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<インタビュー>中島健人 プロジェクト “HITOGOTO”で大事にした「他人事にしない」ということ、その根底にある信念
Interview & Text:高橋梓
Photo:筒浦奨太
音楽プロジェクト“HITOGOTO”をご存知だろうか。同プロジェクトは、中島健人が主演を務めるテレ東系ドラマ8『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』から名付けられ、中島自身が歌唱、作詞に参加しているプロジェクトだ。ドラマの主人公である弁護士・保田理の目線、そして中島自身の目線からキャラクターやエピソードに対するメッセージを込めて作詞された楽曲「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」は同ドラマの主題歌にも起用されている。しかも、エピソードが進むにつれて歌詞の内容が変化するという“成長/変異型の主題歌”でもあるのだ。歌詞のパターンは全部で5種類。それが1枚にまとまった作品『ヒトゴト feat. Kento Nakajima』が10月2日にリリースされる。そこで、同プロジェクトについて中島本人にじっくり話を聞いた。
最初に取り掛かったのは
“他人事にしない”こと
――まずは、このプロジェクトが決まった時の率直な感想から教えてください。
中島健人:未開の地を行くような気持ちでしたね。まず、僕はあくまでもフィーチャリングという形で自分を主軸としていないので、どういう見せ方をしていくか話し合うところから始まって。なので、あまり前例がないチャレンジングなプロジェクトだなという印象です。人格は自分だけど、自分じゃない人格も表現できるかもしれない、という面白さも感じていました。
――これまで多くの演技作品をやられていますし、楽曲が主題歌になる『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』でも主演を務めておられるので、表現という面においてもやりやすかったのではないでしょうか。
中島:ドラマ撮影期間中、1週間に1回作詞してレコーディングをするというとてつもないスケジュールだったので、はじめは「大丈夫かな?」と思っていたんです。でも、運が良いことに撮影するエピソードと詞を書くエピソードが被っていたので、すごくやりやすかったです。
――なるほど。ちなみに、このプロジェクトがスタートする際、中島さんはどんなことから取り掛かったのでしょうか。
中島:“他人事にしない”ことです。ちゃんと歌詞を自分で書くことにこだわらせてもらいました。それこそスケジュールが過酷だったので、歌詞を書きたいという話をした時に、スタッフさんから「今回は無理しなくてもいいんじゃない?」と言われたんですよ。でも、僕は言うことを聞くわけがないので(笑)。「俺が好きでやることだから1回書かせて」、と。ディレクターさんや共作したNas1raくんと話し合いをして、ブラッシュアップして。そうやってできたのがオリジナル・バージョンです。
――歌詞を書きたいとご自身でおっしゃっていたのですね。
中島:そうですね。他人事にしたくなかったので。「HITOGOTO」というタイトルとは相反しちゃってますけどね(笑)。
――たしかに(笑)。このプロジェクトは「保田理の目線、そして中島自身の目線からキャラクターやエピソードに対するメッセージを込めて作詞した」とのことですが、それぞれの目線に違いはあったのでしょうか。
中島:ドラマの中の保田のキャラは全く別物ですが、作詞面に関しては保田と僕で差はほぼないです。
――特に「この歌詞は保田と自分の解釈が一致している」という箇所はありますか?
中島:オリジナルだと〈マジョリティにNo No と叫べばいいさ/指先が嘘を撫でる世だから/ヒトゴトでしょ〉というところ。これは、保田の仮面を被った僕目線。保田の体で自分の意見を強く言っているだけです。
――ドラマのスタート前に取材させていただいた時、「保田と自分は近しいところがある」とおっしゃっていて。だからこそ、ドラマのエピソードやキャラへの解釈が一致しているのかもしれませんね。
中島:そうなんです。歌詞は全部「保田の仮面を被った僕」。例えば、〈マジョリティにNo No〉というところで言うと、自らの意思がないと人々は群れると思うんですよ。だから大多数になる。その数の利で少数派を潰してしまうこともあって。でも、意志のない人たちに少数派が潰されてしまうっていうのはあまりにも無惨だなと思っていて。だから〈マジョリティにNo No と叫べばいいさ〉という歌詞を書きました。それは〈指先が嘘を撫でる世〉である、ネットの中で群れている人たちに対して言っているつもりでもあり、この数年の経験で得た自分自身の感情と考え方を反映させてもいて。意志のない人に言われたことで落ち込むよりも、全部“他人事”と考えたほうが楽に生きられるんですよね。それを歌詞にしました。
――その部分はすべてのパターンの歌詞に共通していて、根幹になっていそうです。
中島:その通り。それとちょっと似ているのは、「~for 加賀見灯」の〈独裁的にいばり腕組むのは終了 群れたがってく言葉の虫 自分らしくこれからは無視〉という部分。偉そうにしている方って、人の話を聞いている時もずっと腕を組んでいるんですよね。僕、そういう人が苦手で。そんな思いを込めています。
――強烈なアンチテーゼ……!
中島:あえて強烈に書きました(笑)。しかも、このラップ部分に〈もう勘弁してよ〉という歌詞があるんです。実は全5パターンある中で、唯一ここだけセリフにしていて。セリフにした理由は、僕の根底にあった言葉で、「本当にこういうふうに思ったことがあったな」というテンションにしたかったから。ここで1回、素の“中島健人”が出ています。
――面白いです。先ほど、「保田の仮面を被った僕」ともおっしゃっていましたし、各歌詞を読むことで中島さんが思っていることがわかるという。
中島:(笑)。でも、最近の僕じゃなくて、16年間芸能生活をやってきた中で感じたことかな。総括すると「~for 加賀見灯」は、狭い世界の中でお山の大将になったって意味がない、という歌詞。というのも、灯がドラマの中でパワハラを受けちゃうんですよ。
――マリリンさんこと、赤間麻里子さんにですよね。
中島:そうそう、TikTokで有名なマリリン! マリリンさん演じる村正という上司が、灯が昔に居た事務所の独裁者で。村正に対して灯が思ったことを書いたのですが、その一方で僕の気持ちでもあったりします(笑)。
――なるほど。「~for ヌーヌー」の歌詞もなかなかにエッジが立っています。
中島:「ヌーヌー」の双葉リオ役の野村周平くんがクランクインした時に、「リオってさ、俺じゃなくてケンティーのほうが合ってね?」と言ってきて。たしかに、って(笑)。僕もこの1年半で誹謗中傷を受けて、背負いきれないくらいの火の玉と破片が飛んできた感覚でした。でも、結局スマホの中の世界なんですよね。とはいえ僕も人間ですし、それを目にして何も思わないわけもなく……。その気持ちも歌詞にしました。
――そう考えると、このプロジェクトもドラマも、中島さんだからこそなり得たというか。
中島:意外とハマっちゃったんですよね。SNSでいろんな言葉を見て、いろんなことを考えていた矢先、SNS専門の弁護士の役をさせていただけることになって。ドラマの中でも情報開示請求をバンバンやっていて、散々勉強したのでちょっと強くなれました。
――武器を手に入れた(笑)。
中島:あはは(笑)。僕はアイドルとしてある程度背負うべき責任、アーティストとして意識すべきことがありますが、誰かに背負わされるものでも、押し付けられるものでもないと思っていて。じゃあ、今やるべきことはなんだろうと考えた時、この心情を歌詞にすることなのかなと思ったんですよね。でも、「~for ヌーヌー」の歌詞を書いた時に「大丈夫かな?」と思ったし、最初ディレクターさんにも止められたんですよ(笑)。
――そうだったんですね。
中島:“流れていくポスト”も見てきたし、“反転していく光”も見てきたし。だからこそ、「アイドルって実は人間で、裏表もあるんだよ」って思って。そこから〈アイドルはきっと 悲しみのフィクション?〉という言葉がでてきました。「?」は最初つけていなかったのですが、チームから「せめて“?”だけ付けて!」と説得されました(笑)。
――他にも「~for 黒川大樹」「~for 西村親子」のパターンもあります。
中島:黒川の「小さな笑顔抱きしめて」の部分は、黒川大樹の娘である雪ちゃんのことを意識して書いています。それにプラスして、何気ない日常の笑顔というダブルミーニングで書いたんですね。ディレクターには「伝わらないんじゃない?」と言われたのですが、ソニーさんが作ってくれたリール動画で、この歌詞の部分に雪ちゃんの笑顔と、奥さんの笑顔が使われていて。意図を汲み取ってもらえてすごく嬉しかったです。あとは、〈暗闇の過去 隠したいそっと〉から始まるA’メロの部分。「前に進みたいからしっかり反省をして忘れようとしているのに、周りが忘れさせてくれない」と苦悩している人の気持ちを書きました。
実は泥臭く生きているんです(笑)
――聴く人によって、パパ目線でも第三者目線でも聴ける歌詞ですね。そんな変化していく歌詞もさることながら、歌も素晴らしいですよね。どんな意識のもとレコーディングに臨んだのでしょうか。
中島:たしか、「~for ヌーヌー」の時だったかな。ラップをレコーディングしていたら、ディレクターさんに「アイドルラップだね。もっとHIPHOPっぽい、R&Bっぽいラップも考えてみて」って言われたんです。それが悔しくて。僕、BPMが速めで小節いっぱいに言葉を詰めるラップをする癖があるんです。でも、ディレクターさんに言われてからリズム感を変えたり、歌詞を書き直したりして。1回ブレイクを作ってからまくしたてる、というような波を作ることを意識しました。他のバージョンでも3連符を入れてみたり、「BPMを遅めでラップをしたらどうなるんだろう?」と試してみたり。今回のレコーディングですごく学びがありました。
――新しいスタイルを作る上で、何かリファレンスを聴いたり?
中島:それが、リファレンスを聴く時間がなかったんです。なので、自分の引き出しを開けて形にしていきました。たとえばエミネムの「Lose Yourself」って、アップダウンがあって波があるじゃないですか。そう考えると、僕のラップは一定だなって。それで、頭の中にある様々なラップスタイルを引っ張り出して、楽曲に当てはめてレコーディングしていきました。
――中島さんは何でも器用にこなしてしまうイメージだったので、苦戦していたことに驚きです。
中島:実は泥臭く生きているんです(笑)。すごく大変でしたけど、いろんな学びがありましたね。だから今、思い出のアルバムをめくっている感覚です。「俺、頑張ったな~」って(笑)。
――努力の結晶ですね。そして「~for 黒川大樹」「~for 加賀見灯」はm-floの☆Taku Takahashiさん、「~for 西村親子」はMONJOEさんが編曲をされています。新たに編曲されたトラックを聞いていかがでしたか?
中島:だいぶ印象が変わりましたよね。例えば、「~for 黒川大樹」だと歌詞が結構重いじゃないですか。でも☆Takuさんの軽快なトラックのおかげでうまくバランスが取れたと思います。これでトラックも重かったら暗い曲になっちゃいますから。歌詞には闇があるけど、☆Takuさんのトラックで光が見えるようになった気がします。
――MONJOEさんのトラックはいかがですか?
中島:僕、2年前にも一緒に楽曲を作ったことがあって、昔から付き合いがあるんです。MONJOEさんって、何でもできる方なんですよ。一緒に作った時も、僕の鼻歌を汲み取ってその場でどんどん調整していってくれて。今回は特にオーダーをせずに好きなように作っていただいた結果、☆Takuさんとはまた全然違った、MONJOEさんらしいアレンジになっていたので流石だなぁ、と。オシャレでネオンの光源が見えるような、ちょっとニュー・ミュージックっぽいイメージというか。
――夜のタクシーの窓から見る風景、みたいなイメージでした。
中島:そうそう! チルな感じですごくおしゃれになったと思います。
――そして、ミュージックビデオも公開されました。撮影中印象的だったことはありますか?
中島:(笑いをこらえきれず)初めて人のキスシーンを間近で見ました(笑)。監督のYERDさんが俳優さん達に「もっと情熱的にしてほしい」と言っていて。でもそのふたり、その日が初対面だったみたいなんです。それなのにかなり熱烈なキスを後部座席でしていて、「この人たち、すげぇな!」って(笑)。僕はドラマで経験があったので「あ、こう見られてたんだ」と思ったらもう、恥ずかしくて仕方なくて。その表情がMVにも出ています(笑)。
――まさかのエピソードでした(笑)。
中島:もちろん、他にもありますよ! タクシーの運転手って、ほぼお客さんを選べないじゃないですか。自分のポストに対して突如予想外のゲスト(反応)がやってくるSNSのように、タクシーの運転手もいろんな言葉を背中で聞いたり、人の喜怒哀楽を感じたり。このMVにはそういうことも反映されていると思っています。あと、面白いなと思ったのが、全キャストが現地集合、現地解散だったんです。熱烈なキスをしていたカップルが去ったら、「続いてはギャル集団です!」ってギャルと男の子のグループがタクシーに乗ってきて、撮影して、そのまま帰っていくんですよ。それが本当のタクシーみたいで、少しだけ職業体験ができて面白かったです。しかも、その様がSNSでいろんな言葉を受け取っている感覚と似ていて、すごく印象に残りました。
ヒトゴト feat. Kento Nakajima / HITOGOTO
――なるほど。
中島:実はこのMVってスマホがほぼ出てこないんですよ。というのも、SNSだけに限りたくなかったというか。教室で独りぼっちになってしまった子、周りからの嘲笑を受けている方に対して「大多数に負けないでくれよ」「そういう奴らのことは他人事でいいんだよ」というメッセージにもしたかったんです。SNS社会に対しての風刺でありつつ、応援歌でもあるという。
――そう考えると、歌詞の世界観を広げたMVなんですね。
中島:そうですね。あと、監督のYERDさんが本当にセンスのある人で。パフォーマンスMVも撮っていただいたので、そちらもぜひ見ていただきたいです。
――MVとパフォーマンスMVでメッセージ性の違いはあるのでしょうか?
中島:僕は、(パフォーマンスMVは)MV本編で描かれなかったアナザーストーリー、サイドストーリーだと思っています。パフォーマンスMVの最後でタクシーに帰っていくのですが、MV本編の途中でパフォーマンスMVのように寄り道して、またタクシーに戻って。MV本編で踊って、最後はタクシーを捨てて自分らしく生きていく、みたいな。
――なるほど!
中島:他にも捉え方があるかもしれないので、それぞれ考えながら見てみてほしいです。カメラマンさんもワークがすごかったなぁ。めっちゃチャーミングな人だったんです。映像の中にカメラマンさんの影が入っちゃった時があったのですが、撮影中に「あ、影入った!」とか、普通に叫ぶんです(笑)。さらに、バミり(目印)のコーンも蹴り飛ばしまくるから、どこがセンターかわからない(笑)。自分を信じて踊り切るしかなくて。その後、YERD監督が「オッケーです!」って(言っていて)、「オッケーじゃねぇわ!」って思わずツッコみました(笑)。でも、とっても素敵なチームでした。また撮ってほしいです。
「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」Performance MV / HITOGOTO
常に何かを追い続けていたいんです
――次回作も楽しみです! そして「HITOGOTO」は、「『他人事』ばかりがあふれる社会を人間らしくサバイブしていく様を歌った一曲」とのことですが、現代をサバイブしていくための中島さんのモットーを教えてください。
中島:満たされてはいけないこと、かな。満たされるとそれで終わる気がしています。“満たされないことが幸せ”って最近は定義していて、常に何かを追い続けていたいんです。そのほうが楽しいですからね。いつまでも自分の才能を磨き続けられるし、いつまでも何かを追い求められる。なので、仕事っていうのはやっぱり素晴らしいことなんですよね。目標があることは素敵。自分にちょうどいい刺激を追い求めることが、サバイブしていくうえでいちばん必要だと思います。
――中島さんはこれまでいくつも目標を立てて達成して、邁進し続けてこられたと思います。目標自体が浮かばなくなることはないのでしょうか?
中島:ない! あるとすれば、最近やりたい髪型が見つからないくらいかな。
――どうやって目標を見つけ続けているのですか?
中島:周りにすごい目標を成し遂げている人がいてくれるからだろうな。素直に「すごい」と思うことをしている人がいてくれてよかったなと思います。
――目標が見つけられない人は、環境を変えてみるのがいいのかもしれませんね。
中島:それ大事! 環境が人を作る、だと思います。環境は人を良くもするし、だめにもする。体が動かなかったら、とりあえずジムに行くなどの予定を入れたほうがいいです。僕もそう。予定がないと、家でファストフードをデリバリーしてずっとダラダラしちゃいますから。でも、昨日ゲッターズ飯田さんに太りやすい星があるって言われて。気をつけないと!
――(笑)。では最後に、“アーティスト・中島健人”としての今の目標を教えてください。
中島:アニメ主題歌にもっと挑戦したいです。アニメが好きなので、アニメの世界観から抽出した自分の言葉に出会うのが楽しみ。アニメと関わることでいい化学反応を起こしてみたいです。
――というと、今後もコンスタントに作詞をしていくスタンスなのですね。
中島:もちろんです。詞も曲もやっていきたいと思っています。まずは曲を作って、それが国内外に届けられたらアメリカの歌番組にも出たいですね。タイムズスクエアで歌いたいし、アメリカのフェスにも出てみたい。将来的に必ず成し遂げたいと思っています。
リリース情報
関連リンク
- HITOGOTO 公式サイト
- 中島健人 スタッフ公式X
- 中島健人 公式Instagram
ジャケット¥57,200、シャツ¥36,300、パンツ¥31,900(全てsemoh/Bureau▲Ueyama▲inc./TEL:03-6451-0705)、その他スタイリスト私物
ヒトゴト feat. Kento Nakajima
2024/10/02 RELEASE
SECN-1510
Disc01
- 01.ヒトゴト feat.Kento Nakajima
- 02.ヒトゴト for ヌーヌー
- 03.ヒトゴト for 黒川大樹
- 04.ヒトゴト for 加賀見灯
- 05.ヒトゴト for 西村親子
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