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2025/04/24 18:00

<ライブレポート>由薫と過ごす様々な色の“夜” 憧れの場で迎えた【Wild Nights】ツアー最終日

 由薫がEP『Wild Nights』を引っ提げた全国ツアー【YU-KA Tour 2025 “ Wild Nights”】を開催、3月のインタビューでツアーへの意気込みを語ってくれたシンガーソングライターは、大阪・名古屋を回ってエネルギーを蓄え、憧れの会場だったという東京・LIQUIDROOMでツアーファイナルを迎えた。

 『Wild Nights』は、スウェーデンで現地のアーティストとともに制作した楽曲を、“夜”をテーマにまとめ上げた1枚だ。歌やサウンドで新しい領域に挑戦すると同時に、詞に描かれているのは“夜”だからこそ向き合える野性や渦巻く情熱。よりパーソナルなところから生まれた楽曲たちが、ライブという場でどう表現され、どんなふうに変化するのか。観客はもちろん、彼女自身もその化学反応を楽しんできたのだろう。LIQUIDROOMでのライブは、進化した由薫の歌と音楽を堪能し尽くす一夜となった。

 始まりを告げたのは、音楽ではなく、由薫がエミリー・ディキンソンの詞を朗読する声。エミリー・ディキンソンは、由薫が敬愛し、『Wild Nights』という言葉を引用した詩人だ。英語と日本語がオーバーラップするなか、不思議な浮遊感とともに由薫の世界に招かれていく。

「今夜、この船をあなたという桟橋に繋ぎ止めておきたい」

 この言葉を合図に、「Dive Alive」がスタート。囁くような第一声から、由薫の繊細かつ芯のある歌声に耳を奪われた。深い青色を基調とした照明で“夜”を纏うステージに、少しけだるげな声が優しく響く。

 一方、ギター、ベース、ドラム、キーボードからなる生バンドのグルーヴが加わることで、楽曲には音源とはまた違う躍動感が宿っている。最初は少し緊張感を持って中央に立っていた由薫も、次第に身体全体でリズムを取りながら歌い始め、グルーヴを味わっている様子だ。TBS系金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』の主題歌「Sunshade」から、力強い意志を刻んだ「Silent Parade」に繋ぎ、どんどん熱を帯びる歌声と壮大なメロディで観客を巻き込んでいった。

 “夜”と言っても、ただ心地良いだけではない。「来ていただいたからには、激しい嵐の夜も味わってもらえたら」と投げかけ、情念が立ちのぼるラブソング「Fish」「Mermaid」を続けて披露。インタビューで、「Fish」の“オトナになった私バージョン”が「Mermaid」だと明かしていたが、連続でパフォーマンスされると愛の表現方法の違いが改めて面白い。

 その後も、2023年発表の「ミッドナイトダンス」、2024年発表の「勿忘草」など、過去の楽曲が“今”の由薫の声を通して新しい色に染まっていく。由薫が歌う“夜”と言えば外せない「星月夜」では、ピアノの音色に寄り添うような表現から、だんだんのびやかに広がっていく歌声が圧巻。歌い終えた由薫を、ひときわ盛大な拍手が包み込んだ。

 そこから、再び違う色の“夜”が幕を開ける。「パジャマを意識した」というチェックの衣装を紹介したあと、「パジャマパーティをする夜もあるでしょう! ここから盛り上がってくれますか!?」と声をかける由薫。オーディエンスが手拍子で応えるなか、「Rouge」の〈♪Na na...〉のパートでシンガロングを煽ったり、バンドメンバーによるソロ回しを盛り込んだり、ステージと会場の一体感が増していく。さらに、『Wild Nights』のなかで異彩を放つパンクナンバー「1-2-3」では、エレキギターを構えた由薫がアッパーなテンションで歌を届ける。バンドメンバーと向き合って最後の一音を掻き鳴らす姿は、さながらロックバンドのようだった。

 ひとりで過ごす夜から、みんなと過ごす夜へ。序盤の緊張感はどこへやら、すっかりアットホームな雰囲気に包まれる会場を笑顔で見渡し、由薫がツアーへの思いを語った。『Wild Nights』で表現したかったもの、エミリー・ディキンソンの詞から受けた影響、人知れず作品を書き続けたエミリーと同じく由薫も最初はひとりで音楽を作り始めたこと、ライブをしている時に自分の音楽が生きていると感じること。そして、もっとも生きていると感じる夜を今シェアできている幸せ――。そのすべては、きっと今夜の歌からも観客に伝わっていたはずだ。

 気持ちを分かち合ったあと、「みんなとの繋がりを感じながら、あと2曲歌いたいと思います!」と告げ、一人ひとりの顔を見つめながら「ツライクライ」を力強く歌いあげる。間髪入れず本編を締め括ったのは『Wild Nights』の表題曲「Feel Like This」。高まるバンドのグルーヴを一身に背負い、ありったけの思いを込めた歌でLIQUIDROOMを震わせた。

 ヘアスタイルを変え、Tシャツ姿で登場したアンコールはさらに温かなムードに。バンドメンバーを交えたユルいトークとグッズ紹介を挟み、盛大な手拍子とシンガロングとともに「もう一度」で会場に集まった全員との絆を確かめあった。

 ここでメンバーを見送り、ステージにひとり残った由薫から弾き語りツアーがサプライズ発表された。弾き語りが自分の原点であること、声とギターで作る弾き語りライブの魅力を話し、「どうして私はこんなに歌が好きなんだろうって……そのことを大切に考えながらツアーを回りたいと思います」と宣言。喜びに湧くオーディエンスに、“ツアー予告篇”として、弾き語りでの「brighter」が贈られた。伴奏がアコギだけになることで歌声の透明感が増し、バンドスタイルとは異なる響きに酔い痴れる。本人が「弾き語りは心と近い」と語っていたように、弾き語りツアーは由薫の思いがより深く伝わり、心と心で繋がるライブになるのだろう。

 さまざまなサウンドやアレンジへの挑戦を経て、弾き語りという原点に向き合おうとしている由薫。彼女の歌は、まだまだ進化していくに違いない。

Text by 後藤寛子
Photos by 南部恭平

◎セットリスト
【YU-KA Tour 2025 "Wild Nights"】
※2025年4月17日(木)公演
1. Dive Alive
2. Sunshade
3. Silent Parade
4. Fish
5. Mermaid
6. ミッドナイトダンス
7. 勿忘草
8. 星月夜
9. Clouds
10. Rouge
11. 1-2-3
12. ツライクライ
13. Feel Like This
<アンコール>
1. Crystals
2. もう一度

◎公演情報
【弾き語りツアー 2025 “UTAU”】
2025年8月15日(金)広島・音楽喫茶ヲルガン座
2025年8月16日(土)愛媛・萬翠荘
2025年8月17日(日)香川・高松市美術館 講堂
2025年8月22日(金)京都・フォーチュンガーデン京都
2025年8月23日(土)愛知・TT”
2025年9月6日(土)宮城・仙台 カフェモーツァルトアトリエ
2025年9月13日(土)熊本・tsukimi
2025年9月14日(日)福岡・LIV LABO
2025年9月20日(土)石川・金沢もっきりや
2025年9月21日(日)大阪・島之内教会
2025年9月28日(日)東京・スコットホール
チケット料金:自由席(整理番号付)5,000円、自由席(整理番号付)特典付き6,500円、
自由席(整理番号付)ペア割9,500円(すべて税込)

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