、やっぱりスタッフなんですよね。もう家族ですし、めちゃめちゃ頼りにしています。
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――そして、25年目のスタートとして、12月6日の0時に新曲「This weekend」がリリースされました。拝聴させていただいて、とても素敵な楽曲だと感じました。
倖田:私も聴いていて癒やされるんですよ。自分で作っておいてなんなんですが、「めっちゃいい曲やん」と思っています。今朝もスタッフのみんなに「やっぱええ曲やな、この曲」とメールしました。
――同曲はどういうイメージのもと出来上がったのでしょうか。
倖田:実は3曲くらい候補がありました。GEMCEREYとは、2005年にリリースした「you」でタッグを組んで以来、「JUICY」というちょっとセクシーな曲、「月と太陽」というミディアムバラードで、一緒にCMを作らせていただいてきました。今回は周年ということもあって、倖田來未っぽいアップテンポのナンバーと、この「This weekend」、あともう1曲候補があって。どれにするかスタッフ間でも話し合っていたのですが、「挑戦し続ける」、「新しいものを作り続ける」という姿勢が倖田來未だよねという話になって、「This weekend」に決定しました。
――なるほど。
倖田:自分自身だとわからないこともたくさんあるので、倖田來未というブランディングを頭の片隅に置きながらスタッフさんが俯瞰で見て、どの曲が来たらファンは面白いと思うかというふうに曲を決めています。写真を選ぶ時もそうなのですが、ファンの方に「これや!」と言っていただけるものを選んでいて。「私はこの顔が好きやねんけど、みんなはどうですか?」って。だから私がいいと思った写真がぜんぜん選ばれへん時もある(笑)。過去には、5枚くらい会社に写真を貼り出してもらって、女性社員に投票してもらっていました。牛乳瓶を持っている『BEST 〜second session〜』なんかも女子人気が高かった写真ですね。女性の意見は大切にしています。
――「This weekend」に関しても、女性が共感しそうな歌詞ですよね。かわいい歌詞だけど、ちょっと上から目線なのもいいな、と。どう書き進められたのでしょうか。
倖田:今回私がつけているジュエリーが、ピジョンブラッドというルビーの王様と呼ばれているものなんです。なので「輝き、美しさ、女性が輝くというようなワードを入れたらいいですかね?」とお話ししていました。それで歌詞を書き始めたのですが、100回くらいメロディーを聴いていたら「ピジョンブラッド」というストレートなワードを入れられるな、と。GEMCEREYのために書いた感じです。
――そうだったのですね。
倖田:私、あまり物欲がないので、旦那から「プレゼントを選ぶ時にすごい大変」って言われるんです。でも、やっぱりキラキラしたものをもらったら嬉しいじゃないですか。なので、「いらんで? いらんけど光ってたら嬉しいよな」みたいな感じに言うんですね(笑)。その「ほしいとは自分から言わないけど、わかるよな?」というニュアンスを、「好きって言わへんけど、知ってるやろ?」ということにつなげて書いてみました。
――なるほど! 歌詞ももちろんですが、歌い方もすごく好きでした。
倖田:サビが全部ファルセットの曲なんて、倖田來未史上ないんですよ。デモを聴いた時は男性がハイトーンで歌ってらっしゃって、最初は歌えないと思ったんです。全部ファルセットやし、こういう曲は自分の曲になかったので。でも1回レコーディングスタジオで歌わせてほしいとお願いして歌ってみたら「え、めっちゃええやん!」となって。スタッフさんも「新しい倖田來未を見た」と言ってくれたので、トライしてみようという気持ちが強くなりました。
――その一方で倖田さんらしいハスキーな成分も感じられましたし、いつもながらに歌詞もしっかり聞き取れるのもさすがだな、と。
倖田:嬉しい! 倖田來未の曲って歌詞がめっちゃ聞き取りやすいのが特徴でもあるんです。でもこの曲は、歌詞が聞き取りづらいかもなという声域だったので、ちょっと不安もあって。でも、良かったです。今、ディナーショーをやっていて、そこで初披露をさせていただいたのですが、ディナーショーのラグジュアリーな雰囲気にもすごく合う楽曲だと感じました。倖田來未を上質な女性に格上げしてくれる曲ですね。
――リリースしたこの季節にも合っていますよね。
倖田:素敵なタイミングでリリースさせていただきました。昨日ね、松浦(勝人)会長とお話をして、今どれくらいのペースでリリースしているか聞かれたんですよ。「年に2枚くらいシングル切って、アルバムを1枚くらいですかね」と答えたら、「24年もやっているアーティストがそんなペースでリリースしているなんて、他にいないよ」と言われて(笑)。変わらない速度で楽曲づくりをさせてもらっていることに感謝ですよね。ほんま幸せなことやし、恵まれているなと思っています。
――しかも、新しい倖田來未が見える作品をリリースし続けているという。これだけ長い期間進化し続けられている理由はどこにあるのでしょうか?
倖田:旦那のおかげかもしれませんね。私、好きな曲しか聴かない人だったんですよ。でも旦那は本当にいろんな曲を聴く人で。それこそ毎日のようにBillboardランキングのプレイリストを聴いていますし、世の中で広く聴かれている曲やいろんなジャンルのプレイリストも聴いているんです。それで「この曲、來未ちゃんに合うと思うよ」とか「來未ちゃんこの曲好きなんじゃない?」、「こういう曲歌ったらいいのに」と抜粋して教えてくれるんですよね。好きな曲しか聞かなかった私が、彼のおかげで新しい曲を吸収する機会が増えていっているんです。しかもアドバイスももらえるという。
――うらやましい……!
倖田:彼と出会ったことで、倖田來未の伸びしろが広がった感覚です。しかも、好きな人がおすすめしてくれたら、聴いてみようと思うじゃないですか。好きな人だった「今から聴くわ!」みたいな(笑)。すると「次のライブのオープニングはこういう曲歌いたいな」となってくるんです。そこから「演出はこうしたい」とアイデアが広がっていくという。それが進化し続けられている理由かもしれません。
――素敵な関係で憧れます! では最後にアニバーサリー・イヤーをどんな気持ちで向き合っていこうと考えているかを教えてください。
倖田:笑いたい! 2024年は悲しい思いをたくさんしましたが、きっと後々「あの時の私は間違っていなかった」と思えるはず。2024年を乗り越えたことで精神的にも強くなりましたし、2025年は前向きに、笑い飛ばしながら進んでいきたいですね。私ね、嫌なことは引きずってしまうタイプなので、できるだけ寝たら忘れるようにしているんです。その代わり、いいことも忘れるんですよ。さっき囲み取材で「デビューからの間で印象に残っていることはなんですか?」って聞かれていたじゃないですか。もうね、忘れちゃってるんです(笑)。何やってもすごいって思うんやから!
――(笑)。
倖田:忘れてしまったことも、あえて封印してきた気持ちも、いろいろありましたけど、性格上楽しいのが好きなのでね。2025年はみんなと一緒に楽しく、1日1日過ごしていきます!
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